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第5回ニューロインクルージョン委員会報告、機関投資家ヒアリング

海外投資家の取り組みから学ぶニューロダイバーシティ

第5回ニューロインクルージョン委員会報告、機関投資家ヒアリング 海外投資家の取り組みから学ぶニューロダイバーシティ

第4回ニューロインクルージョン委員会では、海外投資家の視点についてのヒアリングを行った。同委員会は、ニューロダイバーシティ&インクルージョンフォーラムのパートナー企業と外部有識者からなり、第4回目は、1月16日に開催された。

 今回のテーマは機関投資家の視点だ。

 三菱UFJ信託銀行サステナブルインベストメント部のエグゼクティブ・リサーチャー/フェローの光谷健氏に、特に、グローバル投資家の取り組みを話してもらった。

 光谷氏は、三菱UFJファイナンシャルグループが、豪州に本社を置く運用会社First Sentier Groupを買収後、英国の同グループ法人の責任投資チームに出向した経験を持つ。そのため、海外投資家、特に英国の投資家がどのような視点でサステナブル投資を考え、実施しているかに詳しい。

 光谷氏は、そのような自身の経歴を説明した後、「結論として、ニューロダイバーシティは人的資本経営の次の重点テーマとなる」とまず断言した。その理由を「これは一部の社員のための話でもなければ、理念的なDEIの話でもなく、企業価値・競争力に直結する極めて実務的なテーマだから」と説明した。

 各論として光谷氏は、MUFGファーストセンティア サステナブル投資研究所によるダイバーシティに関するレポート「DE&I:ジェンダー そしてその先へ」を紹介。同レポートは、ジェンダー以外のダイバーシティとして、民族性や性的指向、社会経済的背景と共に、障害やニューロダイバーシティを取り上げている。

 DEIで最も重視されるのは、表面的な人口統計学上の多様性ではなく、認知に関する多様性(cognitive diversity)とされており、認知とは、物事の捉え方、判断の仕方、問題解決のアプローチを指す。認知的に多角化したチームは、問題や課題を異なる視点から考えることができ、効率性、創造性、イノベーションなどに有益といわれていることを前提に、レポートでは、「ニューロダイバーシティを認知に関する多様性の中心的要素と位置付けている」と光谷氏。

 神経学的少数派(ニューロダイバージェント)は、幅広い個人差はあるものの、高い集中力や分析力・論理性、創造性・発想力という強みを持つことが多い。一方、日本企業は、労働人口の減少、人材の“稼働率”の向上、高技能人材の不足、イノベーションの停滞などの課題に直面しており、ニューロダイバージェント人材の活躍を引き出すことは、これら日本の企業が直面している課題に対応し得るとした。

 そのような背景から、海外の投資家は、投資先企業との対話において、(1)社内にどれほどニューロダイバージェントが存在するかを正しく把握した上で、彼らのウェルビーイングやキャリア開発の促進に取り組んでいるか、(2)従業員全体に対する障害やニューロダイバーシティに関する啓発としての研修の実施状況、(3)採用時に合理的配慮を実施しているか、などを質問しているという(囲み)。

【海外投資家によるエンゲージメント質問例】

  • • NDに関する従業員サーベイを実施して全体像を把握していますか? その際の配慮の仕組みは?
  • • 障害やNDを持つ人のウェルビーイングとキャリア開発を促進するために、どのようなフレームワークやプロセスが設けられていますか?
  • • 従業員は、障害やNDに関する最新かつ一貫した研修を受けることができますか?(シニアマネジャー、人事担当者、ライン管理職等)
  • • 採用プロセスに、NDや障害を持つ応募者に対する合理的な措置や配慮は含まれていますか?

 一方、日本の企業では、同様なサーベイが普及しておらず、「ニューロダイバージェントの総合的な把握はほぼないのではないか?」と光谷氏は疑問を呈した。また、自己申告率が極端に低い現状も課題と指摘した。そのため、機関投資家が企業との対話の中でこのような取り組みを促進する必要があるとした。

First Sentier Group内の最新取り組み状況

 さらに光谷氏は、First Sentier Groupの施策の現状として、同グループのSenior DE&I ManagerのGenevieve Murphy氏にヒアリングした内容を紹介(囲み)。なお、同グループでは、ニューロダイバーシティ・イニシアティブとして、ニューロインクルージョン(ニューロダイバーシティの包摂)施策が進められている。

光谷氏によるヒアリングの主な結果

Q:最初に組織がニューロダイバーシティ・イニシアティブを開始したきっかけは?

A:2019年に、EMEA(欧州、中東、アフリカ)オフィス内に複数の従業員コミュニティグループが組成され、ニューロダイバーシティに個人的な関わりがあり、この分野に対して情熱を持つ2人のシニアリーダーが中心となり、イニシアティブを開始した。取り組みの具体的な内容としては、アウェアネス(意識)向上のため社員向け教育セッションや、自身の経験(個人や家族)の共有とビジネスで何ができるかの議論。募金活動。外部団体との戦略的連携などを実施している。


Q:会社全体での従業の統計調査の現状

A:2年ごとに、「多様性センサス」を実施。回答は任意だが従業員の約7割が回答している。直近の2024年では、自身をニューロダイバージェント(神経学的少数派)と自認する従業員の割合は5%だった(図1)。ただし、一般に言われている数字(世界人口の約15~20%)と比べると低いと会社側は受け止めている。なお、LGBTQ+は前回の5%から7%に増加。メンタルヘルスの問題があるとの回答は8%、社会経済的地位の観点から低学歴と自認する割合は15%だった。

[画像のクリックで拡大表示]
図1  First Sentier Group内で実施された「多様性センサス」の結果(提供:光谷氏)

Q:ニューロダイバーシティに配慮した主なHR施策は?

A:採用時にニューロダイバージェントに対する合理的配慮を標準化している。また、職場環境や働き方を調整できるよう整備している。加えて、マネジャー向けトレーニングを実施している。特に、英国で人事リーダー向けに行った研修では、ニューロダイバージェントとの会話に自信が持てるようになったとのフィードバックを得た。加えて、ニューロインクルージョンを進めるための組織文化を醸成するため、コミュニケーション規範、相談窓口などを設けている。


Q:日本企業が取り入れやすい施策は?

A:個人的な関心を持つリーダーを特定しサポートした上で、社内での認識を向上させる。また、従業員リソースグループ(ERG)の設立、研修などが取り入れやすいのではないか。

 光谷氏は、ヒアリング内容のまとめとして、「特別なことをしているわけではないが、個々人の管理職に任せていない点がポイントであり、制度と文化の両方で支えることが重要」と総括した。その上で、日本企業がすぐにでもできる3つのアクションとして、(1)従業員サーベイ、(2)合理的配慮の標準・制度化(属人化しないプロセス)、(3)研修の導入、を提案した。

 さらに「ニューロインクルージョンを進めるということは、従業員全員が自身の強みを発揮できる組織をつくるということであり社会貢献ではなく競争戦略だ。投資家にとっては把握していないこと自体がリスク」との考えを示した。

 その後のフリーディスカッションでは、ニューロダイバーシティ・イニシアティブが企業の生産性向上につながるというエビデンスは取られているかが質問として挙げられたが、「研修に対するフォードバックは毎回収集しているものの、定着率や生産性への影響に関する評価はまだできておらず、将来的に、多様性センサスとエンゲージメント調査を統合し、ニューロダイバージェントなどのアイデンティティごとのエンゲージメントスコアを算出していく方針と聞いている」と光谷氏は回答した。

【ニューロインクルージョン委員会委員】
Kaien法人ソリューション事業部ゼネラルマネージャー/シニアディレクター 大野順平氏
PwCコンサルティングシニアマネージャー 吉田 亜希子氏
野村総合研究所ヘルスケア・サービス産業コンサルティング部シニアコンサルタント 木島百合香氏
慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授 石戸奈々子氏
一般社団法人ニューロダイバーシティ協会代表 市田悠貴氏
いちごアセットマネジメント副社長 石塚愛氏
NPO法人えじそんくらぶ代表 高山恵子氏(欠席)
<事務局>
日経BP

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