日経バイオテク Online Special

若き研究者たちはバイオキャンプで何を感じ、何を学んだのか。そして、いまの人生にどんな影響を与えたのか。

ノバルティス バイオキャンプ(以下、バイオキャンプ)はヘルスケアの分野でグローバルに活躍する人材の育成を目的に、ヘルスケア関連のビジネスプランを立案する2泊3日のワークショップだ。そのプランは、投資家視点で審査員から厳しい指摘や評価を受ける。参加した若手研究者は一様に「人生が変わった」と口にする。どれほど刺激的なものなのか、参加者、そして審査委員長を務める北野宏明氏に自由闊達に語ってもらった。

座談会メンバー写真

北野 宏明 氏 きたの ひろあき
株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所 代表取締役社長 所長。特定非営利活動法人システム・バイオロジー研究機構会長。沖縄科学技術大学院大学教授。工学博士。バイオキャンプでは2013年から審査委員長を務める。

水沼 未雅 氏 みずぬま みか
わたし漢方株式会社代表取締役。薬剤師・博士(薬学)。京都大学薬学部、東京大学薬学研究科修了。製薬会社、コンサルティング会社を経て起業。バイオキャンプには2011年に参加。

高良 将迅(クリス) 氏 たから まさとし
東京大学教養学部4年生。アメリカ生まれアメリカ育ち。バイオキャンプには2015年に参加し、日本大会だけでなく、スイス・バーゼルで行われた世界大会でも最優秀個人賞に輝く。

山中 雄城 氏 やまなか ゆうき
山口大学医学部医学科5年生。早稲田大学国際教養学部卒業後、日系・外資系企業で5年間マーケティング職を経験ののち、現在所属学部に編入学。バイオキャンプには2015年に参加。

Ankita Jain 氏 アンキター・ジェーン
東京大学大学院工学系研究科バイオエンジニアリング専攻博士課程在学中。インド出身。バイオキャンプには2015年に参加し、日本代表として世界大会にも出場。

異なる意見が新鮮で心地よい

高良 私はこれまで30近くのビジネスコンテストに参加してきましたが、医学部の友人から教えてもらったこのバイオキャンプはほかのどのコンテストとも違いました。まず、範囲をヘルスケアに絞っているところ、それから、事業のアイデアだけでなく、ビジネスプランまで審査の対象になることです。

山中 私は社会人経験者なので、バイオキャンプのような学生が対象のイベントには遠慮がちなところもあったのですが、実際に参加してみると周りは優秀な人ばかりで、真剣に取り組まないとならないなと気持ちが変わりました。意見を率直にぶつけ合う空間は、心地よかったです。

Ankita Jain 氏

Ankita バイオキャンプには、私のようなサイエンスバックグラウンドだけでなく、ビジネスやファイナンスなどさまざまなバックグラウンドを持った人が参加します。同じ課題に対しても、異なるバックグラウンドの人は違う捉え方をするということを実感しました。例えば、ビジネスバックグラウンドの人は、実験の重要性をあまり理解せずそれを軽視しようとし、一方、サイエンスバックグラウンドの人は、スケジュールや財務上の問題がどれほど商業化プロジェクトに大きな影響を与えるか理解していないといった具合です。双方とも歩み寄り、異なる意見の妥結点を見つけていかなければなりません。バイオキャンプは、実際の社会で物事がどのように進んでいくか学べる他にはない機会でした。

高良 私も、ディスカッションを通じてヘルスケアの専門家の考えていること、何に興味を持っているかを知ることができたのは大きな収穫でした。

水沼 未雅 氏

水沼 私はずっと研究室でマウスの相手をする日々を過ごしていたので、参加当日は周囲の熱気に圧倒され、こういう世界もあるのかと目が開かされる思いでした。高良さん、山中さん、Ankitaさんの代ではファシリテーターとしてお手伝いしましたが、自分が参加したときよりもさらにレベルが上がっていて、その中に、参加者としてまた加わりたいと思うほど刺激的でした。

北野 宏明 氏

北野 年々、日本人特有の空気を読むことにはこだわらない、つまり国際的に通用する人の参加が増え、プレゼンテーションや、バイオキャンプでの公用語である英語のレベルが上がっていることは私も感じています。留学生や海外経験のある学生の比率も上がり、多様性が高くなってきました。ビジネススプランについてはデジタル系のものが増えているけれど、質はどうかな(笑)。もちろん、普段は研究室にこもっている人たちが、初対面の人とチームを組んでたった3日間で作るものだから、成熟したものは期待できません。でも、そのプランを審査員は投資家の視線で見るので、かなり厳しい指摘もします。審査、つまり投資委員会の模様は参加者にライブ中継されるけれど、見ている側はかなり盛り上がっているようですね。

座談会メンバー写真

全員 (笑いながら頷く)

Ankita プランの発表会は2日目の夜に1回目、3日目の午前に最終回となる2回目が開催されるのですが、私たちのチームは1回目の後、厳しい批評を受け、かなり悩みました。それほど酷評された経験はチームの誰にもなかったからです。夜中の12時頃、審査員の方に「そのアイデアが実現可能なら、なぜこれまでに実現していないのか」とも言われ、議論の末、新しいプランを考え始めました。私たちは徹夜で取り組み、最終的には元のアイデアとプランを発表し、最優秀チーム賞を獲得することができました。時間のない中での取り組みでしたが、この経験で大きな学びを得たと思っています。

バイオキャンプが“人生の転機”

水沼 バイオキャンプに参加して、私の人生は大きく変わりました。それまでは研究者になるつもりでいたのですが、ビジネスの面白さを知ったことでコンサルタントとしてのキャリアを選び、起業にたどり着きました。ここに至るまでには、バイオキャンプの仲間にも相談に乗ってもらっています。ユニークなキャリアを持つ人の多いこのネットワークは大切な財産です。

山中 雄城 氏

山中 私が今、事業化を検討中の救急車の配車に関するアイデアは、このバイオキャンプのチームで考え出したものです。チームメイトたちに許可をもらって、現実社会への実装に向けて動き出しています。

Ankita 私は、以前から抱いていた起業家になりたいという思いが、より一層強くなりました。

高良 将迅(クリス) 氏

高良 もしバイオキャンプに参加しようかどうか迷っている人がいるなら、応募は“無料の宝くじを買うようなもの”と思ってほしいです。つまり、参加できなくても失うものは何もないし、参加できれば素晴らしい財産が得られるということです。

山中 さまざまなバックグラウンドを持つ人が集まるので、自分と良く似た人が集まる環境にいるときには気づかない、自分の良さに気づけるというメリットもあります。

Ankita まさにそうですね。他の人に指摘されることで「私にはこういう能力があるのか」と発見があります。

水沼 研究室にいるといつもと変わりない3日間もバイオキャンプで過ごすと自分自身の大きな変化を感じます。多くの人にこのことを実体験して欲しいですね。

北野 これからは、サイエンスやテクノロジーの基盤を持った経営者が求められます。新しい技術が短時間に経営に影響をもたらす状況がより顕著になってきています。その中で、正しい経営判断を行い続けるには、経営者自身にサイエンスとテクノロジーの基盤が必要だと思います。ですから、このバイオキャンプは素晴らしい取り組みですし、今後も続けていってもらいたいですね。

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