“明日”をつむぐテクノロジー special

災害時に威力を発揮する防災サイネージ サイネージを災害時の情報伝達に活用 川崎アゼリア地下街のシステムを開発

※記事中の情報につきましては、すべて取材時点のものとなります。
防災への取り組みが社会の課題の1つとして指摘される中、東芝グループは、JR川崎駅に直結した「川崎アゼリア」地下街向けに防災サイネージシステムを開発した。川崎市で震度5以上の地震が観測されたときに、市の防災情報ポータルサイトに画面が自動的に切り替わるなどの機能を備える。見やすさを重視した画面(コンテンツ)設計も担当。災害時の円滑な情報伝達を狙う。
  • ※販売元:東芝エレベータ株式会社 システム開発:ES東芝エンジニアリング株式会社 業務用ディスプレイ販売:東芝映像ソリューション株式会社
大森 高樹 氏 株式会社 日建設計シビル エンジニアリング部門 CM・防災部長

JR川崎駅の東側地下に広がる「川崎アゼリア」(図1)は、延べ床面積で日本第3位(56,468m2)の広さを誇る有数の地下街だ。京浜急行電鉄の京急川崎駅にも直結している利便性もあって、一日の通行者数は24万人(10〜21時、川崎アゼリア株式会社発表値)に上るといわれている。

2016年3月に完成したリニューアルによって、「DELICHIKA(デリチカ)」、「GOURMESSE(グルメッセ)」、「LIFEGRAND(ライフグラン)」という3つのエリアで、ショッピングとグルメの両方が楽しめる地下街として人気が高まっている。

その川崎アゼリアの中央に位置するサンライト広場のシースルーエレベータの左右に1台ずつと、東西南北の各広場に1台ずつ合計6台設置されているのが、災害時の情報伝達を目的に東芝グループが開発の一翼を担った「防災サイネージ」(図2)である。

平常時は店舗マップや避難経路などの情報がサイネージ画面に表示されるが、川崎市で震度5以上の地震が観測された場合は、市の防災情報ポータルサイトに自動的に切り替わること、NHKの臨時ニュースや周辺の避難場所などの情報を流すことが特徴である。

【図1】JR川崎駅側から望む「川崎アゼリア」【図2】 中央通路のサンライト広場ほか合計6か所に設置された防災サイネージ

地下街の防災を推進する国の補助事業に名乗り

日本の多くの地下街は1960年代から1980年代に建設されており、老朽化への対処に加えて、豪雨などが多発する近年の状況に見合った防災の仕組みづくりが急務となっている。また、東日本大震災以来、地下街は帰宅困難者の一時避難先としての役割も新たに求められるようになった(川崎アゼリアも約2,600人を受け入れた)。

こうした状況の変化を受けて、国(国土交通省)は安全で安心できる地下街を目指すべく『地下街の安心避難対策ガイドライン』を2014年6月に策定した。併せて、地下街の改修に合わせた防災・安全対策の取り組みを支援する「地下街防災推進事業」(補助事業)を2014年から実施している。

その第1号に選ばれたのが、建設から28年目を迎えていた川崎アゼリアである。

社会インフラやサイネージの実績から東芝グループが選定される

川崎アゼリアの防災推進事業は、事業者である川崎アゼリア株式会社のほかに、行政からは川崎市と、かつて川崎アゼリアの設計・監理も担当した日建設計グループ会社の1つである株式会社日建設計シビル(本社・大阪市中央区)ほかが参画して進められた。

株式会社日建設計シビルは、世界有数の建築設計事務所である株式会社日建設計から土木部門が分社独立する形で2001年に設立され、日建設計時代を含めて、国内で多数の地下街の建設に関わってきた実績を持つ。国の『地下街の安心避難対策ガイドライン』の策定にも協力した。

「2012年12月に中央自動車道の笹子トンネルで天井板が落下して多くの死傷者が出る痛ましい事故が契機となって、社会インフラの老朽化問題が一気にクローズアップされるようになりました。建設から30年近くがたっていた当時の川崎アゼリアでも、利用者から、安全性を心配する声が上がったそうです。そうした状況を踏まえて、国と川崎市の補助のもと、川崎アゼリアの防災推進計画がスタートしました」と、株式会社日建設計シビルの大森高樹氏は経緯を説明する。

具体的には、天井の点検など安全対策の強化、避難誘導に関する検討、啓発活動の強化、情報伝達の仕組みづくり、一時滞在機能の充実化などが柱として定められ、このうちの情報伝達の仕組みづくりの一環としてデジタルサイネージの活用が上がり、入札の結果、東芝グループのシステムが選定された。

社会インフラや防災に関連したソリューションを数多く手掛けていること、JR川崎駅と川崎アゼリアとの間に設置されている400インチの「アゼリアビジョン」の納入実績があること、地域(川崎市)に根差していて川崎市とも取り引き実績があること、総合力を持ち将来にわたってさまざまな提案が期待できること、などが選定の理由とされる。

災害時の利用を想定してシステムと画面を設計

東芝グループが開発した防災サイネージシステムは図3の通りである。停電時にも動作が継続できるように、配信サーバー、操作用PC、6組の表示制御PCとサイネージディスプレイ、テレビチューナー(NHK受信用)などはいずれも川崎アゼリアの非常用電源から給電している。

災害時は切迫した心理状態になる可能性が高いため、災害関連情報をいかに分かりやすく提示するかが重要になる。川崎アゼリア株式会社、川崎市、株式会社日建設計シビル、東芝グループが参加した月次検討会において、画面やコンテンツなどに関して見やすさなどの観点からさまざまな意見やアイデアが出され、東芝はそれらを反映しながら画面やストックコンテンツの設計を行った(図4)。併せて、実際の画面サイズに沿ったモックアップ(原寸模型)を開発し、現地に持ち込んで設置場所の検討や見え方の確認も行っている。

前述の通り、災害時(2016年9月時点では震度5以上の地震観測時)は川崎市の防災情報ポータルサイトに画面が自動的に切り替わるほか、川崎アゼリア防災センター側の操作によってストックコンテンツ画面やNHKの緊急ニュースを表示させることが可能だ。また、平常時に画面切り替え操作を訓練できるように「訓練モード」を設けた(コンテンツの右上に訓練と表示される)。

「デジタルサイネージに防災情報を表示する取り組みは他の地下街でも行われていましたが、自治体と連携してコンテンツの自動切り替えを実現したのは、たぶん今回の東芝グループのシステムが日本では先駆けだと思います」と、地下街の防災事情に詳しい大森氏は述べる。

図3 川崎アゼリアが導入した東芝グループの「防災サイネージ」のシステム構成
リンク
図4 見やすさ・分かりやすさを重視して設計した画面の表示例
リンク

インフラ老朽化や防災などの社会的な課題に取り組む

川崎アゼリアの防災サイネージは2016年3月に稼働を開始した。当面は震度5以上の地震を対象に運用されるが、ゲリラ豪雨、台風、テロなどに関する情報提供にも今後は運用を広げていく可能性があるという。東芝グループは、川崎アゼリアおよび日建設計シビルの協力も得ながら、ストックコンテンツの拡充などをサポートしていく予定だ。

「防災を含む社会インフラの構築やデジタルサイネージ技術で実績のある東芝グループが今回の防災推進事業に参画してくれたことで、期待通りのシステムが構築できたほか、私自身もいろいろと勉強になりました」と、大森氏は東芝グループの取り組みを評価する。

今のところ幸いにも川崎アゼリアの防災サイネージが活躍するような震度5以上の地震は起きていないが、「備えあれば憂いなし」のことわざ通り、災害に関するさまざまな情報を提供する仕組みが整備されたといえる。

東芝グループは、こうした知見を生かしながら、今後も社会インフラの老朽化や都市の強靭(きょうじん)化などの課題に取り組んでいく。

pagetop

お問い合わせ