カナダではいま先住民観光が盛り上がりを見せている。アルバータ州にある、先住民メイティの歴史と文化に触れる「メイティ・クロッシング」も注目を集めている場所のひとつだ。現地を訪ねた、野生動物と北米の先住民に詳しい横須賀孝弘氏に聞く。

横須賀 孝弘 氏
番組プロデューサー

1954年、神戸生まれ。東京大学法学部卒。現在、NHKエンタープライズ 制作本部 自然科学番組 エグゼクティブ・プロデューサー。著書『インディアン生活術』(ロングセラーズ)、『ハウ・コラ――インディアンに学ぶ』(NHK出版)、『北米インディアン生活術』(グリーンアロー出版社)、訳書『北米インディアン悲詩――エドワード・カーティス写真集』(共訳 アボック社)、『大平原の戦士と女たち――写されたインディアン居留地の暮らし』(社会評論社)、監修書『北米インディアン生活誌』(社会評論社)など。

メイティとは誰か

メイティについて知るには、カナダの歴史を少し辿る必要があります。いまカナダと呼ばれる地には何千年も前から人々が住んでいました。現在、「ファーストネーションズ」と呼ばれる先住民たちです。

17世紀初め、フランス人の探検家サミュエル・ド・シャンプランが、現在のケベックシティに毛皮交易所を設けます。何の毛皮かというと、おもにビーバーの毛皮です。当時、ヨーロッパで高級帽子の材料として大人気だったのです。

フランス人たちはケベックシティを拠点に、カヌーでセントローレンス川をさかのぼり、オンタリオ湖やスペリオル湖まで行き、そこで先住民から毛皮を調達しました。

そのときに、「森林を駆ける者」を意味するクーリュール・デ・ボワが派遣されます。彼らが先住民の女性たちと結婚し、先住民のなかで暮らすようになります。

やがて、「ボヤジャー」と呼ばれる、カヌーで毛皮などを運搬する人々も奥地に入っていきます。彼らも先住民の女性たちと結婚します。こうした結婚から生まれた子孫が、メイティです。

カナダの毛皮貿易を事実上独占し、現在のカナダをつくったとも言われるイギリス系の「ハドソン湾会社」の関係者たちも、先住民の女性たちと結婚します。この子孫たちは「ハーフ・ブリード」などと呼ばれていたそうです。現在は、ヨーロッパ人男性と先住民女性の結婚から生まれた子孫を総称してメイティと呼んでいます。

©Travel Alberta / Roth and Ramberg

後述の「メイティ・クロッシング」では、毛皮商人たちが行ってきたカヌーでの川下りが体験できる

メイティは19世紀初頭にレッド・リバー地方、現在のマニトバ州を中核とする地方に定住するようになります。農業も営みながら、春と秋には大規模なバイソン狩りをしました。

彼らはバイソンを狩って、その肉を干し、牛の骨髄から出る油などと混ぜて、「ぺミカン」といわれる保存食を作りました。栄養があり、保存も利くということで、メイティは毛皮の生産者というより、ぺミカンの生産者になっていきました。

メイティは、バイソン狩りのとき、集団で動くために厳格な規律を作ったことで、高度に組織化していきます。バイソンは驚かすと大暴走してしまうので、勝手に抜け駆けされたりしたら困るからです。

日本とメイティの意外なつながりもあります。日本で最初の英語が母語の英語教師になった人物がじつはメイティでした。ラナルド・マクドナルドという男性です。日本に憧れて幕末期に米国の捕鯨船に乗り、そこから小舟で漂流者のふりをして北海道の利尻島に上陸します。当時は鎖国していたので、長崎に送られ、そこで英語を教えます。

メイティは白人でもなく、先住民でもなかったため、その狹間で厳しい立場にありました。けれども、1982年に制定されたカナダの新憲法で先住民として認められることになりました。

メイティ・クロッシング

アルバータ州は、メイティの人口がカナダで最も多いそうです。そのアルバータ州にあり、「ナショナル ジオグラフィック」誌でも紹介されたのが、「メイティ・クロッシング」という複合施設です。

重要な交易ポイントだった、ノース・サスカチワン川のほとりにあります。実際に、メイティの共同体があった歴史的な場所です。

©Indigenous Tourism Alberta / Roam Creative

メイティ・クロッシングの外観

メイティの歴史と伝統をメイティ自身が継承するセンターであり、またそれ以外の人々がその文化などを体験する場になっています。

私が訪れてすぐ目に止まったのが、「レッドリバー・カート」でした。メイティ文化のひとつの象徴です。釘を一本も使わず、異なる種類の木材をそれぞれのパーツに活かした荷車です。それで大平原に出かけて、バイソンを狩ったあとはその荷車に載せて、押して帰ってきたのです。その荷車に実際、バイソンの毛皮も載っていました。

メイティの文化は先住民とヨーロッパ人が出会って生まれたものですから、たとえば衣服にしても、先住民が使ってきた毛皮にヨーロッパ風の花柄をビーズで刺繍して、でも仕立て方はヨーロッパ流だったりと、とても興味深いです。北米先住民の靴はモカシンといいますが、メイティのものは花柄で本当に可愛らしいんですよ。メイティ・クロッシングにもそういった服や靴が展示してありました。長老から、メイティの伝統的な刺繍を習うワークショップもあります。

©Indigenous Tourism Alberta / ROAM Creative

メイティの独特な刺繡を学ぶことができるワークショップ

暖かい季節には、メイティが昔していたようにカヌーで川下りをすることができますし、寒い季節には、メイティの伝統的なかんじきでスノーシューイングなども体験できます。

©Indigenous Tourism Alberta / ROAM Creative

メイティの刺繡が施された服と、伝統的なかんじきでスノーシューイングを体験

私が訪れたときは、小さなドーム型の宿泊施設が正式オープンした日でした。そのドームの天井が透明になっていて、なかにはベッドなどホテルの部屋にあるものが揃っているんです。あの辺りは空が澄んでいますし、光害もなく、夜空はとても暗いんです。ですから、メイティが昔観ていたのと変わらない、圧巻の星空やオーロラを眺めながら眠りに就くことができるというわけです。

© Indigenous Tourism Alberta / ROAM Creative

オーロラを眺めながら特別なひと時を過ごす

バイソンの群れにまみえる

私は野生動物が大好きなもので、このメイティ・クロッシングでバイソンを間近で観ることができると聞いて、それをとても心待ちにしていました。メイティ・クロッシングに隣接した広大な敷地にバイソンやエルクの保護地区があり、そこでの「ワイルド・ライフツアー」があるのです。

大平原に適応した平原バイソンの区画、森に生息する森林バイソンの区画、稀少なホワイトバイソンの区画、そしてエルクの区画と分かれていて、車に乗せてもらって、それぞれの区画に入っていき、サファリパークのように動物たちの近くまで行き、車中から観ることができるのです。

私も車のサンルーフを開けてもらって、そこから上半身を突き出して動画を撮影しました。

@Yuki Fukaya

身を乗り出してバイソンを撮影する横須賀氏

バイソンは北米大陸に太古の昔からいた野生動物です。しかし、西部開拓が進むにつれ、1860〜70年代に絶滅寸前になります。

アルバータ州ではエルクアイランド国立公園やこの保護地区などで、バイソン再導入が進んでいます。

お話してきたように、バイソンはメイティを含む先住民にとって非常に象徴的な動物です。なかでもホワイトバイソンはメイティにとって特別な存在です。先住民もバイソンも、ヨーロッパ系の入植者によって土地を奪われた過去がありますが、先住民観光の高まりと軌を一にして、どちらもかつての力強さが回復されていく途上にあるのです。

© Indigenous Tourism Alberta / ROAM Creative

メイティにとって特別な存在のホワイトバイソン

ですから、メイティの歴史と文化を継承する場所で、本物のバイソンが群れをなして悠々と闊歩しているのを間近で観られるというのは、とても貴重なことなのです。

ナショナル ジオグラフィック誌の「2023年にゆっくり旅したい世界の旅先トップ5」にメイティ・クロッシング含むアルバータ州の先住民観光が入ったのも不思議ではありません。

カナダをメイティ含む先住民の視点から旅し直してみると、これまでとはかなり違った地平が見えてきます。先住民に導かれて「カナダの、その奥へ」出かけてみてはいかがでしょうか。