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水素社会へのロードマップ シンポジウム Review東芝が再生エネルギーで目指す水素社会

※記事中の情報につきましては、すべて取材時点のものとなります。
※本記事は、「日経ビジネス」2015年7月13日号からの抜粋です。
1960年代から多種多様な燃料電池の開発に取り組んできた東芝は、水と再生エネルギーで水素をつくるCO2フリーの水素システムに力を入れている。水素事業を統括する前川治氏が最新のシステムについて解説した。

水素エネルギーの活用で、エネルギーの地産地消を可能に

前川 治 氏 株式会社東芝 執行役上席常務(次世代エネルギー事業開発プロジェクトチームプロジェクトマネージャー)

そもそもなぜ東芝が水素の利活用に取り組んでいるかについて、前川氏は説明する。

「日本のエネルギー自給率はわずか6%。大半を化石燃料に依存しており、CO2排出の削減は重要課題となっています。さらに、再生エネルギー利用拡大による系統不安定も早急に解決すべき課題。これらの脱化石燃料とエネルギーセキュリティー確保の2つの課題解決につながるのが、水素エネルギーだと考えています」

その理由は大きく4つ。第1に生成も貯蔵もでき、供給源を多様化できること。第2に再生エネルギー由来の水素活用でCO2排出を削減できること。第3に電力平準化により、系統安定化に貢献できること。第4に非常時のエネルギー(電気・熱)が供給可能であることを挙げる。東芝はこのような水素の可能性に着目し、水の電気分解による水素製造、水素電力の貯蔵、水素発電による電気と熱の供給に取り組んできた。つまり、水素を「つくる」「ためる」「つかう」技術開発を総合的に進めてきた。

同社は、その技術とノウハウを生かし、外部から水素を供給する必要のない自立型水素エネルギー供給システムを開発。水素の活用でエネルギーを地産地消する「水素地産地消型ソリューション」に力を入れている。

「つくる」「ためる」「つかう」をワンストップで実現

水素地産地消型ソリューションには、災害対応の「BCP(事業継続計画)モデル」、ロジスティクス施設などに水素ステーションを構築する「事業所モデル」、再生可能エネルギーで100%のエネルギー自給を可能とする「離島モデル」、再生エネルギー導入をサポートする「大容量水素電力貯蔵システム」、各モデルを複合的に活用し街づくりに貢献する「スマートコミュニティ水素モデル」の5つを想定。今年度、BCPモデルとしてリリースした「H2One(エイチツーワン)」について詳しく解説する。

H2Oneは電気と水から水素をつくる水電解水素製造装置ユニット、水素貯蔵タンク、燃料電池ユニット、蓄電池ユニット、給水タンクを一体化させた、世界初の自立型水素エネルギー供給システムです。太陽光発電設備で発電させた電気をつかい、水を電気分解して発生させた水素をタンクに貯蔵。有事には貯蔵水素をつかって燃料電池から電気と温水を供給します。水と太陽光のみで稼働できるため、停電時にも自立して水素を『つくる』『ためる』『つかう』ことができます」

図1 H2Oneシステム構成
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コンテナ型で広域展開が容易。BCPに力を発揮する

H2Oneは1つのユニットを世界標準型コンテナと同サイズにしており、トレーラーや貨物列車などで運搬可能。緊急時にも広域展開が容易だ。今年4月には川崎市の公共施設にH2Oneを設置し、実証試験を開始した。水素貯蔵タンクを2つ備えたこの施設では、300人が7日間過ごせるだけの電気と温水を供給できるという。また、災害時のみならず、システム全体を管理する東芝独自のEMS(エネルギー管理システム)の機能により、平常時には電力のピークシフトにも対応できる。

事業所モデルは工場、物流倉庫、空港、港湾などの現場で再生エネルギーまたは余剰電力による水素供給を行うシステム。水素物流コストの低減とBCPの両面で貢献する。離島モデルは世界中の離島や未電化地域を想定したモデルで、ディーゼル発電より安価かつクリーンな電力を安定供給し、災害レジリエンス(対応力)の向上にもつながる。

水素電力貯蔵システムは太陽光発電および風力発電による余剰電力を貯蔵し、電力需要を満たせない場合に水素電力で補填する。電力貯蔵量は水素貯蔵タンクの数で容易に増大可能で、ビル単位や街単位のエネルギー管理システム構築にも活躍する。

海外で水素EMSの実証試験開始。専用施設で研究開発機能を強化

水素地産地消型ソリューションに取り組む一方、海外で水素を製造し、国内へ運ぶ水素サプライチェーンソリューションにも積極的だ。

「海外には気象や地理的条件により、非常に高効率に太陽光発電や風力発電を行える場所があります。そのような電力で製造した水素を日本へ運び、水素ガスタービン発電所で電気に変えることで、地球規模のクリーンな電力網を構築できます。東芝の『つくる』『ためる』『つかう』という技術はこのような形でも活用できます」

今年度、スコットランドでは東芝の水素EMSを利用し、再生可能エネルギーの電力をFCVゴミ収集車などの水素モビリティに活用する実証試験が開始。海外からの東芝のCO2フリー水素ソリューションへの関心も高い。

今年4月、東芝は日本最大規模の水素技術研究開発施設を開設。CO2フリー水素関連技術の基礎開発、実証試験に注力し、持続的で安心・安全、快適な社会の構築に貢献していく考えだ。

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