カナダのノースウエスト準州にあるイエローナイフは「オーロラの聖地」と呼ばれるほどオーロラ観賞には絶好の地として名高い。そのイエローナイフで冬にだけ出現するという道「アイスロード」で、唯一無二の体験ができるという──HISの大室聡志氏、カナダ観光局の半藤将代氏に聞く。

大室 聡志 氏
株式会社エイチ・アイ・エス

2000年HIS入社。営業責任者を歴任後、2010年からHISロシア法人代表として、7年間ロシア駐在。帰国後、2020年からHIS添乗員同行ツアー「impresso」のブランド責任者。現在、カナダの「とっておき」を体験する旅『Legendary Experience』商品の造成に取り組む。

半藤 将代 氏
カナダ観光局

1999年カナダ観光局に入局後、メディア広報やコンテンツ・マーケティングに取り組んだ。2015年カナダ観光局日本地区代表に就任。カナダ観光の通年化や新たなデスティネーション開発に取り組み、現在はニューノーマルにおける新しい観光のあり方を追求する。21年11月に『観光の力(日経ナショナルジオグラフィック社)』を上梓

爆発的なオーロラ

大室 イエローナイフは、「奇跡の土地」です。オーロラベルトの直下にあってオーロラが一年中発生していて、かつ晴天率が高いため、3日滞在すれば9割ほどの可能性でオーロラを観られるからです。それが北欧などと決定的に違うところです。さらに山がほぼないので、オーロラを遮るものがなく、空全面に広がるオーロラを見ることができるのも特徴です。

イエローナイフにはオーロラ観賞に最適なシーズンが秋(8月中旬〜9月末)と冬(12月〜4月)とありますが、2月や3月がベストかもしれません。夜が長いのでオーロラに出逢えるチャンスが増えます。

オーロラの情熱的な“ダンス”をひとたび目にすれば、その感動を誰かに分かち合いたくなるだろう

私は3月に4日間滞在しましたが、そのうち3日も観られましたし、爆発的なオーロラにも遭遇できて圧巻でした。

北のほうから白い色のがふわーっと出てきて、それが濃くなり、緑色になりました。そのうちに、燃え立つような蛍光ピンクの色をしたオーロラが空一面に激しく揺らめきはじめました。それはオーロラが大爆発しているときなんだそうです。ほんとうにラッキーでした。

しかも2時間ほどずっとオーロラが出ていて、それはもう時間を忘れるほど神秘的な光景でした。

オーロラの下を走りたい!

大室 私がロシアで働いていたとき、凍ったバイカル湖の上を走るというバイカル湖マラソンに参加した経験があります。ロシア人だけではなく海外からも多くの参加者が集まって、非常に人気でした。ならば、カナダのオーロラの下で走りたいというニーズもあるに違いないと思いついてしまったのです(笑)。オーロラは観るだけでも感動するのに、その下で走れたらいったいどんな体験になるのかと──。

それでオーロラの聖地であるイエローナイフで「オーロラマラソン」ができないかと現地視察に出かけたわけです。

物は試しと、オーロラが出るのを待っているあいだ、近くの凍った湖の上を走ったりしてみました。

月明かりだけに照らされた氷の上をひとり走る経験は、本当に静かで幻想的でした。そこにオーロラが現れたらもう最高です。

©Yuki Fukaya

満天の星空とオーロラの共演

ただ、それを現地でイベントとして企画したり、ツアー化したりするには、いろいろなハードルがあることも現地視察でよくわかりました。

だったら、「アイスロード」を走ってみるのはどうかと現地で提案されたのです。しかも、そこを毎週走っている地元の方のグループがあるので、一緒に走ってみてはどうかと。

©Mike Lee

毎週土曜日の朝、アイスロードを和気あいあいと走る地元のグループ

冬にのみ出現するアイスロード

半藤 アイスロードは、冬期限定でノースウエスト準州が整備・管理する公道のことです。イエローナイフはグレートスレーブ湖に面していて、冬になるとその湖に厚い氷が張るので、ここは通って安全ですよという道路が決められるのです。

©Mike Lee

アイスロードは、ここで暮らす人たちの重要なインフラ

湖や湿地が多い地域では、通常の交通手段は水上飛行機かボートしかありません。だから、そういったコミュニティに暮らす人たちは、冬になってアイスロードができると、州都であるイエローナイフまで車でやってきて、大きな家具や電化製品などの買い物をしたり、外食をしたりと街がやたら活気づくんですね。冬のほうが逆に移動しやすくなるという直感に反する、興味深い光景が見られます。アイスロードはそれくらい地元の生活にとても密着しているのです。

アイスフィッシングやスノーモービルなどのアクティビティはいままでもありましたが、地元の人たちと一緒にアイスロードの上を走るというのは初めて聞きました。いったいどんな体験だったのでしょうか?

アイスロードを地元民と走る!

大室 イエローナイフの街中にある「Javaroma Café(ジャバロマカフェ)」に土曜日の朝9時に行くと、市民ランナーが各々集まってきます。それでだいたい揃ったら、「じゃあ行こうか」と気楽な感じで出発します。

そこから湖沿いに出て、アイスロードに入り、さらにアイスロードを横切って湖を10~12kmくらいの距離を走ります。本格的なレースではないので、ペースを見ながら、話しながら走ります。

アイスロードのそばにアイスキャッスルという、市民の有志がつくる氷のお城があるのですが、そこで休憩しながら説明を聞いたりと、もうジョギングの延長という感じですね。

地元の住民の有志で作られた氷のお城「アイスキャッスル」

©Mike Lee

極寒の中走るため、眉毛や帽子は凍ってしまう

ランナーは老若男女いて、年齢は20代から上は70歳ぐらいでした。犬を連れながら走る方もいました。走らないで歩く人は、違うルートでゆっくり湖の周りを歩いて戻ってくるようです。

皆さんほんとうに気さくで、「カナダには何日間いるの?」とか「日本に今度行くんだけど、どういうところがオススメ?」とか聞いてくれました。

「昨日は街で何食べたの?」とも聞かれたので、あそこで食べたというと、そのレストランについていろいろ話してくれたりと、走ってるというよりは、おしゃべりしてる感じですね。

10時半〜11時頃、カフェに戻ってきて、コーヒーを飲んだりパンを食べたりしながらおしゃべりして、12時ぐらいに解散という流れです。

アイスロードの上をただひとりで走るのも面白いんでしょうけれど、地元の方たちと話しながら走ることで、すごく記憶に残る経験になりました。

われわれにとってはものすごい非日常ですが、地元の皆さんにとってはそれが日常なのかと思うと、やはり世界は広いな、旅はするものだなという気になりますよね。

これはいいなと思ったことがほかにもあります。地元の方と走っていると、知り合いや友達によく出くわして「ハロー」とか「グッドモーニング」と挨拶を交わすんですね。イエローナイフの街中がコンパクトにまとまっていて、ちょっと入り込めばすぐに顔見知りができる場所なんだなと実感できました。

私も走った日の夜に、ある食事会に出席したのですが、そこで会った方から「あなたも走ってたよね」って言われたんですよ。

©Mike Lee

地元ランナーと一緒に走り終えた大室氏

日本でも市民のランニンググループはありますが、地元民同士で挨拶しながら走る光景ってほとんど見かけないので、とても新鮮でした。

地元の方との近さを感じて、そこに暮らしているような気持ちになれました。ただの観光旅行では得がたい、唯一無二の体験です。

オーロラの下を、宇宙と自然とのつながりを感じながら静かに走るのもよし、アイスロードの上を、街と人とのつながりを感じながら賑やかに走るのもよし。カナダ極北の凍てつく冬に、圧倒的なオーロラと地元コミュニティとの交流で心も体も温まるイエローナイフは、まさに「奇跡の土地」ではないでしょうか。

半藤氏(写真左)と大室氏(写真右)