表情豊かな動物を写し取る
信頼高い写真家の“相棒”
真っ白な雪原で追いかけっこする2匹のキタキツネ――恋の季節を切り取った無邪気な1枚は世界で絶賛された。2016年には米ナショナル ジオグラフィックが主催するフォトコンテストのネイチャー部門で、日本人初の1位を獲得。以来、井上氏は新世代を代表するネイチャーフォトグラファーとして、北海道を拠点に次々と力作を発表し続けている。
厳冬のピークが過ぎた、美しい夕暮れどき。広大な雪原を舞台に、二匹のキタキツネが楽しそうに追いかけっこをしていた(ILCE-7RM5, FE 400mm F2.8 GM OSS 400mm, F2.8, 1/1250秒, ISO 125 )
夏のオホーツク、タンチョウがキタキツネに「恋のダンス」を教えているように見えた(ILCE-1, FE 400mm F2.8 GM OSS 400mm, F4, 1/1600秒, ISO200)
写真を撮り始めたのは大学生の頃だ。写真家になる前の2010年、ソニーのレンズ交換式ミラーレスカメラ「NEX-5」を手にしたことを機に“撮る楽しさ”に開眼した。NEX-5以降、井上氏はソニー製の一眼ミラーレスカメラを愛用。現在のメインで使用するフラッグシップ機「α1 II」への信頼は高く、次のように評価する。
「野生動物の撮影では、予測不可能な動きに対応する高速かつ正確なAF(オートフォーカス)と連写性能、被写体との距離を保ちながらも後から大胆にトリミングできる超高画素センサーの余裕が必須になります。現状、これらの厳しい条件を私の用途において最もバランスが良いと感じているのがα1II。静止画だけでなく動画性能においても非常に優れているため、機材を頻繁に変えることなく、この1台をメインに使用することが多いです。現在に至るまで着実に進化し続け、私の写真家としての覚悟を支えてくれていること。それこそが、私がソニーを選び続けている最大の理由です」
カラマツ林の中へ強い風が入り込み始めた。父ギツネがじっと前を見据える視線の先にあるのは、やがて訪れる大雪の気配だろうか(ILCE-7RM5, FE 70-200mm F2.8 GM OSS II 70mm, F2.8, 1/1250秒, ISO100)
栗を手にした“きねずみ”ことエゾリス。食べるか隠すか思案中(ILCE-1M2, FE 300mm F2.8 GM OSS 300mm, F2.8, 1/1600秒, ISO1250)
撮影時間の短縮で生まれた“余白”
圧をかけない自然への配慮が可能に
井上氏にとって、「何を写すか」の判断軸は「野生動物の思考や感情が発露しているように見える瞬間かどうか」にある。
「観察を続けていると、野生動物たちは私たちが想像する以上に思考し、感情を持っているように見えます。恋の季節に耳を伏せてじゃれ合う姿。食べ物を持ち帰った母ギツネを労うような父ギツネの姿。そして親の帰還に全身で喜ぶ子ギツネたち。そうした感情が動きとなって表れたような瞬間を写し止めたい。動物が白目を見せている写真を好んで選んでいるのは、人間に近い表情を感じてもらうためです。そうすれば、鑑賞する人たちも“どんな気持ちなんだろう”と一緒に考えてもらえますから」
凛々しさを増した子ギツネたち。午後は草原を駆けて遊び尽くす(ILCE-9, FE 400mm F2.8 GM OSS 400mm, F2.8, 1/1600秒, ISO1000)
一方で、野生動物の“生きる営み”を邪魔しない姿勢を心がける。まずは自分の存在を認知してもらい、同じ空間にいることを許容されてからカメラを構えるのが鉄則だ。
「もし相手が距離を取る素振りを見せたら、無理に踏み込まずにいったん引きます。逃げないまでも、被写体がこちらに集中しすぎているときも同様です。その場合は同じ空間を共有することを許容してくれているのではなく、私の存在に対する警戒心から“動けないようになっているだけ”かもしれないですから。再び撮影できることを願いながら、必要なカットが数枚撮れればその場を離れる。撮影のために四六時中張り付くことはしないようにしています」
冬の終わりの日差しよりもあたたかな、キツネたちのぬくもり(ILCE-9M2, FE 400mm F2.8 GM OSS 400mm, F8, 1/640秒, ISO800)
シンシンと降り積もる雪の中、厳しい冬の始まりを見つめるエゾシカ(ILCE-7RM2, FE 70-200mm F2.8 GM OSS 198mm, F2.8, 1/320秒, ISO320)
その点でも、最新機材の進化は“自然への配慮”を後押しすると説く。ノイズの少なさ、高速かつ正確なAF、高速連写を実現し、かつてストロボやAF補助光が必要だった暗い環境でも、今では一瞬をより逃さずに写し止めることができる。さらにスマートフォンと連携したリモート撮影により、こちらの姿を全く見せずに撮影することも可能になった。
「撮影時間が短縮された分、私は“余白”が生まれたと思っています。その余白を、野生動物のことや自身の写真表現について深く考える時間にあてることができる。これは機材の進化がもたらした極上の恩恵です。カメラの高性能化によって撮影のハードルが下がり、アクセスしやすい場所に人が集まりやすくなった側面はありますが、昨今の参加者の多くは野生動物への“観察圧”や“撮影圧”に対してお互いに配慮し合う意識が高まっています。これらの心持ちの変化は、とても良いことです。これからも野生動物と同じ土地で生きる姿を見つめ続け、私なりの表現をしていきたいですね」

井上浩輝 [Hiroki Inoue]
1979年、北海道札幌市生まれ。風景写真の撮影を続ける中、キタキツネを主軸に捉えながら野生動物が織りなす風景を追い求めるようになり、米誌「National Geographic」の『TRAVEL PHOTOGRAPHER OF THE YEAR 2016』ネイチャー部門で日本人初の1位を獲得。自然写真のみならず航空写真など、多岐にわたるジャンルを撮影し、国内外の広告にも作品が使用されている。最近は映像の撮影にも注力。その活動はドキュメンタリー番組などでも紹介されている。2014年には東京カメラ部10選に選出され、2022年より早稲田大学基幹理工学部非常勤講師として「写真表現」の講義を担当している。
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