働く女性たちに伝えたい「3つのC」
変化が急なIT業界において、女性たちがリーダーシップを発揮し、望むようなキャリアを構築していくには、どのようなスキルセット、マインドセット、そしてアプローチが必要だとお考えでしょうか。
チェイス私はこれまで、SAS社内で女性社員のメンター的な役割も果たしてきたのですが、常に伝えていたことに3つの“C”があります。最初のCは「Competence=能力」、次に「Confidence=自信」、そして「Connection=つながり」の3つです。1つ目の「能力」に関して、スキルが重要なのは当然として、「所属する組織から何を求められているのか」「それにどう応えるのか」という視点が欠かせないと思います。現在の社会状況を踏まえると、生成AIについての知識を含めた能力が必要でしょう。
2つ目の「自信」ですが、女性は男性に比べてインポスター症候群に陥るケースが多いという指摘があります。これは「自分の実力を過小評価してしまう傾向」を意味し、困難な状況を乗り越えても、多くの女性は「自分の実力ではなく、まわりがサポートしてくれたから実現できたのだ」と考えがちです。なので、すべての働く女性に対して「自分のやってきたことに自信を持ってほしい」と伝えたいと思います。
自分の能力を信じる。そのマインドセットが、IT業界で成果を積み上げ、キャリアを構築するために必要なのですね。
チェイスその通りです。「能力」「自信」を持った上で意識してほしいのが、3つ目の「つながり」、つまりネットワークづくりになります。これは、社内外、男性女性を含めた人とのネットワークで、私のキャリアを振り返っても大きな意味がありました。同僚、上司がキャリア形成をサポートしてくれましたし、上層部に私の声を届ける力にもなってくれたからです。
社外のつながりに関してですが、私はアメリカとヨーロッパの女性マーケター、CMOが企業の枠を超えて集まるコミュニティに参加しています。マーケットの見方、アプローチの仕方は各社で異なるため、社外ネットワークはとても刺激的で、勉強にもなります。3つのCの意味と重要さを、IT業界で働く女性たちに伝えたいですね。

人材の流動性が低く、1つの企業に長く在籍するケースが多い日本でも、そうしたネットワークづくりは可能でしょうか。
チェイスアメリカでは珍しいかもしれませんが、私は1つの企業、SASに25年間勤務しています。その経験からいえることは、キャリア形成は「階段ではなくジャングルジムのようなもの」ということです。階段を一直線に駆け上がるのではなく、様々な領域に身を置き、経験を重ね、少しずつキャリアアップしていくイメージです。
私も、営業や顧客フォースの企画部門など様々な部署を経験することで、顧客のニーズを多角的にとらえられるようになり、それが現在のCMOの仕事の土台になっています。SASがもともと、社員一人ひとりのパフォーマンスを最大化できるよう、ネットワークづくりを含めて人事面でも取り組みを強化している企業だという点も、私にはよかったと思います。
社内外のネットワークづくりをサポート
御社では、女性のネットワーク構築の支援をされていると伺いました。そこでは、具体的にどのようなキャリア開発、プロフェッショナルとしての活動機会を提供しているのでしょうか。
チェイス社内の取り組みとしては、「Women's Initiative Network(WIN)」があります。これは、当社が初めて立ち上げたインクルージョングループで、私も当初から参加しています。社内の女性社員の個人としての充実、そしてプロとしての成長を支援するコミュニティで、現在約1000人が参加しています。リーダーシップ能力の開発、専門的なネットワークの拡大、特定分野のリーダー紹介、さらには出産後の職場復帰に向けた健康管理プログラムなど、内容は多岐にわたります。最近では、女性のキャリアアップのためのマインドセット醸成を目指したウェビナーも開催しました。
日本法人でも約1年前にWINが立ち上がり、活動を始めています。6月末には、RPA (ロボティック・プロセス・オートメーション)ベンダーのUiPathと共同で「SAS×UiPath DEI Connect~社員が語るキャリアブレイクスルー~」と題したセッションを開催しました。オンラインとオンサイトに、両社の女性社員を中心に120人以上が参加し、女性視点からの職場やキャリア開発における多様性の確保といったテーマでパネルセッションを行い、活発な議論を交わしました。同じIT業界ということで共通課題も多く、実りのあるイベントになったと思います。
社外のネットワークという点ではどのような取り組みがありますか。
チェイス様々な企業で働く女性を対象にした「Women in Analytics Network(WAN)」があり、当社が運営をサポートしています。キャリア形成のためのネットワーキングプログラムで、アナリティクス分野の多様性強化を目的に、アナリティクスに貢献したい、この領域でキャリアを築きたいと考える人なら誰でも参加できます。最近の取り組みとしては、ヨーロッパの企業で働く女性、特に過酷な環境に置かれている女性たちに向けて、健康管理のための様々な保険サービスを紹介する「Women's Risk Program」を展開しました。同じような環境で働く女性のコミュニティ形成を支援し、職場環境の改善につなげられればと考えています。
また、当社では毎年、最新テクノロジーを体験してもらう「SAS Innovate on Tour」という年次イベントを世界中で開催しています。それに伴い訪れる各国で、支援を行っている女性同士の交流の場を持つことができました。WANは、働く女性たちを支援する各種ツールを提供しているという点も、大きな特徴です。
こうしたプログラムへの参加により、どんなメリットが得られるのでしょうか。
チェイスこれまでの方法では得られなかった、社内外の女性たちとの新たな関係を構築できる、というのが大きなメリットになると考えています。その上で、プロとして成長するためのスキルアップにも大いに役立つと思っています。ソフトウエアの活用といった実用面に限らず、プライベートと仕事の両立など、QOLを含め様々な面で女性のキャリア構築のヒントが得られるはずです。
多様性こそが持続的成長のエンジンになる
WIN、WANに携わって、チェイスさんのキャリアにも変化がありましたか。
チェイスWINには立ち上げ当初から参加しましたが、社内で既にポジションを築いていた女性がメンターとなって、人とのネットワーク作りからスキルアップまで、様々な面で力になってくれました。現在は私がメンターの立場となって、若い女性たちとかかわることが多くなり、経験を伝えると同時に私自身も学ぶことがたくさんあります。

職場環境や社内制度は、もともと男性社員を前提に作られた側面があると思います。御社のWIN、WANのように取り組みも、女性社員だけに限られるのではなく、男性社員を巻き込むことで大きな変革につながるのではないでしょうか。
チェイスおっしゃる通りです。例えば職場環境ついて、「女性にとって居心地のいい環境とは何か」を広く、繰り返し発信して、男性に「女性はそういうことに困っているのか」という気付きを与える必要があると思っています。これからのビジネスは多様性(Diversity)こそが力になります。立場の異なる人たちが一緒になり、アイデアを出し合い、力を合わせていくことで会社は強くなり、それが持続的な成長の源泉となるはずです。
企業側、そして働く女性側、それぞれにメッセージをお願いします。
チェイス最近読んだ働く女性に関するとある調査結果では、多くの女性が精神的および肉体的に課題を抱え、ストレスレベルはますます上がっているそうです。配偶者との間の家事分担が不均衡でメンタルヘルスを悪化させる、あるいはキャリアアップの機会が制限されている、などと感じる女性も多いようです。生理や出産、育児に関して会社の理解が進んでいない、という声もまだまだあります。企業には、柔軟な働き方を可能にする労働環境の整備が、より強く求められていると感じます。
女性から見てもテクノロジー領域は進化が急で、出産、子育てなどでインターバルが空くと、なかなか仕事に復帰しづらいという現実もあるでしょう。テクノロジーの進化に常にキャッチアップするため、自分への投資が必要になるケースもあるかもしれません。そうした女性たちには、冒頭で述べた「自信を持つ」ということを改めて強調したいですね。ここまでのキャリアを振り返り、「大丈夫、私ならもう一度できる」と自信が持てれば、新たなキャリア構築に向けて踏み出せるはずです。前述したWIN、WANのようなプログラムを活用し、多くの女性が自信を深め、キャリアを構築できる世界を実現するため、当社もサポートを強化していきたいと思います。



