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国内、アジアを中心に未利用水の活用が始まる わずか2mの落差で最大200kW発電水資源を生かす東芝のマイクロ水力発電

※記事中の情報につきましては、すべて取材時点のものとなります。
CO2を排出しないクリーンなエネルギー源として水力発電に再び注目が集まる中、1kWから200kWを発電範囲とする東芝のマイクロ水力発電システム「Hydro-eKIDS™」(ハイドロ・イーキッズ)の導入が国内および東南アジアで広がっている。ダムの維持放流水、トンネル湧水、工業用水、工場排水、河川水、上下水などを利用して設備や地域の電力を賄えるほか、売電事業としても有望とされる。
池田 親正 氏 株式会社東芝 エネルギーシステムソリューション社 火力・水力事業部 水力プラント技術部 部長
森 淳二 氏 株式会社東芝 エネルギーシステムソリューション社 火力・水力事業部 水力プラント技術部 主幹

日本の総発電量の10%近くを担う重要なエネルギー供給源の1つである水力発電は、CO2を排出しないクリーンな再生可能エネルギーとして再評価が進んでおり、中でも、農業用水や工業用水、工場やビルの排水、渓流や河川水などを使った中小水力発電に注目が集まっている。

その理由としては、中小水力発電は大規模なダムや導水路などの土木設備を必要としないため大水力発電に比べて建設や導入のハードルが低いこと、クリーンなエネルギーとしての訴求効果が高いこと、再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)を背景に投資対効果が高くなっていること、国のさまざまな支援制度が受けられること、などが挙げられるだろう。

NEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)が公表した「再生可能エネルギー技術白書」(※1)には「3万kW以下の中小水力発電の導入ポテンシャルは1,500万kW程度賦存する(※2)」と明記されているほか、電化が進んでいないアジアやアフリカなどの発展途上地域における需要も根強く、新たな可能性として期待されている。

水資源を有効利用できるマイクロ水力発電に着目

こうした状況の中、1894年、京都府の蹴上(けあげ)発電所に60kW水車発電機を納入して以来、日本のみならず世界各国のさまざまな規模の水力発電所に機器を納入してきた東芝は、マイクロ水力発電Hydro-eKIDS™(ハイドロ・イーキッズ)(図1)と名づけた、1kWから200kWを出力範囲とする小規模なマイクロ水力発電システムを2001年から2016年8月現在で日本およびアジアを中心とする48拠点に77台を納入している。

「CO2の排出削減をはじめとする環境技術の重要性が世界的に高まる中、さまざまな社会インフラを手掛けてきた東芝は、水資源の効率的な利用が図れるだけでなく、無電化地域においては電化をより手軽に実現できるなど、さまざまなメリットを持つマイクロ水力発電にも着目し、システムの提供を通じて社会のニーズに応えてきました」と、東芝 エネルギーシステムソリューション社 火力・水力事業部 水力プラント技術部 部長の池田親正氏は取り組みを説明する。

図1 東芝のマイクロ水力発電システム「Hydro-eKIDS™」の概略構造
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5種類の標準ユニットで1kWから数百kWに対応

ところで、一般に水力発電設備を新設しようとすれば、発電量が小さい場合でも取水設備や導水管路などの土木工事が必要で、多大な工費が発生してしまう傾向がある。また、水の落差や流量は地点ごとに異なるため、水車(ランナ)や発電機を条件に合うように個別に設計しなければならず、開発コストが上昇してしまうという課題があった。

東芝のHydro-eKIDS™は発想を転換。従来は難しいとされていた標準化の徹底と据え付けの容易性を図ったのが特徴である。

「落差範囲と流量範囲に応じてシステムを5種類の標準ユニットに集約する一方で、ランナと発電機とをつなぐプーリー径の比率など一部のみをカスタマイズすることで、水車の回転速度を自由に変え、幅広い条件に対応できるように工夫しました。また、発電機と水車部とを二階建てにして据付寸法を低減し、既設の配管にそのまま接続できる直管構造を採用することで、コンパクトさも追求しています」と、東芝 エネルギーシステムソリューション社 火力・水力事業部 水力プラント技術部 主幹の森 淳二氏は説明する。

Hydro-eKIDS™は、1kWから10kW出力のS3型、1kWから20kW出力のS3C型、5kWから25kW出力のS型、5kWから100kW出力のM型、および10kWから200kW出力のL型という標準ユニットがあり、いずれも基本的に2m以上の有効落差があれば発電が可能である(図2)。

図2の範囲よりも有効落差が大きい場合は複数台のHydro-eKIDS™を直列接続(最大3基)にすれば対応可能であり、流量が大きい場合は並列接続にすればよい。仮にL型を3台使えば最大600kWを発電できる。

Hydro-eKIDS™は、施工の簡易性に加えてメンテナンス性にも配慮しているそうで、「例えばランナ主軸と発電機とを結ぶ消耗品のベルトなどは、汎用品を使用することで交換が容易にできるよう設計しています」と森氏は説明する。

図2 「Hydro-eKIDS™」の5種類の標準ユニットと有効落差および流量範囲
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国内とアジアを中心に未利用水の活用が始まる

Hydro-eKIDS™の導入事例をいくつか紹介しよう。インドネシアのオノレジョ多目的ダムでは、水位調整のために行う責任放流の水を活用してダム設備の電力を得ることを目的に、Hydro-eKIDS™ M型を2台直列構成で導入した。有効落差が34mから64mと大きいため、1台のHydro-eKIDS™がおよそ15mずつの落差を分担するように減圧弁を設けて調整し、流量0.95㎥/sにて合計200kWの電力を発電している。

また、無電化地域への電力供給を目的とした事例が東南アジアにおいて複数あり、地域住民の生活にとってなくてはならない存在となっているという。

国内では、ダムの維持放流水、トンネル湧水、工業用水、工場排水、河川水、上下水などを活用した導入事例があり、設備への電源供給(自家消費)のほか、系統連系による売電にも用いられている。

ユニークなところでは、東京のある私立高校・中学校が、生徒に環境問題への理解を深めてもらおうと、2.4kWの小規模なS3C型を導入した事例がある。水は空調用冷却水を使用し、既設の循環水の配管に取り付けるだけで済んだという。発電した電力はバッテリに蓄えたのち、校内の照明などに使用している。

ちなみに、Hydro-eKIDS™を直並列接続するなどして500kW規模の発電設備を構成した場合、工事費を含む投資額を5億円とし、2016年度の電力買い取り価格29円(200kW以上1000kW未満、税抜き)が今後も続くと仮定すれば、設備稼働率80%のとき、保守費用などを除けばおよそ5年での回収が可能と試算できる(500kW×24時間×365日×稼働率0.8×買い取り価格29円/kWh×5年≒5億円)。

図3 「Hydro-eKIDS™」の設置事例
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CO2フリーのエネルギー源として社会の要請に応える

今後東芝では、水資源の有効利用や発展途上地域の電化などを実現するためにHydro-eKIDS™などの小水力発電を水素と組み合わせてCO2フリーなエネルギーサプライチェーンにも展開していきたい考えだ。

具体的には、小水力発電で得た電力を使って水を電気分解して水素を製造し(つくる)、高圧タンクなどに貯蔵して運び(はこぶ)、燃料電池のエネルギー源として利用する(つかう)という構想だ。現在東芝では北海道・釧路市・白糠町と連携し環境省の実証実験を推進中である(図4、Hydro-eKIDS™とは異なる専用の小水力発電システムを採用)。

「東芝は、可変速揚水発電に代表される高落差大容量揚水発電に強みがあるが、それとは対極にあるHydro-eKIDS™は、標準化などのこれまでと異なる着眼点でコストや施工期間を抑え、これまで利用されていなかった水資源の有効活用、売電ビジネスへの展開、発展途上地域や僻地の電化、およびCO2排出量削減など、これからの社会が求めるニーズを満たすソリューションの1つと考えています」と池田氏。

さて、これまでの京都議定書に代わる新たな「パリ協定」が2015年12月開催の気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)で採択されるなど、温室効果ガスの排出削減は世界的な課題かつ目標の1つになっている。東芝は大容量水力発電ばかりでなくマイクロ水力発電も活用して、そうした社会的な要請に応えていく。

図4 小水力発電を水素と組み合わせたCO2フリーなエネルギーサプライチェーンの一例
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