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モーターのさらなる省エネ化を目指して 高効率化に進化する産業用モーターIE5相当の同期リラクタンス式も間近に

※記事中の情報につきましては、すべて取材時点のものとなります。
産業用モーターの分野ではトップランナー制度が2015年4月にスタートし、IE3と称されるプレミアム効率品の製造が義務化された。国内の産業用モーター市場でトップクラスのシェアを誇る東芝産業機器システムは、省エネへの取り組みを以前から積極的に進めており、IE3対応製品や高機能インバーターをラインアップ中である。さらに同社は、希土類(レアメタル)の永久磁石を使うことなくIE5相当の高効率を実現できる同期リラクタンスモーターの実用化にメドをつけた。
濱田 直人 氏 東芝産業機器システム株式会社 取締役

ポンプや送風機、圧縮機などに使われている産業用モーターが消費する電力の累計は国内の使用電力全体の約55%※1を占めるといわれており、それらの省エネが産業界全体の課題になっている。

高効率モーターへの置き換えを促す規制や取り組みは各国で進められており、日本においても「トップランナー方式」によって、商用電源で駆動される定格出力が0.75kW以上375kW以下のモーターの製造および輸入は、2015年4月から、エネルギー効率の高いプレミアム効率品(JIS C 4034-30が定めるIE3)のみに規制された(一部の除外あり)。

こうした動きに対して、東芝産業機器システムでモータドライブ事業部の事業部長を務める濱田直人氏は、「社会で広く使われているモーターの省エネ化は、産業用モーターにおいて国内トップクラスのシェアを有する※2当社の責務の1つと捉え、高効率なモーターの開発を以前から進めてきました」と、取り組みを説明する。

同社は「プレミアムゴールドモートル®」というブランド名で、IE3対応のトップランナーモーター製品を0.75kWから55kWまでラインアップ。また、ギヤモーターやブレーキモーターについてもIE3対応のトップランナー製品を取りそろえている。

さらに、トップランナー制度の対象にはなっていないが、永久磁石を使ったPMモーターでは既にIE4レベルのエネルギー効率を実現しており、インバーター駆動時の省エネ化を実現している。

※1:資源エネルギー庁 平成21年度省エネルギー設備導入促進指導事業 報告書
※2:グローバルでは、日本メーカーの中ではトップシェア(2014年 米国調査会社IHS調べ)
図1 IE3から、さらにIE4/IE5レベルの省エネ化を目指して開発される
        東芝産業機器システムのモーター製品
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効率約96%の同期リラクタンスモーターの開発に成功

モーターのさらなる省エネ化を目指して東芝産業機器システムが取り組んでいる技術が「同期リラクタンスモーター」(SynRM:Synchronous Reluctance Motor)の開発と実用化である。同期リラクタンスモーターは、磁束は磁気抵抗の最も小さい経路を最短距離で通過しようとする、という性質を利用したモーターで、例えば「+」形状のような凸部のある回転子(ローター)を使用するのが特徴だ。

このような凸部を「突極」(とっきょく)と呼び、固定子で発生した磁束が突極部を通ろうとするときに回転子が引き付けられて、モーターとしての回転力が得られる。

同期リラクタンスモーターは鉄や銅などの通常の材料のみで構成できるため堅牢(けんろう)で、しかも価格が高く調達リスクもある希土類磁石に頼ることなく高いエネルギー効率が得られるのが大きなメリットです」と濱田氏は説明する。

一方で、(1)遅れ電流の無効成分で磁束を発生させるため、原理的に無効電力が大きい(力率が低い)、(2)回転子の突極形状の最適化とモーターの小型化が難しい、(3)永久磁石を使用していないため界磁磁束による誘起電圧が発生せず、回転子の位置の推定が不可能で、センサーレスでの制御が難しい、といった課題があり、原理自体は100年以上前に考案されていながらも、これまでほとんど実用化されていなかった。

同社では省エネの切り札の1つとして、同一出力を持つ既存のインダクションモーターと同サイズでの実現を目標に、同期リラクタンスモーターの開発に取り組んだ。技術的な最大のポイントは回転子の形状だったと濱田氏は述べる。回転子に突極性を与える空洞(フラックス・バリア)の幅や空洞比率を変えながら電磁界解析を実施し、トルクを維持しながら力率を最大化する最適な形状を得ることに成功した。

また、固定子の起磁力で生じる誘起電圧を観測して、回転子の位置を推定するアルゴリズムを新たに確立した。

15kW相当の試作品ではIE5クラスに匹敵する95.7%もの実測効率を実現。また、既存のインダクションモーターと同等の81.1%という力率を達成した。「技術開発は既に完了し、あとは市場のニーズを見ながら量産技術を確立していく予定です」と、濱田氏は製品化が近いことを明らかにする。

資源としても貴重な希土類磁石を使わずにIE5相当の効率が得られる同期リラクタンスモーターの製品化が待たれるところだ。

図2 永久磁石を使わずにIE5クラスの省エネを実現する同期リラクタンスモーター
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IoT時代に対応した、つながるインバーターを投入

モーターの省エネでは、商用電源による直接駆動は除いて、インバーター(ドライバとも呼ばれる)も重要な役割を果たす。

東芝産業機器システムは、磁極検出性能に優れたソフトウェアを内部に搭載し、用途に応じて選択できる幅広いインバーターをラインアップしている。

同社が「つながるインバーター」をコンセプトに海外向けに開発中の新製品が「TOSVERT VF-AS3」シリーズである。モーターの回転数、電流、電圧、制御状態などの情報をEthernetを介して上位のシステムに送るIoT機能を搭載した。また、IoTのゲートウェイ機能も備えており、ユーザーのセンサー情報などを「VF-AS3」を介してEthernetに送出することもできる。

ユニークなのがQRコード®※3機能だ。なんらかの障害が発生したときやヘルプが必要なときに、前面のLCDパネルにQRコード®が表示される。スマートフォンなどでこのQRコード®を撮影すると、対処方法などを説明した動画をスマートフォンで閲覧できるという仕組みだ。「工場内にあるインバーターをインターネットに接続するのはセキュリティの問題もありいろいろと制約が生じます。そこで外部情報はスマートフォンなどでアクセスしてもらうようにと考えたのがこのQRコード®機能です。海外でデモをすると、分かりやすいと大変に好評です」と濱田氏は説明する。

そのほか、「VF-AS3」の状態をダッシュボードとしてパソコンのブラウザから閲覧できるウェブサーバー機能も搭載するなど、まさに「つながるインバーター」を体現したインバーターといえるだろう。

もちろん、同社の特徴である性能の高い制御ソフトウェアが内蔵されている。また、製品化が待たれている前述の同期リラクタンスモーターの制御にも対応する計画だ。

※3:QRコードは(株)デンソーウェーブの登録商標です
図3 IoT機能など「つながるインバーター」をコンセプトに開発された
     「TOSVERT VF-AS3」シリーズ
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市場はトップランナーへの置き換えが進む

冒頭で述べたように、2015年4月にトップランナーモーターへの切り替えがスタートした。東芝産業機器システムのようなモーターメーカーは、商用電源で駆動される定格出力が0.75kW以上375kW以下のモーターについては、エネルギー効率の高いプレミアム効率品しか販売することができない。標準効率品(IE1)や高効率品(IE2)は市場に流通しないため、モーターを組み込んだ機器や設備を新たに開発する場合や、故障などで既存設備のモーターを交換する場合は、IE3に適合したモーターを使わなければならない(一部の例外を除く)。

既設のモーターの置き換え(交換)にはまだまだ時間がかかる見通しだが、IE3基準のモーターは使用電力が少ないためランニングコストが低く、平均的な運転条件の場合で3年程度で元が取れるとされている。試算では国内のモーターがすべてIE3に置き換わると年間で155億kWhの電力が削減できるとされており、CO2排出量削減などの観点からも、IE3モーターへの置き換えが進むことが期待される。

合わせて、東芝産業機器システムが取り組む同期リラクタンスモーターをはじめとするさらなる高効率なモーターの開発と実用化も期待されるところだ。

なお、東芝産業機器システムは、2015年12月2日(水)から4日(金)を会期に東京ビッグサイト西ホールで開催される「システムコントロールフェア2015(SCF2015)」に、上記の同期リラクタンスモーターの試作品や、「つながるインバーター」の「TOSVERT VF-AS3」シリーズを出展する。同社の取り組みやモーターの省エネの動向を把握できる機会なので、足を運んでみていただきたい。

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