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フェーズドアレイ気象レーダの実証実験を開始「ゲリラ豪雨発生予兆を検知防災対策に役立てる」

※記事中の情報につきましては、すべて取材時点のものとなります。
局地的に大きな被害をもたらすゲリラ豪雨。今まで予測困難だったその予兆をつかみ、防災対策に役立てようという実証実験がこの7月からスタートした。その中心となるのが、大阪大学と東芝が共同で開発し、大阪大学に設置したフェーズドアレイ気象レーダだ。フェーズドアレイ気象レーダは高密度、高速で隙間のない観測ができるため、ゲリラ豪雨を観測できる。実証実験は、情報通信研究機構の協力の下、大阪大学、大阪府、東芝が行い、雨量の正確な測定も可能な次世代のMPフェーズドアレイ気象レーダの開発も進めていく。東芝はその成果の上に、気象防災ソリューションを提供、国内だけでなく、海外での集中豪雨対策にも生かしていく考えだ。

ゲリラ豪雨予兆検知の実証実験を大阪で開始

武藤 隆一 氏 株式会社東芝 社会インフラシステム社 小向事業所 電波応用技術部 
参事 内藤 賢一 氏 株式会社東芝  社会インフラシステム社 電波システム事業部 電波応用推進部 電波応用推進第一担当 参事

近年、突発的、局地的に大量の雨が降り、大きな被害をもたらすゲリラ豪雨の多発が大きな問題になっている。ゲリラ豪雨は局地的に急速に発達する積乱雲によって引き起こされるが、予測が難しく、それが被害拡大の大きな要因となっている。

そこで、7月6日から大阪大学大学院工学研究科の牛尾知雄准教授の研究グループ、大阪府、東芝の3者は、2012年に大阪大学と東芝が共同で開発し大阪大学に設置しているフェーズドアレイ気象レーダを活用し、豪雨発生の予兆を検知する豪雨検知システムの実証実験を開始した(図1)。

この実験は、内閣府総合科学技術・イノベーション会議が主導するSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)の課題「レジリエントな防災・減災機能の強化」プロジェクトの中の「豪雨・竜巻予測技術の研究開発」の一環として実施するものだ。

「研究開発は国立研究開発法人 情報通信研究機構、大阪大学、埼玉大学、国土交通省 国土技術政策総合研究所、国立研究開発法人 防災科学技術研究所、公益財団法人 鉄道総合技術研究所、日本気象協会、東芝の8機関が協力して行います。その中で、フェーズドアレイ気象レーダを活用して、ゲリラ豪雨の観測・予測技術を高度化するとともに、交通機関や自治体などでただちに活用できるトータルな豪雨検知システムを開発していきます」と東芝 社会インフラシステム社 小向事業所 電波応用技術部 参事 武藤隆一氏は語る。

図1 豪雨検知システムのイメージ図
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高速で隙間のない気象観測ができる、フェーズドアレイ気象レーダ

従来の気象観測レーダは、パラボラアンテナを回転させながら、電波を発信し、その反射波によって雨雲の位置や雨量を計測する。そのため、観測エリアに隙間が生まれるとともに、複数の仰角を観測するためには5~10分の時間を要する。通常の雨であれば、この方法でも観測することができるが、ゲリラ豪雨の積乱雲の広がりは数百メートルから数キロメートル程度と規模が小さい上に、雨の降り始めから、数分ないし数十分で豪雨になってしまう。そのため、パラボラ型気象観測レーダでは、積乱雲の発生を捉えることができなかったり、捉えたとしても予測が遅れ、ゲリラ豪雨対策の初動の失敗につながってしまう。

一方、フェーズドアレイ気象レーダは、多数のアンテナ素子を配列し、それぞれの素子における送信および受信電波の位相を制御することで、電子的にビーム方向を変えることができる(図2、写真1)。そのため、パラボラアンテナを機械的に回転させる従来型のレーダと異なり、瞬間的にビーム方向を変化させることができ、1周10~30秒と高速で、しかも約100仰角という高密度で、隙間のない高速観測が可能になる。そして、最高15キロメートルの高さまで3次元観測を行うので、小さな積乱雲の塊の一つひとつがどう動くかが分かる。こうした仕組みで、ゲリラ豪雨を捉えることができるのだ。

「フェーズドアレイは昔からある技術ですが、高価で気象用レーダとしての採用は難しかったのです。そこで、複数のビーム形成を1つのアンテナで実現できるデジタルビームフォーミング(DBF)技術など最新のデジタル処理技術を用いることで、世界で初めてのパラボラアンテナ型と同レベルの価格帯の気象レーダの開発に成功しました」と東芝 社会インフラシステム社 電波システム事業部 電波応用推進部 電波応用推進第一担当 参事 内藤賢一氏は語る。

図2 パラボラアンテナ型気象レーダ(左)とフェーズドアレイ気象レーダ(右)の観測イメージ  写真1 フェーズドアレイ気象レーダの本体

実際の運用の中で、現場の声を聞き、新たな活用も図る

地上付近で普通に雨が降っている場合、上空に豪雨をもたらすような雲の塊があるのか、それともそれほど危険でない普通の雲があるのかは従来のレーダでは分からない。ゲリラ豪雨は上空に雨滴の塊ができて、それが大きくなって、耐え切れなくなってまとまって落ちてくることで発生する。フェーズドアレイ気象レーダは上空の雲の状態をそのまま観測するので、10分後、20分後に大雨が降るのが確実に分かる。また、夏に寒気が入って大きな積乱雲ができると、高さが15キロメートルぐらいにまでなることがあるので、それに備えて、最大15キロメートルまで観測することができる。

実証実験では、フェーズドアレイ気象レーダで、ゲリラ豪雨をもたらす積乱雲の発生過程の詳細な3次元構造を観測するとともに、この数年、大学・研究機関、国土交通省などによって、各地に導入が進んでいるMP(マルチパラメータ)レーダで、正確な降雨量の観測データを併せて解析し、ゲリラ豪雨の発生を事前に知らせる。解析とサーバシステムは、東芝がパブリッククラウド基盤サービス(SoftLayer)を導入して構築。その結果は大阪府の水防本部や出先事務所に設置されたシステムにメールで配信されるとともに、パトランプを点灯させて、通知される。それを見て、職員はポンプ場への指示や下水道流量の調整などゲリラ豪雨への事前の対策を実施する。

「今回の実証実験ではシステムを大阪府内10カ所に設置し、実際の運用の中で、防災対策での有効性を検証するとともに、現場からの意見を聞いて、新たな活用の仕方も考えていきます(写真2)」(武藤氏)

写真2 2015年8月6日に大阪府で降った降雨状況とアラーム

経験をもとに、気象防災ソリューションを新興国に展開

現在、東芝ではフェーズドアレイ気象レーダとMPレーダの機能を併せ持つ次世代のMPフェーズドアレイ気象レーダの開発に取り組んでいる。そして、今回の実証実験の成果をもとに、2018年をめどに、MPフェーズドアレイ気象レーダを中軸に据えて、ゲリラ豪雨や竜巻などの突発的な気象事象を高速かつ高精度に予測し、自治体などに情報を提供するシステムを構築していく。これによって、水防活動における事前防災対策を講じることが可能になる。

東芝ではその経験をもとにして、気象防災ソリューションを国内、海外で提供、販売していく方針だ。「海外で特に注目しているのが新興国です。新興国では国土全体をカバーする広域レーダ網は整いつつありますが、広範囲を観測するため、精度が良くありません。そこで、ゲリラ豪雨が起きやすい場所に絞り込んで、フェーズドアレイ気象レーダを中心とした防災ソリューションを設置すれば、その地域の精密かつ高速な観測が可能になり、防災・減災対策を行うことができます」(内藤氏)。

気象レーダは雨のあるなしの観測、定量的な降雨観測、風速や雨、雪、あられなどの識別という多要素観測へと進化してきた(図3)。東芝はそれぞれの段階において、さまざまな新技術を開発、業界をリードしてきたが、今後、フェーズドアレイ気象レーダをさらに進化させて、高速3次元観測の新たな世界を切り開いていく。そして、それを通して、日本だけでなく、世界各地域の豪雨被害の軽減に役立て、安全で安心な社会の実現に貢献していく考えだ。

図3 東芝が開発した気象観測レーダの進化図
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