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PHCとサイフューズが切り拓く再生医療の未来PHCとサイフューズが切り拓く再生医療の未来

PHCホールディングス株式会社傘下のPHC株式会社(以下、PHC)は、2023年8月に、株式会社サイフューズ(以下、サイフューズ)と業務提携し、再生・細胞医療分野における商業化・産業化を見据えた共同研究等を推進している。両社の協業による基盤技術の進化と再生医療の展望について、PHCホールディングス株式会社・代表取締役社長CEOの出口恭子氏、同社執行役員バイオメディカ事業部長でPHC取締役の高魚力氏とサイフューズ・代表取締役の秋枝静香氏に聞いた。

PHC×サイフューズが目指す「身近な再生医療」の実現

PHCホールディングス株式会社は、糖尿病マネジメント、ヘルスケアソリューション、診断・ライフサイエンス分野で製品やサービスを提供するグローバルヘルスケア企業である。その傘下のPHCは、2023年8月に、再生医療ベンチャー企業であるサイフューズと戦略的パートナーシップの強化を目的とした業務提携を締結し、両社が有する技術とノウハウを用いて、再生・細胞医療分野における商業化・産業化を見据えた共同研究等を推進している。

PHCホールディングス株式会社代表取締役社長CEOの出口恭子氏は、「再生医療分野は、当グループの将来展望において最も重要な分野の1つ。2024年に発表した中期経営計画において、再生医療にも関わる診断・ライフサイエンス領域を成長事業と位置付け、力を入れている。秋枝氏が率いるサイフューズは、特異な技術を持ち、再生医療分野の最先端を走る会社。同社の基盤技術と、我々が長年培ってきた精緻で汎用性が高い基盤技術の融合により、ライフサイエンスの分野で世界の人々の健康に貢献できる新たな価値を創出したい」と力を込める。

出口恭子氏

出口 恭子
PHCホールディングス株式会社
代表取締役社長CEO

サイフューズは、細胞だけで作製した立体的な組織や臓器を『再生医療等製品』として実用化することを目指し、独自の基盤技術である『バイオ3Dプリンティング』を使ったバイオ3Dプリンタの開発や販売、再生医療等製品の開発や研究用3D細胞製品の受託製造などを行う。

代表取締役の秋枝静香氏は「当社の技術の最大の特長は、人工的な足場材料(スキャフォールド)を使用せず、細胞のみで移植可能な組織や臓器を作製できる点。これにより、移植後の拒絶反応や炎症反応等のリスクを低減した製品を提供できる。まずは、神経、骨軟骨、血管のパイプラインに注力して、国内での再生医療等製品としての承認取得を目指し、将来的には海外にも販路を広げたい」と話す。

秋枝静香氏

秋枝 静香
株式会社サイフューズ
代表取締役

協業による再生医療への取り組みの3本柱

サイフューズの独自技術である細胞だけで立体的な組織や臓器を作製するプロセスは、細胞培養、細胞の塊(スフェロイド)の形成、立体的な組織の作製の3ステップから成る(図1)。この技術を研究段階から実用化、そして商業化へと進める上では、立体的な『細胞製構造体』を作り出す技術に加えて、製品の品質管理や安定供給といった条件をクリアしていく必要がある。そのために欠かせないのが、材料となる細胞を大量に培養する技術、細胞製構造体を組み立てられることができる精密な技術、作業工程の標準化、自動化、デジタル化による効率的な生産体制の構築、そして製品を適切に保存・輸送する一連のサプライチェーンだ。

出口氏は、「当社の最大の強みは、松下寿電子工業時代から受け継がれてきた精緻な技術力と、品質への徹底したこだわりに根差したモノづくり力。再生医療等製品の製造において、重要な役割を果たす細胞培養をはじめ全工程のデータ収集・分析、将来的には自動化まで見据えている。再生医療を支える基盤となる培養・モニタリング機器や、工程管理の自動化に向けたソリューションを通じて、世界が期待する技術の進歩をリードし、再生・細胞医療分野への貢献を目指す」と話す。

図1サイフューズのプラットフォーム技術:剣山メソッド

図1

細胞培養で均質で質の良い細胞を増殖させ、次に、増殖した細胞を特殊なプレート上で『スフェロイド』と呼ばれる細胞の団子を作製する。最後に、スフェロイドを細胞版3Dプリンタ(バイオ3Dプリンタ)にセットし、華道で使う剣山のような部品の針一本一本にスフェロイドを1個ずつ正確に積み上げていくことで、立体的な血管や神経などの組織を作り上げる。

1 剣山の高精度化と製品の安定生産

PHCとサイフューズの協業は、(1)細胞から立体構造を作製する際に使用する『剣山』の自動製造装置の開発、(2)細胞培養時に使用するPHC独自の『In-Lineモニタリング技術』、(3)製品トレーサビリティのための『工程記録電子化システム』の3本柱で進む。

協業で最も先行しているのが、サイフューズのバイオ3Dプリンティング技術の中核を成す剣山だ。剣山は、華道で使用する剣山のような形をした微細な部品(消耗品)。この部品に、数百μmほどの大きさのスフェロイドを1つずつ正確に刺し、積み上げることで立体的な組織を作製する。この剣山の製造について、PHCの画像処理とアライメント自動化技術により、高効率かつ高精密に自動生産できるようになってきた。秋枝氏は、「発明者・共同開発者により生まれた剣山が様々な企業からのサポートにより、成熟し、商業生産できるまでになってきた。PHCの高い技術力により、安定的に剣山が供給されることで、当社も立体的な細胞製品を安定かつ効率的につくることが出来るようになってきており、商業生産に向けた開発が一気に加速している」と語る。

剣山

PHCホールディングス執行役員バイオメディカ事業部長でPHC取締役の高魚力氏は、「秋枝氏がPHCの松山工場を訪問した際に、自動化された医療機器の製造ラインを見て剣山の製造における生産性改善のアイデアを得たことが、協業のきっかけとなった。PHCのアライメント技術と自動化技術の活用によって、サイフューズ独自の基盤技術であるバイオ3Dプリンティングの心臓部分である剣山の高精度化や安定生産を実現した」と話す。


高魚力氏

高魚 力
PHCホールディングス株式会社
執行役員バイオメディカ事業部長
PHC株式会社 取締役

2 細胞の状態のリアルタイムモニタリングと培養環境の最適化

細胞培養の工程においても、両社の協業は進む。再生医療における細胞培養では、スタッフの技量に依存する再現性の課題、サンプリングによる汚染リスク、継続的なモニタリングの難しさという問題がある。PHCは、30年以上にわたる血糖値センサの開発で培ったコア技術を応用し、培養中の細胞の代謝変化をリアルタイムでモニタリングし可視化する研究用途のライブセル代謝分析装置『LiCellMo™(リセルモ)』を開発。日本の大学や研究・医療機関のほか、米国やEU、中国など海外にも導入実績がある。

高魚氏は、「細胞培養の工程は、再生医療の中で最も重要かつ課題が多い工程。LiCellMoのIn-Lineモニタリング技術により、細胞の直接的な代謝物であるグルコースと乳酸の濃度を連続的に測定することで、頻繁なサンプリングによる汚染リスクを心配せずに、より正確に細胞の状態を把握することが可能になる。今後、サイフューズとのさらなる協業において我々が最も貢献できるのが、この工程であると考えている」と話す。

現在、PHCはこのIn-Lineモニタリング技術を搭載した自動培養装置『LiCellGrow™(リセルグロー)』の開発を進めている。同装置は、リアルタイムに測定したグルコースと乳酸の値をもとに自動的に培地交換を行うことで、細胞の培養環境を常に最適化する。サイフューズとの共同研究では、このLiCellGrowの技術を活用した循環培養装置を開発中で、測定したグルコース濃度に基づいて培地交換を行い、培養環境を制御することで、三次元細胞構造体の品質が向上することが示された。

Li Cell Mo™(リセルモ)

秋枝氏は、「これまでスタッフの“職人技”に頼っていた培養の工程管理(培地交換等)を、客観的な指標に基づいた最適なタイミングで、自動的に行えるようになることが利点。細胞培養プロセスの自動化は、培養スタッフの負担軽減や品質向上、グローバル展開のために欠かせない技術」と期待を寄せる。

3 工程記録電子化システムによるトレーサビリティ確保

再生医療等製品を広く安全に患者さんに届けるためには、製品がどのように製造され、どのように患者さんに届き、どのように治療が行われたかという『製造・流通・治療・経過』の全過程を記録・追跡できるトレーサビリティのシステムづくりも必要となる。

秋枝氏は、「我が国の再生医療等製品の製造においては、GCTP省令(再生医療等製品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令)等、法令により、製造工程の記録と保存が義務付けられている。例えば、紙ベースでの記録管理は大きな負担となっており、現在、PHCとの協業により、記録を電子化する工程記録電子化システムの開発を進めている」と話す。

PHCは、医療機器の製造で培った不良品を後工程に流さないため『トレーサビリティシステムの技術』を今回の協業で初めて社外に展開している。高魚氏は、「成長中の再生医療ベンチャーが大規模な投資を伴うシステムを導入しにくい現状を考慮し、まずは、お客様のニーズを満たし現状の開発に必要な項目を組み込んだコンパクトなシステムを試作した。情報漏洩などのセキュリティ対策を講じるとともに、衛生上持ち込めるものが限定される培養室の中でスタッフが使いやすいように、作業の簡便性、確実性、操作性のバランスを重視し、タブレットによる操作で製造工程が記録できるようにした」と話す。

秋枝氏は、「工程記録電子化システムは、現場のスタッフの負担軽減や、製品の品質確保のためにも不可欠な要素。最大の技術的挑戦は、予測困難な『生きている細胞』の工程管理を行うという点。両社の協業により最先端のシステムの構築を進めていきたい」と話す。

協業で誰もが身近に受けられる再生医療を世界に

PHCとサイフューズの技術の融合は、再生医療の臨床応用と商業化における品質、安定供給、生産性といった課題を解決し、安全で有効な再生医療等製品をグローバルに普及させるための強力な推進力となるだろう。両社は、病気やケガで機能不全になった組織や臓器を再生させ、従来の手術や治療法では満たされることのなかった患者さんに届けるという夢を共有し、再生医療の実用化とグローバル展開という壮大な目標へ向けて共に挑戦を続けている。日本発の再生医療技術が世界中の患者さんに希望をもたらす未来が待ち遠しい。

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