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研究とは、物事について深く考え、探求すること。その道を究めれば、より良い未来を築くための道筋が見えてくる。
帝京大学には、そんな未来への扉を開こうとする研究者たちがいる。
CAR-T細胞がターゲットとなるがん細胞を攻撃する様子(左)、急性骨髄性白血病(AML)の骨髄像(右)
- 田代 晴子たしろ はるこ(写真右)
- 帝京大学医学部内科学講座血液グループ/研究室 准教授
帝京大学医学部卒業後、同大学院医学研究科血液腫瘍研究室にて博士号を取得(医学博士)。米国Center for Cell and Gene Therapy, Baylor College of Medicineに留学中にCAR-T療法に出会い、CLL-1をターゲットにしたCAR-T療法研究を行う。帰国後、帝京大学医学部内科学講座講師などを経て、2021年より現職。専門分野は造血器腫瘍、造血細胞移植。
- 白崎 良輔しらさき りょうすけ(写真左)
- 帝京大学医学部内科学講座血液グループ/研究室 講師
帝京大学医学部卒業後、同大学院医学研究科血液腫瘍研究室にて博士号を取得(医学博士)。米国Dana-Faber Cancer Instituteに留学中にCRISPR screening研究を行う。帰国後、帝京大学医学部内科学講座助教などを経て、2021年より現職。専門分野は多発性骨髄腫およびその類縁疾患、移植医療。
近年、急性骨髄性白血病や多発性骨髄腫といった血液がんを対象とした
抗がん剤がいくつも開発されているが、完全に治すことは難しく、
再発や薬の副作用などのリスクは依然として高い。
帝京大学医学部内科学講座の血液グループ/研究室の田代晴子准教授と白崎良輔講師は、
臨床の最前線で治療にあたりつつ、
患者さんの負担が少なく効果の高い治療法の確立に向けた基礎研究も行っている。
未だ根治が難しい血液がんを
患者自身の免疫細胞で治療する
血液がんのひとつである急性骨髄性白血病(AML)は、成熟した細胞になる前の未熟な段階の細胞に異常が起こり、がん化し異常増殖することで正常な血球が作られなくなる病気。標準的な治療として抗がん剤治療を行うが、がんの種類によっては抗がん剤が効きにくいことがあり、薬が効いたとしても根治することは難しい。抗がん剤治療により寛解(根治ではないか病気が治まった状態)になり、可能であれば造血幹細胞移植を行うものの、移植の合併症で亡くなったり、移植後も長期的な副作用で苦しんだりする人も少なくない。
そのような中、新たながん治療法として注目を集めているのがCAR-T細胞療法である。患者さんの血液から免疫細胞の一種であるT細胞を取り出し、特定のがん細胞を攻撃するように加工した上で増やし、再度体内に戻して狙ったがん細胞を攻撃させるのだ。日本では急性リンパ性白血病、悪性リンパ腫や多発性骨髄腫に対するCAR-T細胞療法が承認されており、すでに臨床の現場で使われている。
CAR-T細胞の作成と投与
CAR-T細胞療法では、患者さんの血液から採取したT細胞にターゲットタンパク(抗原)と
結合する部位を持つCAR(Chimeric antigen receptor)を発現させて増やし、患者さんの体内に戻す
CLL-1 CAR-T細胞によるAML細胞の増殖抑制
CLL-1 CAR-T細胞を投与したマウスは18日後もがん細胞が増えていない
田代准教授は、AMLのがん細胞に特異的に発現するCLL-1というタンパクをターゲットとするCAR-T細胞療法の確立に向けた研究を行っている。「CAR-T細胞療法は患者さん自身のT細胞でがん細胞を攻撃できることが一番の特長で、薬が効きにくい、または移植をしたけれど再発したという場合でも効果があります。AMLのCAR-T細胞を臨床で応用するにはいくつものクリアすべきハードルがありますが、一つひとつ地道に進めているところです」(田代准教授)
CAR-T細胞は「リビングドラッグ」と呼ばれ、わずかな数でも患者さんの体内で生き続けていれば、再発しそうになった瞬間にがん細胞を撲滅できる。しかし、長期間がん細胞と戦っているうちにT細胞が疲れてしまって効果を発揮しなくなってしまうという問題があるため、田代准教授はできるだけ長く生き続けるCAR-T細胞を作ろうとしている。
数万の遺伝子を一度に解析して
薬剤耐性のメカニズムを解明する
田代准教授とともに新たな治療法開発に向けた基礎研究を行っている白崎講師は、多発性骨髄腫を専門とする。AML同様に根治が難しい血液がんである多発性骨髄腫は、リンパ球が成長した形質細胞という抗体を作る細胞が増殖することで発症する病気である。70歳以上の高齢者が多い病気であるためAMLのように同種移植を行うことは少なく、抗がん剤での治療が中心となるが、治療を続けるうちにがん細胞が薬剤耐性を獲得してしまって薬が効かなくなってしまう。
白崎講師が取り組んでいるのは、多発性骨髄腫を直接治療する方法というよりも、治療効果を高めるカギを探すことに重きを置いている。米国留学中に身につけた「CRISPR screening」という実験ツールを使い、数千万の細胞を解析することで薬剤耐性や治療感受性に関わる遺伝子を見つけ出すのだ。例えば、抗がん剤治療をした細胞の中でどの遺伝子が耐性化を引き起こしているかを特定し、その遺伝子をターゲットとした別の薬(併用薬)を投与して長く抗がん剤が効くようにする。
CRISPR screeningのイメージ
遺伝子編集技術により白血病細胞にウイルスを使いさまざまな遺伝子パターン(ノックアウトやactivation)を行い、
どの遺伝子が薬剤感受性や薬剤耐性に関わるかを調べる
「日本ではまだCRISPR screeningを行っている施設はそれほどありません。帰国後はこのツールを使って解析し、がん治療において極めて重要な薬剤耐性の分子メカニズムを明らかにしようとしています。また、田代先生が研究しているCLL-1 CAR-T細胞の感受性因子を探したり、CLL-1が細胞内でどのように調節されているのか調べたりしています」(白崎講師)
白崎講師の研究は血液がんのみならず、あらゆるがん治療の効果を高めることに有効であるため、学内の婦人科や他大学の血液内科と共同で研究を行っている。
留学をきっかけに基礎研究の道へ
血液がん治療の突破口を開く
田代准教授も白崎講師も血液がんの患者さんの治療をしてきた血液内科医である。現在は治療と研究を並行して進めているが、基礎研究を始めたきっかけには血液内科医としての苦しみがあったと話す。
「留学したのは医者になって13年目でした。その頃には医者として一通りのことができるようになっていましたが、自分の治療によって助けられる患者さんがいる一方で、どんなに努力しても救えない患者さんがいることに葛藤を感じていました。燃え尽き症候群のようになってしまって、一度臨床から離れたいと思って留学したときにCAR-T細胞に出会ったのです。それまでCAR-T細胞の存在も知りませんでしたから、実際に自分で培養して作ったCAR-T細胞が腫瘍を攻撃するのを見たときはとても感激したことを鮮明に覚えています」(田代准教授)
留学先でAMLのCAR-T細胞を作るというミッションを与えられた田代准教授は、AML細胞に特異的にあらわれるCLL-1というタンパクをターゲットにしたCAR-T細胞を作ることに成功。それ以降、現在に至るまでCLL-1 CAR-T細胞の研究に取り組んできた。
白崎講師が留学したのも、医者になって10年ほどだった頃。やはり血液内科医として悩んでいた時期に研究することを決めたという。
「大学病院に務める中、臨床しかしていないことに後ろめたさを感じてもいました。周囲の勧めもあり、思い切って海外で研究に集中して取り組む決心をし、5年間の留学で研究に没頭することができました。当初は別のテーマを希望していましたが、結果的にCRISPR screeningを学んで良かったと思っています」(白崎講師)
頑張るのは細胞と薬
患者さんは頑張らなくていい
AMLも多発性骨髄腫も現時点では簡単に根治できる病気ではないが、研究を進めることで難治性血液がんの克服を目指す。白崎講師の研究では、一部の既に発売されているような抗がん剤ではない薬剤、食品などの中にも、抗がん剤の治療効果を高めるものがあることがわかっている。薬剤耐性についてもメカニズムを明らかにして、長く治療効果が得られるようにしていく。
「私は、患者さんには必ず『頑張らなくていい』と伝えています。頑張るのは患者さんの細胞と抗がん剤です。患者さんが頑張ろうとせず、『あとはお願いします』といって任せてもらえるような医者でありたいと思っています」(白崎講師)
気持ちをリセットすることができる」という
田代准教授が最終目標としているのは「移植を必要としない血液がん治療」。移植認定医でもある田代准教授はこれまでに何人もの患者さんを移植治療で救ってきたが、それと同時に移植治療のリスクも知っている。それだけに移植をせずに治せる治療法の確立は、移植医としての悲願でもある。
「まずはAMLに対するCAR-T療法の確立に向けて、白崎先生とも協力し合いながら少しでも前進していきたいと考えています。治療をしたからといって皆が治るわけではありませんが、ここで治療して良かったと思ってもらえる医療を提供していきたいと常に考えています」(田代准教授)
血液グループ/研究室は2021年4月に発足したばかりだが、学内の他学部、医学部の他診療科、企業とも共同研究を行うなど、着実に歩みを進めている。「1人でも多くの患者さんを救いたい」という思いに突き動かされ、臨床と研究のどちらも充実させるための奮闘が続く。


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