おおつか よしふみ。オーロラガイド。1971年、大阪生まれ。
美術専門学校を卒業後、デザイン事務所に就職。阪神淡路大震災を機に退職し、1996年ワーキングホリデーでカナダへ。一冬をイエローナイフで犬ぞり師の家族と共に暮らし、各地のレースに同行。97年カナダ各地や北極圏を旅行後、帰国。2001年10月よりオーロラガイドとしてイエローナイフへ移住。2009年8月、個人ガイド会社Nanook Aurora Tours (ナヌック・オーロラツアーズ)をスタート。経験とデータをもとにオーロラと天気を予測しながら移動して観測する“オーロラを追いかけるツアー”を催行。

自然豊かなイエローナイフにはオーロラ以外の見どころもたくさんある。凍結した湖を利用したアイスロードや夏のハイキングにうってつけな岩山や滝。いつ訪れてもその魅力を実感できるはずだ。オーロラガイドとして現地で20年生活する大塚佳文氏は、「先住民の知恵や現地の人の温かさにもぜひ触れてほしい」と話す。
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アイスロードで眺める水平線に
「何もない美しさ」を噛みしめる

イエローナイフにはオーロラ以外の楽しみ方もたくさんあります。冬はなんといってもアイスロード。イエローナイフの2月の平均最低気温はマイナス30度、最高気温もマイナス10度と非常に寒く、約2万7000平方キロメートルと世界でも10番目に大きな湖である、グレートスレーブ湖が完全に凍結します。冬の間はその上を歩いたり、車で移動することができるのです。

アイスロードは12月末には完成しますが、そのころはまだ雪を取り除いただけの真っ白な道。それが2、3月になると、日照時間が長くなることによって表面の雪が溶け、氷がきれいに見えるようになります。歩いて渡ることもできますが、おすすめはやはりツアーへの参加です。湖の中ほどまで車で行くと、そこは見渡す限りの水平線。空も星も近く、「何もない美しさ」が実感できるはずです。

イエローナイフに魅せられ移住して約20年。本当にイエローナイフを愛していることがお話からもひしひしと伝わってきた。

夏のオーロラを見にきたら、ぜひハイキングにも挑戦してほしいです。岩場が多いですがアップダウンがないので、初心者でも手軽に楽しめます。市内から車で1時間ほどの場所にあるキャメロン滝は、針葉樹の森に囲まれた、小さいながらも迫力のある滝です。周囲にはトウヒやシラカバ、松などの木が生え、カケスやリス、ヤマアラシなどの野生生物も生息しています。極北の動植物を身近で楽しめると思います。

旅行に来た人に味わってほしいのが、グレートスレーブ湖で取れたマスなどの湖水魚。街中のレストランではフライやソテーなど、さまざまなメニューが用意されています。バイソンのステーキもぜひ一度召し上がってみてください。バイソンはウシ科なので牛肉に近い味わいですが、より野性味が感じられると思います。

凍結した湖の上の雪を払い、車や人が通れる道に整備した「アイスロード」。オーロラの移動観測に適しているだけでなく、集落と街を結ぶ貴重な生活道路でもある。

岩山のハイキングコースを歩いていると、どこかから聞こえてくる水の音。澄んだ空気とキャメロン滝の流れが、日々の疲れを癒してくれる。

観光客に喜ばれるのがノースウエスト準州で扱っているシロクマの形をしたナンバープレート(写真は土産用のレプリカ)。日本で実際に使うことはできないが、旅の思い出として持ち帰って飾る人も多い。

極寒のイエローナイフに根付いた
「助け合って生きる」精神

美しい自然がある一方で、湖が凍るほどの厳しい寒さのイエローナイフの生活には不自由を感じることもあります。寒さのせいで暖房が故障することも多いですし、家の水道が凍結することもあります。でも住民が非常に親切で、困った時はいつでも助けてくれるのです。車のバッテリーが上がった時は、誰かに連絡すればすぐに飛んできてくれます。道に停車しているだけで故障したのかと心配になるらしく、移動型ツアーを始めた当初は何台もの車のドライバーがわざわざ近くに停まって話しかけてきてくれました(笑)。

街頭や目立つ建物がないために観光客が道に迷うこともありますが、「地元の人が声をかけてくれて、タクシーにまで乗せてくれた」という話もよく聞きます。イエローナイフに来てオーロラの美しさに感動し、そして地元の人の親切さに感心するという観光客も多いようです。ここはもともと鉱山として栄えた街ということもあり、アジアやアフリカ、南米からの移民も多いため、「この寒さの中で、人種を問わずに助け合って生きていく」という精神が根付いているのかもしれません。

先住民の暮らしから学ぶこともたくさんあります。私はもともと極北の暮らしに憧れがありましたが、ハンティングして肉を食べ、網を使って漁をする、そんな原始的な生活を目の当たりにすると「これこそが人間の本来の暮らしなのだ」と実感せざるを得ません。自然から頂いたものを無駄にしないという、先住民の精神も大いに見習いたいところ。アザラシを採ったあとは毛皮は服にし、骨は工芸品に。肉だけでなく、目玉まできれいに食べます。自然との関係が深くて、感謝の気持ちが強いのです。

簡素ながら本質をついた先住民の生活は、体験ツアーで垣間見ることができます。以前、伝統文化の体験として「ハンドゲーム」という遊びを教えてもらいました。これはドラムを叩きながら何かを手のひらに隠し、それが右手なのか左手なのかを当てるというゲーム。ルールはシンプルで原始的なのに、これがまた楽しいんです(笑)。こうした遊びや犬ぞり、凍った湖に穴を開けて行うアイスフィッシングや雪の上を歩くカンジキ体験などのツアーも、現地ではいくつも開催されています。

先住民のテント「ティーピー」の中は、極寒の冬でも寒さをしのげて、快適。炎の揺らぎを眺めながら、聞くドラムの音に、しばし時を忘れる。

イエローナイフに移住して約20年。現地での生活を通して、私の価値観も大きく変わりました。1年の半分が冬で、夏の時期は本当に短いのですが、そのぶん日差しの暖かさや夏の貴重さを噛み締めるようになりました。季節感がない場所ですが、暮らしているうちに日照時間の変化でその移ろいを感じることができるように。太陽を眺めながら「そろそろ夏が来るな」と考えるだけで、自然を身近に感じ、感謝する気持ちが芽生えます。

昨シーズンはコロナ禍でお客さんを迎えることができませんでしたが、それでも毎日天気をチェックしては車に乗ってオーロラを見にいき、写真に収めていました。何度見ても本当に飽きないのです。

イエローナイフの良さを一言で表すなら、「何もない良さ」。その反面、都会にはないものが全て揃っています。まっ平な土地に澄んだ空気。鮮やかな朝焼けや夕焼け、そしてきらめくオーロラやダイヤモンドダストがここにはあります。いつか、ぜひこの「何もない」イエローナイフを体感しにいらしてください。

月明かりに照らされたオーロラの美しさも格別だ。何もない場所。でも、オーロラはいつもそこにある。

ノースウエスト準州観光局

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