バイオ医薬品で先駆けるイノベーションの源泉とは
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中外製薬株式会社

バイオ医薬品で先駆けるイノベーションの源泉とは

バイオテクノロジーとは、生物が持っている働きを、健康や環境など人々の暮らしに役立てる技術。中外製薬は数多の革新を続け、バイオ医薬品の分野で国内市場をリードしてきた。同社のバイオ研究の拠点の一つである富士御殿場研究所で働く若き2人の研究者に詳しく聞いた。

企業研究所の枠を越えた革新を目指す挑戦の精神企業研究所の枠を越えた革新を目指す挑戦の精神

いまだ有効な治療法がなく、十分に満たされていない医療ニーズを、アンメットメディカルニーズと言う。製薬会社の使命とは、これを満たす新薬の継続的な創出である。

しかし、創薬とは一般的に、長い年月と巨額の費用がかかる。研究段階で新薬につながる物質と期待されても、それが薬として上市されることは極めて少ない。

こうした中で、中外製薬は新製品発売・適応拡大数において業界トップクラスであり、連続的イノベーションを実現してきた。

同社の創薬技術で注目されるのが、バイオ医薬品の一種である、抗体医薬品だ。人間は体内に異物が入ってくると、その異物と結合する抗体というたんぱく質を作り出して病気を防いでいる。この人間の免疫機能を応用した抗体医薬品は、疾患の原因となる特定の抗原だけに作用するので、副作用を低減しながら高い治療効果が期待できる。

1980年代よりバイオ医薬品の研究開発に本格参入した同社は、2005年に国産初の抗体医薬品を上市。以後、数々の実績を示してきたことで、今や抗体医薬品において世界トップレベルの存在となった。

背景にあるのは、自由闊達な研究開発の風土だ。バイオ医薬研究部の川添明里氏は「ここは企業の研究所ですが、革新的でなければ面白くないというアカデミックな風土があり、『良いと思うならばやってみる』という挑戦の精神が根付いています。実際に担当プロジェクトに限定されず、将来的に芽が出る可能性のある研究に業務時間の一部を費やすことも許されています」と語る。

アイデンティティは徹底した品質追求アイデンティティは徹底した品質追求

川添氏と同じくバイオ医薬研究に携わる堅田仁氏は、「分子のエンジニアリング」の専門家で、「抗体を改変して医薬品に仕上げるものづくりの品質に中外製薬のアイデンティティがある」と断言する。

同社は数々の画期的な独自抗体を創出しており、例えば標的となる抗原に何度も結合できる「リサイクリング抗体」や、抗原を血液中から除去できる「スイーピング抗体」、2種類の異なる抗原と結合できる「バイスペシフィック抗体」などが挙げられる。これらの抗体は治療効果のさらなる改善を可能にした。

「創薬とは、クラフトマンシップと相通じるものがあります。開発のスピードも大切ですが、私たちは常に品質の追求も重視してきました」と堅田氏。現在の品質追求と開発スピードを両立できる環境は、抗体エンジニアリングに必要な一連のプロセスの効率を見直し、改善し続けることで実現してきたという。川添氏は「究極的な理想としては、患者さん一人ひとりに最適な創薬を目指したい」と語る。

中外製薬のスローガンは「創造で、想像を超える。(INNOVATION BEYOND IMAGINATION)」。研究開発(INNOVATION)へのあくなき挑戦への想いは、バイオ研究の拠点である富士御殿場研究所の地にも深く根付いているという。

皆一人の専門家として自律性を重視皆一人の専門家として自律性を重視

バイオ医薬研究部の川添明里氏(上写真)と堅田仁氏(下写真)。理学、工学と異なる分野ながら、学生時代からバイオ研究に携わってきた。ともに、独自性の高い研究開発に魅力を感じて中外製薬を志したという。

戦略的なアライアンスを組むスイスのロシュ社とのシナジーも大きな力だ。堅田氏は「ワールドワイドな情報や基準を知る基盤になっている」と語る。

ただしロシュ社とは独立して研究開発が行われており、研究の自立性が維持されている。川添氏は「研究の独立性から、皆一人の専門家としての考えが問われます。それが良い意味での競争を生み、開発を加速させているように感じます」と語る。

ところで、バイオでリードする中外製薬だが、化学合成を利用した低分子医薬品においても、米国食品医薬品局(FDA)が画期的新薬と認めるBreakthrough Therapy制度で指定を受けるなど、確固たる技術力を持っている。そして今、新たに注力するのが、バイオ領域の抗体医薬品(高分子)と低分子医薬品の特徴を併せ持つ、次世代の創薬技術である中分子医薬品の開発だ。

川添氏は、「従来の医薬品では狙えなかった領域に向けた研究であり、開発は非常に白熱しています。研究者それぞれがバイオと低分子の専門領域の強みや弱みを知るからこそ、中分子医薬品の可能性を理解できるのです」と言う。

川添氏も堅田氏も、「アンメットメディカルニーズがある限り、アイデアをゼロから叩き上げていくのが中外製薬の研究開発」と口を揃える。課題はまだまだ尽きない。それでも、中外製薬の研究者たちは、今後いくつもの「創造で、想像を超える。」瞬間を迎えると期待させてくれる。