日経バイオテクONLINE Special
―第2回― ダイダンプレミアムセミナー レビュー 再生医療を取り巻く最新状況 ~再生医療の現場から~
再生医療の有効性・安全性と臨床応用に向けた課題
国立成育医療研究センター 副所長 再生医療センター長 梅澤 明弘 氏

組織幹細胞を使用した細胞・組織利用医薬品は、細胞の由来により異種(動物由来)、同種(他人)、自己(自家)に分類されているが、移植導入後の免疫拒絶や感染の危険性の回避から自己細胞及び自己組織を中心に開発が行われている。2007年10月に自己培養皮膚「ジェイス」が特定生物由来製品・高度管理医療機器として重症熱傷に対し製造販売承認された。皮膚、軟骨、骨格筋芽細胞、間葉系幹細胞が再生医療等製品として、我が国において承認されている。安全性確保法においては、末梢血、耳介軟骨、脂肪細胞、粘膜上皮細胞、歯根膜細胞、心臓内幹細胞、間葉系幹細胞、筋芽細胞等が厚生労働省再生医療評価部会にて承認されている。皮膚製品「ジェイス」は、患者自身の皮膚を切除し、製品を製造し、自分自身に投与するものだ。重症熱傷の患者に対し、臨床試験を行った。移植後、4週間後の表皮形成率により、製品の「有効性」を、期間中に生じた有害事象によって「安全性」を評価した。

自家培養表皮シートは1975年に米国のH. Green博士によって開発され、1981年から臨床応用が始まっている。現在では「Green型培養表皮」として、熱傷を始め世界中で種々の疾患に応用されている。国内では株式会社ジャパン・ティッシュ・エンジニアリングが厚生労働省からの薬事承認を受け、製造販売を行っている。承認審査は、製品の「リスク」と「ベネフィット」を比較し、総合的に評価する。ベネフィットは「有効性」に関わり、リスクは「安全性」に関わる。有効性および安全性という異なる評価軸にて比較することになる。ジェイスは移植部位に表皮が形成され、皮膚の防御機構が形成されることにより、有効性の評価が理解しやすい。有効性におけるキーワードは「因果関係」である。ジェイスを熱傷部に貼り付け、上皮化を生じ、貼らなければ上皮化しない。因果関係が明白であることは評価に関係する。重症熱傷患者に対し、有効性を確認できたことが大事であったのだろう。

本品は、2016年9月に先天性巨大色素性母斑を対象疾患とする適応拡大が承認された。先天性巨大色素性母斑は生まれつき存在するあざで、1.8~45%の割合で将来悪性黒色腫を発症する。そのうち7割が13歳までに発症し、早期の切除が望まれる。先天性巨大色素性母斑の治療方法には、切除術、植皮術、皮弁形成術、ティッシュエキスパンダーを用いた再建術、レーザー療法等があり、これらを単独または組み合わせることによって行う。しかし、乳児期においてはこれらの治療は困難なこと、大きな手術侵襲や健常部分に新たな傷跡を残すこと、複数回の手術が必要で完治までに長い期間を要することなど多くの問題を抱えている。先天性巨大色素性母斑患者を対象として、キュレッテージのみを行った場合と、キュレッテージとともに自家培養表皮シート移植を行った場合について、過去の文献等を参考として可能なかぎり評価・比較された。評価項目は、自家培養表皮シートをキュレッテージと共に用いることの安全性、および移植後4週間目(22~28日目)の創部の上皮化率とする。また、副項目として、上皮化後1年後(+2か月)の母斑の除去率および肥厚性瘢痕の出現率についても併せて評価された。先天性巨大色素性母斑に対し、早期掻爬術(キュレッテージ)を行い、自家培養表皮シートを移植し、自家培養表皮シートをキュレッテージの際に用いることの安全性や有効性(上皮化率や母斑の除去率、肥厚性瘢痕発生率)について評価された結果、承認された。

再生医療等製品の治験デザインでは、「対象疾患にどの程度のベネフィットを示せればリスクが容認されるか」というバランスが重要である。薬事法は3年前に改正され、再生医療等製品については「条件及び期限付き承認」が導入された。原料が細胞であり、また最終製品が均質でないことより、その特性に基づいた審査の考え方の枠組みが提唱された。均質でない再生医療等製品について、有効性が推定され、安全性が認められれば、特別に早期に条件及び期限を付して製造販売承認を与えることを可能とされた。海外においても同様の制度があり、統計的に厳密な評価が困難な場合において、「因果関係」と「リスク/ベネフィット」によって審査されているように感じる。

再生医療研究では、シーズはアカデミア発で研究を進め、産業界にバトンタッチされるスキームがとられている。アカデミアがさらに医師主導型治験を進め、産業界と開発後期まで連携を行うケースが増えているように思う。アカデミア及び産業界の連携を介して、アンメット・メディカルニーズに応えて参りたい。

再生医療ビジネスの現状と将来展望
株式会社リプロセル 代表取締役社長 横山 周史 氏

当社では、iPS細胞・ヒト細胞などの製造販売を主力に、日本・米国・欧州などへグローバルに事業を展開している。iPS細胞やヒト細胞のビジネスでは、再生医療分野への貢献とともに「創薬応用」という方向性があり、いま世界的にこれが広がっている。創薬プロセスのうち、前臨床段階ではマウスや犬などの動物実験が数多く行われるが、動物実験の結果は必ずしも臨床結果と相関しない。この部分をiPS細胞やヒト細胞に置き換えることで開発プロセスを大きく効率化できる。市場規模を見ても、世界の製薬企業のR&D費用は約7兆円以上、そのうち前臨床のステージは約25%を占めるため、大きな市場ニーズがあると言える。

一方、再生医療の市場は2020年に全世界で2兆円、2050年には53兆円にも上ると推計されている。これはiPS細胞だけでなく装置や培地なども含めた市場規模だが、非常に大きなポテンシャルをもつ産業分野だ。そこではまず再生医療研究を支える試薬や装置などの産業が拡大し、その後次第にiPS細胞などを活用した事業が広がっていくと予想される。こうした状況を踏まえ、当社ではヒトiPS細胞の販売をベースとしたマトリックスを設定し、創薬支援と再生医療の各市場に向け、基礎研究から臨床分野までの網羅的なサービスの提供によってビジネスを拡大していこうと考えている。