「世界の衛生・環境・健康に貢献する」ことを企業の使命とするサラヤ。創業以来培ってきた「環境を守る」DNAはしっかりと受け継がれ、世界規模で環境保全活動を継続している。代表取締役社長の更家悠介氏は“サラヤイズム”をどう捉えているのか。同社の取り組みと目指す姿について聞いた。

サラヤ
代表取締役社長
更家 悠介 氏

1951年生まれ。1974年に大阪大学工学部を卒業後、翌年カリフォルニア大学バークレー校工学部衛生工学科修士課程を修了。1976年にサラヤ株式会社へ入社し、工場長、取締役工場長、専務取締役を経て、1998年より代表取締役社長を務める。社業の傍ら、NPO法人ゼリ・ジャパン理事長、大阪商工会議所常議員、関西経済同友会幹事、日本食品衛生協会理事、ボルネオ保全トラスト理事、日本WHO協会副理事長、在大阪ウガンダ共和国名誉領事など、多方面で要職を歴任。かつては日本青年会議所会頭も務めた。環境保全や国際保健活動にも尽力し、2010年に藍綬褒章、2014年に渋沢栄一賞を受賞。持続可能な社会の実現と衛生・健康分野の発展に向け、国内外で幅広く活動を続けている。

人間だけでなく動物や自然環境も守る視点を持つ

サラヤは1952年、赤痢の流行をきっかけに、日本初となる薬用石けん液と専用容器を開発し、手洗いを中心とした衛生事業からスタートしました。手洗いは「感染予防の基本」として、あらゆる分野に通じるとの考えから医療分野にも進出。現在では、医療機器の洗浄や滅菌、マスク・ガウン・手袋といった個人防護具(PPE)も提供しています。

当社は衛生・環境・健康の領域で幅広く事業を展開し、基本理念として「いのちをつなぐ」を掲げています。2012年、会社の60周年イベントの際に社員からの提案でロゴを変更し、この言葉を前面に出しました。常に命をつなぐことを意識しながら事業を行う思いを込めたもので、会社のミッションステートメントの最上位に「いのちをつなぐサラヤ」を位置付けています。

基本理念を「いのちをつなぐ」に変えたのは、環境の劣化が進み、今後も悪化が予想される中、全社一丸となって環境問題に取り組む必要があると感じたからです。人間だけでなく動物や自然環境も守る視点を持ち、それをビジネスにも反映すべきだという思いがありました。

転機になった「ボルネオ環境保全活動」

私は2代目ですが、創業者である父は高度経済成長時代に起きた石油系合成洗剤による公害を非常に問題視し、ヤシの油を原料とする「ヤシノミ洗剤」を開発しました。その考え方は私にもDNAとして受け継がれており、サラヤ自体がもともと環境への意識が高い。そうした背景から、環境問題に関してはグローバルな取り組みが加速しています。

転機になったのは2004年から開始したボルネオにおける環境保全活動です。サラヤでは、1971年に発売した「ヤシノミ洗剤」のように、生分解性や手肌への優しさを重視してきました。しかし、あるテレビ番組の取材をきっかけに、原料の一部に使用しているパーム油が、原料生産地であるボルネオ島の熱帯雨林破壊につながっていることに気づかされ、「どのように対応するか」という課題に直面したのです。

そこで現地の野生生物局に相談したところ、川沿いの森を保全することで環境保全が可能だと聞き、ターゲットを定めたプロジェクトがスタートしました。その際、中立の環境団体として設立したのが、「ボルネオ保全トラスト(BCT:Borneo Conservation Trust)」です。日本でも「BCTジャパン」という団体を立ち上げ、私たちも理事として参加しています。また2019年に設立された「JaSPON(ジャスポン)」にも参加し、「RSPO(Roundtable on Sustainable Palm Oil)」認証のサステナブルなパーム油の調達と普及を推進しています。

2013年に完成した「ボルネオ象・レスキューセンター」開所式の様子

BCTの活動は、生物保全に直接関わる活動です。具体的には川沿いの生息地の確保や象・オランウータンの救出・保護、エコツアーなどを展開し、活動に賛同している商品へマークをつけるなどで活動を周知。我々はヤシノミ洗剤をはじめとする対象製品の売り上げの1%(メーカー出荷額)を寄付して活動を支えています。今では私だけでなく、皆がそれぞれの立場で考え、行動していると実感しています。中にはボルネオを何十回も訪れた社員もいますから。

大阪・関西万博の
「BLUE OCEAN DOME」で海洋保護を支援

世界三大熱帯雨林であるアマゾン、ボルネオ、コンゴは現在も開発が進み、CO₂吸収という地球の「肺」としての役割が脅かされています。最近では海にもより大きな「肺」が存在し、それが甚大な被害を受けていることが分かってきました。当社として直接的に解決できる力は限られますが、事業を通じてステークホルダーと気づきを共有し、できる範囲で啓発や先行的な取り組みを行っています。

大阪・関西万博の「BLUE OCEAN DOME」は、私が理事を務めるNPO法人「ゼリ・ジャパン」が出展したパビリオンで、サラヤがパビリオンパートナーとして支援しています。一企業が展開するよりも多様なプレイヤーが参加しやすいように、この建て付けにしました。

BLUE OCEAN DOMEは海洋資源の持続的活用と海洋生態系の保護をテーマとしたパビリオン

6月の「対馬ウィーク」では、対馬で深刻化する海洋ゴミ問題に焦点を当てました。対馬は日本で最も海洋ゴミが漂着する場所であり、その現状と未来の解決策を発信することが目的です。期間中は対馬市が継続的に企画を担当し、関西経済同友会の方々も参加してシンポジウムを行いました。

漂着する海洋ごみの多さは深刻な問題だ

7月には6日間にわたり「北海道昆布WEEK」を開催しました。高水温や磯焼けの影響で北海道では昆布が取れなくなっているため、昆布の危機的状況や食材としての魅力をアピール。利害関係を超えて“海を守る志を持つ人々”が参加してくれるという点でも、NPOによる主催は意義があります。

BLUE OCEAN DOMEのイベントは海洋汚染だけでなく、海の持続可能性や漁業、観光、さらには海運業においてCO₂排出を抑制する新しい船のイノベーションなどについても議論しています。これらの内容はYouTubeやアーカイブに残しており、多くの方に視聴いただけるようにしました。

ただし、最も大事なのは持続的なアクションです。サラヤ取締役の代島(裕世氏)が代表理事を務める「ブルーオーシャン・イニシアチブ」という団体では、「海」にかかわる産官学民のあらゆるステークホルダーの多面的交流と事業共創を通じて、持続性・実効性ある「海の保全と繁栄」の社会課題解決を目指しています。BLUE OCEAN DOMEと連動して2030年まで活動を続けていく予定です。

BLUE OCEAN DOMEはサラヤが推進する「BLUE OCEAN PROJECTS」の一環です。そのほかの活動には、ゼリ・ジャパンと協働したモーリタニアでの「バブルフィッシング」が挙げられます。バブルフィッシングは漁網を使わない革新的な漁法であり、アンチョビ漁への応用を目指してファンドレイジングも含めた計画が進行中です。

海中に放置された漁網は、海洋プラスチック汚染の大きな要因の一つです。漁網は様々な理由で太平洋や対馬にも漂着し、分解されずに残ります。この網に魚や亀などが引っかかってしまう「ゴーストフィッシング」も発生し、深刻な環境被害をもたらしています。これらの問題に対し、バブルフィッシングは有効な解決策になるはずです。

自社開発の天然界面活性剤が
再生医療の発展に貢献

BLUE OCEAN DOMEでは、当社が開発した天然界面活性剤「ソホロ」も展示しています。サラヤは、自然を汚さない洗剤として「ヤシノミ洗剤」を開発しましたが、より環境負荷の少ない究極の分解性を目指す洗浄剤を開発する中で、微生物が生み出す天然の界面活性剤に着目しました。研究当初は、実現性の難しさから「未来の洗剤」といわれていましたが、天然酵母に油と糖分を与え、発酵させることで生み出すことに成功しました。それが天然界面活性剤「ソホロ」です。

高い洗浄力と生分解性・安全性に優れたソホロ

従来は洗剤に応用してきましたが、その安全性の高さから様々な可能性が広がりました。今後は高度利用も含め、この技術を新たなビジネスの柱として展開していこうと考えています。より付加価値の高い分野、例えば細胞保存液などにも応用しています。

iPS細胞は培養後に冷凍保存しますが、その際に使われる従来の保存液は毒性が強い。でもソホロは毒性が低く、細胞の再生率が高いことが分かっています。この特性を活用し、試薬として使用されています。大阪市にある再生医療拠点「中之島クロス」に当社も研究施設を設け、臨床と融合して実験を進めています。

環境活動のエリート、サラヤが目指すゴールとは

この10年ほどは社会にSDGsやESGが浸透し、以前にも増して活動がしやすくなりました。持続可能な開発という共通のベクトルが確立されたおかげで、自社の取り組みの意義もはっきりしてきました。この潮流は素晴らしいと感じています。

スマートフォンやパソコンが30年後にどう変わるかは分かりません。しかし、我々の事業はエッセンシャルなものであり、社会がどれだけ進化しても変わらない基本的な領域です。衛生・環境・健康を中心とした「いのちをつなぐ」という大きなテーマに向け、ビジネスを有効に活用できる仕組みを探し、運用できるマネジメント力を未来につなげていきたいですね。

サラヤ株式会社

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