日経バイオテクONLINE Special
―第2回― ダイダンプレミアムセミナー レビュー 再生医療を取り巻く最新状況 ~再生医療の現場から~
網膜再生の現状と未来~周辺産業への期待
理化学研究所 多細胞システム形成研究センター(CDB) 網膜再生医療研究開発プロジェクト プロジェクトリーダー 髙橋 政代 氏

医療は今後「予防医療」と「再生医療」という二つの大きな潮流に分かれていくと考えられている。10年前に発明されたiPS細胞は、近い将来に再生医療を担うと期待しているが、未だに世界的に多くの研究者たちが「危険ではないか?」と捉えているような段階にある。そうした中で10周年という節目に、一例ではあるが成功事例を話せることを嬉しく思う。

私たちは2014年9月に、全世界に先駆け、患者本人のiPS細胞由来網膜色素上皮(iPS-RPE)細胞の移植を行った。対象疾患は「滲出型加齢黄斑変性」だ。これは薬物による既存治療法はあるが、何度も再発を繰り返す。また色素上皮には腫瘍リスクがほとんどないこともあり、対象に選んだ。術後2年が経過しているが、症状の進行は止まっており、免疫拒絶や腫瘍形成などの副作用もない。患者の視力自体はあまり上がっていないが、過去の既存治療ではずっと低下していたので満足度のスコアも上がっており、今後に期待している。1例目の臨床研究は「安全性の確認」が最大の目的であり、その意味では目的を果たせたと考えている。

研究は今後、他家RPE移植、すなわち「他人の細胞を用いた移植」へ移行する計画だ。少数の症例しか治療できない自家移植に対し、他家移植は多数の症例のための移植細胞を用意できる。あらかじめ品質を確認した細胞を多くの患者に使えるため、自家移植に比べ費用や時間を減らすことができる。今回の移植には京都大学で準備された特殊な白血球の型(HLA)を持つiPS細胞を用いる。HLAの型が合う患者に移植すれば、網膜細胞では免疫抑制剤を使わずとも拒絶反応が抑制されるという研究結果も出ており、来年にもスタートさせる予定だ。ぜひ成功させて、iPS細胞を多くの人に使える治療に使っていきたい。

私は20年以上前から幹細胞を研究し、これを治療に役立てたいと考えてきた。当初は幹細胞を深く知る研究者が少なく「絶対に無理だ」という意見が大半だった。しかし、たとえば白内障の治療の歴史を振り返ると、30年前には白内障手術は「非常に危険」な手術であったものが、その後の機器や手術法の発達で急速に普及し、現在では安全な治療法として広く認められている。再生医療も必ずそうなると信じている。今はそれほど高い治療効果は期待できなくても、20年後にはきっと有効な治療法になる。そうなるには多様な疾患の状態を対象にした研究が必要だ。それを全部治験でやれば長い時間がかかるが、臨床研究ならずっと早く進めることができる。

再生医療は非常に幅広い分野に関わっており、実用化には細胞や遺伝子の研究だけでなく、CPF(Cell Processing Facility)、細胞製造体制、シート加工、細胞の保存・輸送といった周辺技術の整備も必須条件だ。アカデミアだけでは無理で、企業と一緒でなければできない。最終的には、市場とビジネスが分かっていないとできない研究だと考えている。今後も産業界と協働しながら、再生医療の実用化を一歩ずつ着実に進めていきたい。

再生医療周辺産業の可能性 オープン・イノベーションが再生医療の実用化を支える
ダイダン株式会社 技術研究所 所長 中村 真 氏

当社はCPF(Cell Processing Facility)の設計・施工を数多く手掛け、得意とする光・空気・水の技術を用いて再生医療分野のインフラ環境整備に貢献している。

当社が再生医療の生産環境へ提案しているのが大部屋型のCPFだ。単に大部屋化するだけでは現状の個室型CPFが担保していた感染・取り違い等のリスクが増大するが、当社の要素技術である気流制御を活用した「エアバリアブース(ABB)」を併用することで空気の壁を大部屋型CPF内に形成し、リスク低減とコスト抑制を両立させた。

また、再生医療の普及を担うであろう「自動化」の促進に向けた異業種とのアライアンスを積極的に進めている。たとえば医療機器メーカー(株式会社カネカ)との連携で自動培養装置とABBを組み合わせ、局所的な清浄度の管理を行うことで高効率・省スペース・低コスト・短工期を実現した。他にも培養ロボットの培地交換作業域のみを局所的に清浄環境(グレードA)とするブースをロボットメーカーと共同で研究中だ。

再生医療の一層の普及には様々な業種の知見・技術を活用する「オープン・イノベーション」が有効だ。そのプラットフォームとして川崎市のライフイノベーションセンター内に先進的CPFを備えたオープンラボを今春開設する。完成の暁には、細胞加工事業者をはじめ、製薬・化学・機械・サービスなど幅広い業種の事業者に活用していただき、当社としても共創関係を構築していきたいと考えている。



お問合せ ダイダン株式会社 ダイダン株式会社 技術研究所 担当:中村、長谷川
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