
大和ハウス工業が、バイオ系レンタルラボ事業を加速させている。研究施設の単なる場所貸しにとどまらず、入居企業同士の交流を促すソフト面の支援や、地域社会と共生する「まちづくり」の視点を重視している。川崎市殿町を皮切りに、神戸や相模原でもライフサイエンス拠点の構築が進む。
建設業界最大手の大和ハウス工業が、ライフサイエンス分野で存在感を高めている。同社が手掛けるレンタルラボ事業は、単なる不動産開発の枠を超え、研究者たちがイノベーションを創出するためのエコシステムを構築しようとしている。
スタート地点となったのが「殿町プロジェクト」だ。羽田空港の対岸に位置する神奈川県川崎市殿町において、世界最高水準の研究開発から新産業の創出までを目指す国際戦略拠点「キング スカイフロント」。国家戦略特区・国際戦略総合特区・特定都市再生緊急整備地域に指定されたエリアの一部でもある。大和ハウス工業はその中で、4棟のレンタルラボ棟やホテルからなる殿町プロジェクトを展開している。
殿町プロジェクトの全体概要:RGBⅠ‐RGBⅣまでのレンタルラボに加えホテルも加えた大規模プロジェクト
大和ハウス工業がバイオ施設に注力し始めた背景には、同社の強みである「まちづくり」の視点がある。殿町プロジェクトについても、バイオラボ事業への新規参入というよりは、バイオ系産業クラスターの育成を目指すエリアの開発に参画したというのが正確な経緯だ。川崎市の国際戦略特区の中で、市からの要望に応える形でレンタルラボの開発に取り組んだ。
同社が手掛けたのは単なる研究棟の建設ではない。開発コンセプトに掲げたのは「小さなまちづくり」だ。エリア内にある2つの公園を直線で結び、ベンチなどを配置することで、風通しが良く、研究者同士、あるいは地域の方々とも交流できるオープンな空間づくりを目指した。地域共生とイノベーションを両立させるコンセプトが、既存の研究拠点とは一線を画している。
エリア北側に位置する川崎キングスカイフロント 東急REIホテルは、「賑わい・交流」機能を担う中心施設として「遊び」「働き」「泊まる」体験を提供する。また、使用済みプラスチック由来の低炭素水素をパイプライン供給で受け、ホテルで使用する電気や熱などのエネルギーの一部を賄ったり、食品廃棄物由来の電力を使ったレタス栽培や、食品廃棄物のバイオフードリサイクルなど、環境にも配慮している。
バイオ研究には高度な設備と特殊な環境が求められる。殿町プロジェクトのレンタルラボ「Research Gate Building:RGB I〜IV」は、そうしたニーズに応える設計となっている。
RGBⅣの外観
特徴のひとつが、血液などの検体を扱える「ウェットラボ」仕様であり、動物実験なども可能だ。近隣には実験動物中央研究所などもあり、動物実験を受け入れる土壌も整っている。
もうひとつの特徴が、入居時の「スケルトン引き渡し」。内装を整えて引き渡していた時期もあったが、バイオ研究の内容は多岐にわたり、入居企業によって求めるレイアウトが全く異なることが分かったためだ。「スケルトン状態で引き渡せば研究機関が自由にレイアウトでき、内装を壊して作り直すコストや手間も省けます」と同社。
スペース規模も180平米から900平米まで、多様な区画があることから必要に応じたスペース提供が可能。また、設備機器や配管を集約した「メカニカルバルコニー」の設置や、重量物の搬入が容易なクレーンの装備など、大規模な研究活動にも耐えうる強靭なハードウェアを提供している。
スペースはスケルトン状態で提供される。使用する状況に合わせて自由に内装できるのが魅力だ。
「箱」が完成しても、そこに集う人々が交流しなければイノベーションは生まれない。そこで、入居企業間の「ソフト面」での連携支援にもさまざまな配慮がなされている。
殿町プロジェクトには、慶應義塾大学や神奈川県立保健福祉大学といったアカデミアに加え、島津製作所のような大手企業からベンチャー企業まで、産官学の多様なプレイヤーが集う。特筆すべきは、これらの組織をつなぐ交流の頻度だ。川崎市が主体となる3カ月に1回の交流会のほか、現場サイドの声を拾い上げるため、定期的にインフォーマルな交流の場も設けられている。その結果、例えばRGB I棟に入居している企業がRGB III棟に入居している企業のデバイスを利用したり、知見を交換したりといった具体的な連携が日常的に生まれているという。
交流イベントの一つピッチコンテスト風景。こうしたイベントを通じた情報交換も盛んにおこなわれている。
行政サイドの熱意も強く、良い企業が流出しないように魅力的なクラスター作りに注力している。デベロッパーである大和ハウス工業も、行政のパートナーとして、場とコミュニティの両面から貢献したいと考えている。
大和ハウス工業は、殿町プロジェクトで得られた知見をもとに、全国への展開も進めている。兵庫県神戸市の「ポートアイランド」では2026年8月、日本最大級のメディカルクラスター「神戸医療産業都市」の一部として、「DP-Lab KOBE」が竣工する予定だ。
DP-Lab KOBEプロジェクトについて同社は、「周辺の既存施設とデッキでつなぐことで回遊性を高めました。単体施設としてではなく、エリア全体でイノベーションを生み出す仕組みを、神戸市様と共に構築していきます」とする。
DP-Lab KOBE(パース)
神奈川県相模原市では「DP-Lab相模原・ DPL相模原Ⅱ」プロジェクトが進行中だ。これは、大規模な物流施設の中にレンタルラボを併設する「複合型物流施設」である。物流施設とラボが同じ建物に入ることで、例えば検体の迅速な配送や医薬品の管理など、強力なシナジー効果が期待できる。同社としても初の試みだという。
物流センターの上階スペース「DP-Lab相模原・ DPL相模原Ⅱ」(パース)
大和ハウス工業が描くレンタルラボの未来は、単なる不動産賃貸業ではない。研究者が専門性を最大限に発揮でき、かつ、多様な出会いから新しい価値を創造できるプラットフォームの提供だ。今後、日本のライフサイエンス産業の競争力を底上げする重要なインフラとなっていくことが期待される。