
ペットは飼い主にとって「心の発電所」
入って健康になる「予防型保険」の実現へ
アニコム ホールディングス株式会社
代表取締役
小森 伸昭氏
「ペットを飼うということは、生き物の自由を奪うということです」と、アニコム ホールディングス代表取締役の小森伸昭氏は言う。
アニコム ホールディングス株式会社
代表取締役
小森 伸昭氏
それでも、私たちはペットと暮らさずにはいられない。だからこそ、人間社会で暮らすペットの苦しみを少しでも和らげ、ペットを愛する飼い主たちを支える必要がある。その使命感から「予防型保険」を目指し、創業した。今年で25周年を迎える。
「ペットは“心の発電所”です。苦しい時、悲しい時、私たちに生きるエネルギーを与えてくれます。飼い主がいなければペットは生きていけないという人は多いですが、それは違う。ペットがいないと生きていけないのは、私たちの方です」(小森氏)。
都市化と少子高齢化が進み、孤独が社会問題になっている。それを解消するために「孤独・孤立対策推進法」が2024年に施行され、政府や自治体が対策に取り組んでいる。そのような中、ペットは社会の発展によって生まれた孤独感の課題を解決できる重要な存在になっている。
全国約3000の動物病院に独自システム
膨大なデータを収集し、病気予防に活かす
アニコムの最大の特徴は、「予防型保険」であることだ。「入って健康になる保険」を掲げている。
基本的な仕組みは人間の健康保険と同じだ。加入すると、ペットの顔写真が入ったカード型の保険証が渡される。対応する動物病院で診察を受ける際に提示すれば、保険でカバーされる料金が自動的に控除され、自己負担分だけを支払えばよい。
つまり、飼い主が自分で保険会社に対して保険金を請求する必要がない。この利便性が評価を受け、ペット保険の市場で大きなシェアを獲得した。2025年3月時点で保険契約数は128万件、年間保険金請求件数は456万件を超える。
この仕組みを堅強なものとするため、アニコム独自のカルテ管理システムを開発し、全国約3000の動物病院に導入している。獣医師は診断や治療の管理に利用できるだけでなく、データを入力するだけで保険金が自動的に計算され、アニコムから支払われる。獣医師と飼い主の双方にとって便利な仕組みだ。
予防型保険と他の保険の違いは何か。病気になってしまったペットの症状は、獣医師が見れば分かる。血液検査や画像診断などを行えば、異常値として観測できるからだ。しかし、予防となると難しい。病気予防の主役は「免疫」という話になるが、今日の技術では、免疫そのものを測る指標はない。
また、免疫力を上げたからといって、絶対に病気にかからないとは言えない。病気になるかどうかは、最終的には確率論になる。だからこそ、保険金請求のビッグデータが重要になる。ペットが病気になる過程や、予防策の効果を統計的に把握、検証しなければならないからだ。「なぜ病気になったのか。データを分析し、二度と同じ病気にさせない予防法を長く研究しています」(小森氏)。
腸内細菌と免疫力の関係性を解明
ペットの病気を予防する糸口を見出す
膨大なデータ分析と独自の研究から、免疫力と腸内細菌の状態に相関関係があることを突き止めた。「腸内細菌の多様性が下がると、腫瘍を含む様々な病気の確率が高まることが分かりました。病気の発症=免疫力の低下というのは、社会的な共通認識です。つまり、多様性は免疫の指標と言えると私たちは考えています」(小森氏)。
アニコムでは、これまで犬60万件、猫20万件の腸内細菌を採取した。そして、採取した日から365日以内に病気になったかどうかを観測し、腸内細菌との関係性を研究している。
研究で得られた腸内細菌の多様性と病気の関係性は、犬種サイズや年齢別に見ても、基本的に同じだった。つまり、腸内細菌の様子を見れば免疫の状態が分かり、病気になりやすいかどうかを評価できる。
アニコムは、保険加入者全員※に年1回の「腸内フローラ測定」を無償で提供している。ペットの腸内細菌の状態を飼い主に知らせるとともに、より多くのデータを収集、分析するためだ。
※一部対象外の商品あり
「腸内細菌の多様性を高める方法は簡単です。多様な食事を与えればよいのです」(小森氏)。毎日同じペットフードを与えていると、次第に腸内細菌の多様性が下がる。逆に、毎日少しずつ違う食事を与えれば腸内細菌の多様性を上げられる。ペットも同じ食事に飽きずに済む。
愛犬の食事をおいしく健康的に支援するため、アニコムはフードの開発も手掛ける。2024年3月に発売した「7Days Food(セブンデイズ フード)」は、普段の食事にトッピングするだけで、腸内細菌の多様性向上を目指せる。
7Days Food(セブンデイズ フード)
全てのペットを健康で幸せにし
最終的には保険の要らない社会を目指す
アニコムは「予防型保険」をテーマにペットの病気を減らそうとしている。しかし、これは本業と矛盾するのではないか。病気がなくなれば、保険も要らなくなるからだ。
小森氏はそれを否定しない。「全てのペットが健康で幸せになり、保険など要らない社会にすることが私の究極の目標です。しかし、それまでには、まだやるべきことがたくさんあるのです」(小森氏)。
新たに取り組んでいるのが、ペットの高度医療を実現するロボット手術だ。2025年2月、医療ロボットの技術を持つリバーフィールド(東京都港区)と契約し、ペット用医療ロボットの設計、製造、AIの活用などで共同研究を始めた。
「高度なロボット手術を導入・実現し、治せなかったケガや病気を治せるようにしたいと考えています」(小森氏)。
アニコムは2025年秋ごろに、このロボットを導入した新しい動物病院を開業する。
近年、ペットの位置付けが大きく変わっていると小森氏は感じている。「災害や戦争などにおいて、命懸けでペットを守ろうとする人の存在は、一昔前は考えられませんでした」(小森氏)。
ペットは今や、人生を支えるかけがえのない存在になっている。「だからこそ、ペットにつらい思いをさせてはいけません。私たちは本気で取り組みます」と小森氏は述べた。


