“明日”をつむぐテクノロジー special

ダントツ工場を目指すデンソー IoTのパートナーに東芝を選定 導入から3カ月で生産性が大幅に向上

※記事中の情報につきましては、すべて取材時点のものとなります。
世界を代表する自動車サプライヤーの一社であるデンソーは、日本国内を含む世界中のおよそ130工場に導入するIoT基盤に東芝のソリューションを採用した。「生き物」である工場やモノづくりの現場を東芝が熟知していることなどが決め手となった。デンソーは、2020年までにIoTの活用などにより、2015年比で30%もの生産性向上を目指すとともに、東芝と共創パートナーシップを深化させてゆく。
加藤 充 氏 株式会社デンソー 生産革新センター 生産技術部長

「世界中の約130工場と15万人の従業員の知恵をネットワークでつなぎ、2015年を基準とした工場の生産性を2020年までに30%向上させる」--世界的な自動車サプライヤーの1社であるデンソーが発表した「ダントツ工場」(図1)への取り組みは、対象とする規模(世界約130工場)や目標とする成果(生産性30%アップ)が大きいこともあり、産業界に驚きを与えた。

ダントツ工場の実現に向けて、カギとなるのがIoT(モノのインターネット)だ。プロジェクトの取りまとめ役を務める同社 生産革新センターの加藤充氏は次のように説明する。

「IoTを導入した理由は大きく2つありました。1つが、当社のお客様である自動車メーカー各社への貢献です。マスカスタマイゼーションなどお客様のニーズが複雑化する中で、モノづくりに関するさまざまな情報をリアルタイムかつ一元的に把握することが、最終的にはお客様に対してメリットをもたらすと考えました。もう1つの目的が自社競争力の強化です。国や地域ごとの特性や多様性を生かしながら、それぞれの工場の生産性を高めていかなければなりません。以上の2つに対応できるのがIoTであると捉え、取り組みをスタートさせました」

図1 2020年に向けて取り組みを進めるダントツ工場のFactory IoTのイメージ
リンク

工場やモノづくりを熟知した東芝を選定

デンソーがIoTのシステム基盤構築にあたってパートナーに選定したのが東芝である。IoT関連ソリューションの提供にとどまらず、ダントツ工場のグローバル展開なども含めた「共創パートナー」として位置づけている。

その背景について加藤氏は「工場はさまざまな変化が日々起きる『生き物』のような存在です。そのため、IT的な観点だけでなく、モノづくりの現場を熟知し、工場が生き物であるということを理解しているベンダーにシステム基盤の構築を依頼すべきと考えていました。いろいろ検討した中で、私たちがやりたいことを的確に理解してくれて、しかも同じ言葉で会話ができ、さらに私たちが望むソリューションを持っていたのが東芝だったのです」と語る。

決め手になった理由の1つが、IoTデータの取り扱いに適した東芝のデータベース「GridDB®」(グリッド・ディービー)(図2)だったという。

「東芝の生産技術センター(横浜市磯子区)にお邪魔して、デンソーとしてやりたいことや課題になっていることを説明していたときに、東芝のエンジニアの方が、数値データだけではなくテキストや画像もすべて時系列に蓄積できるデータベースがありますよと、GridDB®を紹介してくれたのです。私たちが必要としていた日々の変化を捉えられる機能を備えていて、モノづくりを分かっている東芝だからこそのソリューションと感じました」(加藤氏)

最適なソリューションを組み合わせ、IoT基盤を構築

GridDB®は、キーコンテナ型データモデルを用いたNoSQL型のデータベースである。IoTではセンシング対象の拡大とともに収集されるデータ量も増加していくが、システム規模の増大に対してデータベースを拡大できる、いわゆるスケールアウトが可能な構造になっている。データは基本的にインメモリで高速に処理されるため、スケーラビリティも極めて高い。マシンやデバイスなどから発生するさまざまなIoTデータ(センサー、ログ、履歴など)を時系列に蓄積することができるため、例えばデンソーが求めるような時間に対する変化なども把握しやすい。

機械や設備の状態、製造条件、作業者、原材料情報、顧客情報など、モノづくりのあらゆる情報をGridDB®に格納し、統合データモデルによりさまざまなデータモデルを構造化し利活用を容易にするのが、ものづくり情報プラットフォーム「Meister DigitalTwin™(マイスター・デジタルツイン)」。統合データモデルとして構造化し分析できるのが特徴である。Meister DigitalTwin™に格納されたデータから標準APIにより必要なデータのみを抜き出し、見える化や分析を行うことができる。

製造現場のモニタリングデータをリアルタイムかつ精緻に見える化するのが、つながる工場の見える化ソリューション「Meister Visualizer™(マイスター・ビジュアライザー)」である。Meister Visualizer™が提供する画面フレームワークとUI(ユーザーインターフェース)部品群を活用し、工場内の各拠点、ラインの各装置等のさまざまな要件に合わせた見える化の仕組みを迅速に構築することができる。

東芝はこうしたソリューションを組み合わせてデンソーのIoT基盤を構築した(図2)。既存の機械や設備を活用しながら、およそ3000項目のデータを新たに取得するようにして、既存のデータと合わせて約1万2000項目のデータから、生産や品質の見える化とカイゼンを図っている。

図2 F-IoTのIoT基盤
リンク

現場意識の向上とIoT基盤の導入で、生産性が6%向上

IoT基盤の現場への導入にあたっては、おしきせとならないよう配慮したと、加藤氏は説明する。

「システムは固定的な部分とユーザーインターフェース部分の2層構造で構成しました。このうち、製品や工場ごとに最適化すべきインターフェース部分は、東芝の担当者に現場に一緒に入ってもらって、現場の声を吸い上げながら機能やデザインを実装。そのため、結果的に自分たちが考えた『マイIoT』との認識が現場の人々に浸透し、積極的に活用しようという機運につながっています」

実際に、今まで見えなかった変化がIoT基盤の導入によって見えるようになったことも手伝って、現場の人々の「カイゼン魂」に火が付き、工場に新たな活気が生まれ始めたという。IoT基盤を先行的に導入したある国内工場を視察したデンソー幹部も、現場に活気とリズムを感じたと述べるなど、取り組みを高く評価しているそうだ。

そうした現場意識の変化によって、IoT基盤の導入から3カ月ほどのわずかな期間で、6%もの生産性向上を得られたことが大きなメリットとして挙げられると、加藤氏は述べる。「カイゼンをやり尽くしたと考えていた状態からさらに6%も上がったのは驚異的なことでした。現場でカイゼンの機運が高まり、それが結果に表れて、さらにモチベーションが上がるという、『善の循環』が起きていると感じています」。

写真 IoT基盤が導入されたデンソーの現場で働く様子
リンク

自動運転など、次世代の自動車に向けて共創を深化

デンソーは「世界約130工場をつないで生産性の30%向上を目指す」というダントツ工場の構想を具現化すべく急ピッチで取り組みを進めている。前述のIoT基盤の展開のほか、設備の高性能化や工場マネジメントの見直しなど、さまざまな手段で目標に挑む。「2018年夏の段階で、予定の120%ぐらいのスピードで達成できていると考えています」と加藤氏。

今後、海外工場にIoT基盤を展開するにあたっては、今回のように各工場のリーダーや現場の人と一緒になってIoTの導入やユーザーインターフェースの作り込みなどを進めてほしいと東芝に要望する。また、東芝が持つIoTやモノづくりに関する知見や事例をベースにしたさらなる提案にも期待していると述べる。

そして「共創パートナー」として、デンソーからもさまざまな知見を東芝にフィードバックしていく考えだ。「当社が得たノウハウを東芝のアプリケーションやソリューションに反映していただいて、それらをほかの企業でも活用していただくことで、日本のモノづくりの強化に貢献できたらうれしく思います」と加藤氏は述べる。

なお本稿では割愛したが、東芝はデンソーと、IoTだけではなく、高度運転支援・自動運転に必要な画像認識技術をはじめ、さまざまな分野でも協業している。

東芝は今後、IoTやAIなどの最先端のテクノロジーやソリューションを通じ、次世代の自動車を見据えるデンソーと、さまざまな取り組みに挑んでいく。

取材年月:2018年7月

【関連記事】

pagetop

お問い合わせ