
カナダ西岸の列島ハイダ・グワイ南部にあるグワイ・ハアナスでは、その自然と文化が長年、世界に類を見ない形で保護されているという。カナダ観光局の半藤将代氏に聞く。
半藤 将代 氏
カナダ観光局
1999年カナダ観光局に入局後、メディア広報やコンテンツ・マーケティングに取り組んだ。2015年カナダ観光局日本地区代表に就任。カナダ観光の通年化や新たなデスティネーション開発に取り組み、現在はニューノーマルにおける新しい観光のあり方を追求する。21年11月に『観光の力(日経ナショナルジオグラフィック社)』を上梓
ハイダ・グワイに惹かれて、じつはもう3度も旅しています。大地も海も植物も動物も人も祖先も、すべてはつながっているという感覚に満ちた場所です。神秘的というか超自然的というか、しっくりくる言葉がまだ見つかりませんが、訪れるたびにもっと深く知りたいと思うのです。だから、私はまたハイダ・グワイに行くことになるでしょう。
🄫Parks Canada/ Peter Moore
野生のクマを間近で見かけることも
ハイダ・グワイの一部であるグワイ・ハアナスは、また違った意味で特別な場所です。先住民のハイダ族とカナダ政府による土地と海の共同管理が30年間も続けられているからです。グワイ・ハアナスの正式名称はとても長く、「グワイ・ハアナス国立公園保護区、国立海洋保護地域、ハイダヘリテージサイト」です。
カナダの国立公園を管理する政府機関パークス・カナダの担当者によれば、グワイ・ハアナスは現在、山頂から海底にいたるまで完全に守られています。ハイダ族が主導し、1985年にまずこの場所を「ハイダヘリテージサイト」に定めたからです。この共同管理という形がいかにユニークかを理解するには、この列島の歴史を駆け足でたどる必要があります。
🄫Parks Canada/ Rogier Gruys
ハイダ・グワイの豊かな自然を満喫できるツアーは観光客に人気
この列島にはハイダ族が1万3000年以上も前から暮らしてきました。ハイダ族といっても単一の国ではなく、多くの国々に分かれていました。
17世紀末にヨーロッパ人がやってきたとき、列島には少なくとも2万人が暮らしていたとされています。外部から天然痘やはしか、結核などの伝染病が持ち込まれて、人口が激減し、18世紀末までに、生き残ったハイダの人々は600人を下回ったと推定されています。人々はいくつかの村に集まって住み、多くの集落がうち捨てられました。
🄫Parks Canada/ Peter Moore
祖先が残したトーテム・ポール。朽ちかけているが、修復をせずに自然に還るようにハイダ族は見守っている
20世紀に入ると、欧州や米国、日本からの鉱業、林業、漁業などの業者がやってきて、列島の豊かな天然資源を搾取するようになります。
ハイダの人々は祖先の土地にある森林を守るために、1970年代から独自の保護活動を始めます。1985年には、先ほど申し上げたように、ハイダネーションが現在グワイ・ハアナスとなっている一帯を、ハイダヘリテージサイトに指定し、封鎖します。にもかかわらず林業者の侵入が続きます。1987年になって、ようやくカナダ政府とブリティッシュコロンビア州が基本合意書に署名し、その翌年に合意が結ばれたことで、この一帯が国立公園保護区になる足がかりになりました。
🄫Parks Canada/ Rogier Gruys
ハイダ・グワイが誇る豊かな天然資源も、かつては搾取の対象だった
1993年、カナダ政府とハイダネーション議会の間で結ばれた「グワイ・ハアナス合意」に基づき、「列島管理委員会」が立ち上がります。そこから共同管理が始まったのです。2010年には、水産海洋省もこの委員会に加わり、海域も含めて共同管理下に置かれることになります。こうした複雑な経緯と保護の度合いが、グワイ・ハアナスの長い正式名称には表されているのです。
列島管理委員会のメンバーはハイダネーションから3名、パークス・カナダと水産海洋省から3名で、会議を毎月2回開いているそうです。大きな方向性から現場での日々のオペレーションまで、すべてをコンセンサスで決めているとのことでした。
共同管理について話を聞くためにパークス・カナダの事務所を訪れたとき、「Good people Working Together(善人は共に働く)」といったキャッチフレーズが壁に大きく書かれていて、やはり信頼関係の構築が根本にあるということを実感しました。
カナダではいま、これまで国家が先住民に対してしてきた過ちと正面から向き合い、和解していこうという動きが盛り上がっていますが、グワイ・ハアナスではずっと前から、具体的な形で和解が進められてきたと言えるかもしれません。
この共同管理をとおして、断たれてきたつながりがよみがえってきています。ハイダの人々が祖先の土地や伝統と再びつながり、先住民とカナダの人々がつながり、またこの場所と、たとえば私のような外からの旅人がつながるようになったのです。
🄫Parks Canada/ Stephanie Fung
ハイダの人々は閉鎖的になることなく、外からの旅人も歓迎する
さらには、これまで対立するものと思われてきた先住民の世界観や知恵と、西洋発祥の自然科学的なアプローチが、補完し合うという新しいつながりも生まれています。グワイ・ハアナスでなされている発掘調査は、まさにその好例です。ハイダの口伝も最近の考古学的な研究もともに、ハイダ族がこの地に何千年も前から暮らしてきたことを裏づけているからです。
2018年に発生したハリケーン並みの強風で、長らく眠っていた遺跡が発見された
とくにハイダの人々が立てた「ウォッチマン」は、そうしたさまざまなつながりの回復を象徴する存在です。ウォッチマンはいまふたつの役目を果たしています。ひとつが、土地と海の守り人です。もうひとつが、この場所のストーリーを訪問者と分かち合う役目です。旅人をもてなし、語ることが、彼ら自身が過去とのつながりや先住民としての誇りを着実に回復していくうえで役立っています。
🄫Parks Canada/ Peter Moore
「ウォッチマン」が着用するスタッフジャケットには、ハイダ伝統の紋章が描かれている
カナダでは長きにわたる同化政策の結果、先住民が次の世代に言語や文化を継承していくことがとても難しくなっています。でも、こうした信頼とパートナーシップに基づいた安全な環境があるおかげで、若い世代もこの土地と伝統を引き継いでいきやすくなるのです。地球規模で課題となっている持続可能性というテーマでも、グワイ・ハアナスは希望とヒントに満ちた場所だと思います。