カナダ西部のアルバータ州には大半の日本人が知らない豊かなウエスタン文化がいまも息づいている。そこで馬と人との深いつながりを体感したというグローバル・ユース・ビューローの柴崎由紀氏に聞く。

柴崎 由紀 氏
グローバル・ユース・ビューロー
プランニング マネージャー

国内外の特別企画ツアーのほか、インバウンドにおけるアートコレクターや建築家の滞日プラン企画・同行など、専門特化したプロジェクトを担当。新しい魅力発見と体験の旅を提案している。

カルガリー・スタンピード

アルバータ州は、カナディアンロッキーとプレーリーが出会うダイナミックな土地です。これまでは日本から飛行機の直行便がなく、ブリティッシュ・コロンビア州のバンクーバー経由で主要都市であるカルガリーに飛んでいました。2023年5月、ウエストジェットによる直行便が就航し、成田とカルガリーを結ぶようになりました。これまでは乗り換えがあったのでほぼ一日がかりでしたが、9〜10時間で行けるようになり、ぐっと身近になりました。

その直行便で、キャノーラの黄色い花が咲き誇る7月にアルバータ州を訪れました。アルバータ州には独自の西部開拓の歴史があり、今回はその歴史と深く結びついた馬をめぐる旅をしてきました。私は日本でも乗馬クラブに所属していたことがあり、馬にはとても思い入れがあります。

アルバータと馬といえば、カルガリー・スタンピードが有名です。カルガリーの街中で毎年7月に10日間開かれる、地上最大のアウトドアショーです。世界中からの来場者は100万人を超えます。スタンピードには英語で動物の群れの暴走や突進といった意味がありますが、カルガリー・スタンピードはそれが転じてロデオ大会になりました。

© Calgary Stampede

1912年から続くカルガリー・スタンピード。大迫力のロデオは最大の見どころの一つだ

スタンピードの会場には、ロデオや馬車レースの歴代優勝者やチームのネームプレートが掲げられていて、同じファミリーネームをいくつか見かけました。おじいちゃんの代から強かったという有名な一族もいるようです。カルガリー・スタンピードの馬車レースが始まって今年で100周年を迎えましたが、やはり馬と人が深く結びついたアルバータのウエスタン文化の厚みを肌で感じました。

スタンピードには国内外からカウボーイと、ロデオや馬車レースの馬をはじめ牛や羊、豚、ロバ、ヤギやニワトリなど7500もの動物が集結します。

© Calgary Stampede

猛スピードで走る馬車のレース会場は、数万人の熱狂に包まれる

屋台もたくさん出ていますし、ワインテイスティングもあれば、アート作品も展示販売されていたりします。ライブコンサートあり、華やかなイブニングショーありと日本の大きな夏祭りみたいに、観光客もいれば、帰省客や地元の人もいるという雰囲気でしょうか。

© Travel Alberta / Colin Way

来場者はカウボーイの衣装に身にまとい、アルバータ・スタンピード名物のパンケーキを楽しむ

ボランティアの数も数千人規模ですし、スタンピード中は街なかで朝にパンケーキがふるまわれたりと、カルガリー市内がスタンピード一色になります。この熱気をぜひ皆さんにも味わってみてほしいと思いました。

※ウエストジェットの成田=カルガリー直行便は季節運航便のため冬期は運休、2024年4月4日より運航再開予定です。スケジュールは予告なく変更される場合があります。

アルバータ・ブーツ

カナダといえばおなじみの王立カナダ騎馬警察(RCMP)の警官が公式のブーツとして履いているのが、「アルバータ・ブーツ」です。

カルガリーのダウンタウンにショップがあり、とても素敵にディスプレイをしています。そのショップに工房が併設されているのですが、ガラス張りになっていて、ブーツを作る様子が見られます。制作工程は240あると聞きましたが、材料にこだわり、ひとつひとつの工程を熟練した職人さんたちが仕上げているのをみて、こんな風に伝統的に作っているところがあるんだなとビックリしましたし、それが魅力だなとも思いました。

© Travel Alberta / Roam Creative

アルバータ・ブーツの熟練した職人が、ブーツを作り上げていく様子

©Travel Alberta / Roam Creative

カウボーイが履くブーツには靴ひもはない。落馬した際に足が鐙(あぶみ)の中にひっかからないようにするためだ

ウエスタンブーツだけでなく、街歩き向きのブーツもあり、とても楽しかったです。刺繍がとてもきれいで一目惚れして、私も一足買ってしまいました。

スタンピードの会場にもアルバータ・ブーツを磨くコーナーがあり、おじさんが一生懸命お客様のブーツを磨いているんです。私が卸したてのブーツを履いてそこを通りかかったとき、「買ったばっかりだから、磨かなくてもいいです」というと、「いや、買ったときこそメンテナンスが大事。塗ったほうがいいから」と丁寧にクリームを塗ってくれて、「これでもう長持ちするからバッチリ」と仕上げてくれました。こうしたちょっとしたことにもウエスタン文化の粋を感じますね。

© Banff Lake Louise Tourism / Paul Zizka

格式ある赤い制服とアルバータ・ブーツを身にまとうRCMPは、カナダ国民からは「マウンティー」の愛称で親しまれている

カナディアン・ウエスタンの心意気に触れる

今回、「サンクスギビング・ランチ」という家族経営の牧場で、乗馬の体験をしました。ドイツからアルバータに移住したご両親が所有していた牧場を、娘家族が引き継いだそうです。

広大な敷地のなかにお家が一軒ぽつんとあり、そこを素敵なゲストハウスにしていらっしゃいます。オーナーが料理をふるまってくれます。

© Travel Alberta / Katie Goldie

ゲストハウスからは広大なアルバータの大地が見える

そこで2時間ほど乗馬をしたのですが、どこまでも続くような牧草地を馬で案内してくれるんです。牛をたくさん放牧しているところに行くと、牛がもぐもぐ草を食べながら、一斉にこちらを見つめるという、まさに牧歌的な風景に出会いました。

広大な大地での乗馬は非日常体験になるだろう

牧場の敷地が3000エーカーと広大で、そのなかにある小川を渡ったり、野の花がたくさん咲いているところに行ったりしました。こちらの状況を見ながら、「大丈夫そうだったら、もっとあっちまで行ってみようか」という感じで、馬上でおしゃべりしたりもしながら、すごく貴重な経験をさせてもらいました。これは日本ではなかなか味わえない、ウエスタン文化の息づくアルバータならではだと思います。

美しいアルバータの山々を背に、乗馬を楽しむ

そういえば、ここでの滞在を終えて次の街へ向かった際に、宿泊した部屋にジャケットを忘れてきてしまったんです。

途中でそのことに気づいたものの、次の予定もあって戻ることも難しく、どうしたものか困ってしまいました。でも、牧場に連絡してみたところ、オーナーの奥様がすでに忘れ物を持って車でこちらに向かっているとのことだったのです。片道2時間半くらいかかる道のりをですよ。

ただでさえ家族経営でやることがたくさんあるのに、それを差し置いてまで届けに来てくださった。こちらは恐縮してしまったのですが、大丈夫よとまったく気になさらない様子で、本当にびっくりしました。でも、こういう心意気にアルバータのホスピタリティ精神を感じ、心温まる思いでした。まさに、「カナダの、その奥へ」分け入る旅になりました。