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1対1の高速近接無線技術「データ共有の新しいスタイルを実現する『TransferJet™』」

※記事中の情報につきましては、すべて取材時点のものとなります。
「タッチ・アンド・ゲット」といった新たなコミュニケーションスタイルを実現する近接無線技術「TransferJet™」に普及の兆しが見えてきた。写真や動画などを交換するパーソナルな使い方のほか、コンテンツ配信、会議資料や授業教材の配布、デジタルサイネージやキオスク端末との連携など、さまざまな応用が検討されている。東芝は、ICからSDHCメモリカードまでソリューションをそろえるとともに、10Gbpsの次世代「TransferJet™」の開発にも取り組み、業界をリードする。
的場 司 氏 株式会社 東芝  セミコンダクター&ストレージ社 技術マーケティング統括部  技監

スマホで撮影した写真や動画を家族や友人に渡すのは意外と面倒だ。メールに添付したり、インターネット上の共有サービスを利用する方法が現在は一般的だが、容量が制限される場合もあるほか、なにより手間と時間がかかり、とても簡単とはいえなかった。

そんな面倒だったデータ交換やデータ共有のスタイルが大きく変わるかもしれない。お互いのスマホを近づけるだけで、数百MBサイズのデータもわずか数秒で転送できるTransferJet™(トランスファージェット)という近接無線技術がいよいよ離陸段階に入ってきたからだ。

TransferJet™はネットワークの面倒な設定や操作なしにお互いの機器を近づけるだけでデータのやりとりが可能なワイヤレステクノロジーです。『タッチ・アンド・ゲット』あるいは『タッチ・アンド・シェア』といった新たな利用スタイルを実現する技術として注目されています(図1)」と東芝 セミコンダクター&ストレージ社の的場司氏は説明する。

図1 TransferJet™の特長

TransferJet™は通信可能距離が3cm以内と短いため、Wi-Fiなどの汎用ネットワークとは違って、基本的に1対1(ポイント・ツー・ポイント)でのやりとりになるのが特徴だ。これまでの無線ネットワークが「いつでも、どこでも、誰とでも」をコンセプトにしていたのに対し、TransferJet™であれば、例えばテーマパークやライブコンサートでキオスク端末などを用意しておいて、入場者にのみプレミアムコンテンツを配信するような「今だけ、ここだけ、あなただけ」のサービスを提供することもできる(図2)。

「実際に、2015年8月1日にエコパスタジアム(静岡県袋井市)で開催された『ももいろクローバーZ 桃神祭2015』で、来場者にスマホ用のTransferJet™アダプタを貸し出して限定動画を有償で配信したところ、1000人を超えるファンの方々に利用していただきました」と的場氏は述べる。動画のサイズはおよそ100MBと大きかったが、転送はわずか数秒で完了するため、混乱もなくスムーズに配信できたそうだ。

このほか、デジタルサイネージ、コンビニのキオスク端末、レンタルショップや書店などでのデータ配信など、さまざまな応用が検討されている(図2)。

図2 「今だけ、ここだけ、あなただけ」のサービスを実現する「TransferJet™」
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実効データレートは最高375Mbps

ここでTransferJet™の技術的な概要を見ていこう。TransferJet™は近接無線に分類されるテクノロジーで、中心周波数は4.48GHz帯、PHY層でのデータレートは560Mbps、実効的なデータレートは最高375Mbpsである。端末のI/Oまわりなどのオーバーヘッドを加味すると、100MBのコンテンツならおよそ4秒、1GBならおよそ40秒で転送できる。

なお、交通系カードや電子マネーで使われているNFCも近接無線の一種だが、データレートは数百Kbpsに抑えられており、大容量コンテンツの転送には不向きだ。

TransferJet™はアンテナではなく誘導電場カプラーを使って端末=端末間あるいは端末=クレイドル間で通信を行う。送信電力は-70dBm/MHz以下と微弱で、ローパワー動作が可能である。

そのため、機器同士をおよそ3cm以内に近づけた時だけ通信が可能になり、結果的に通信トポロジーは1対1(ポイント・ツー・ポイント)になる。Wi-FiやBluetoothのような汎用のワイヤレスネットワークと違って、電波の干渉やチャネルの競合が基本的になく、そのぶん通信プロトコルを軽くできるのが特徴だ。

このほか、ストレージ向けの著作権保護技術であるCPRM(Content Protection for Recordable Media)にも対応しており、コンテンツの著作権保護もできるように配慮されている。

TransferJet™は東芝を含む業界各社で結成された一般社団法人TransferJetコンソーシアムによって規格策定や相互接続検証が行われており、現在はISO/IEC 17568として国際標準化されている。

「TransferJet™」搭載のSDHCメモリカードを発売

【写真1】 世界初TransferJet™搭載スマートフォン 富士通 ARROWS NX F-04G

東芝ではTransferJet™の普及を図るためにチップのみならずさまざまなソリューションを製品化した(図3)。

組み込み機器やモバイル機器向けに提供されるのが、無線IC「TC35420AXLG」と送受信モジュール「TJM35420XLQ」である(図3左)。すでに富士通製のAndroidTMスマートフォン「ARROWS NX F-04G」に搭載されており(写真1)、他のスマホへの展開も期待したいところだ。

アダプタは3種類を発売した。Windows®パソコン用のUSBアダプタ「TJM35420AUX」、Android™スマートフォン用MicroUSBアダプタ「TJM35420AMU」、およびiPhone/iPad/iPod用Lightningコネクタ付きアダプタ「TJM35420LT」である(図3中)。

Windows®用にはユーティリティソフト「TransferJet™ Utility」が提供されるほか、Android™用とiOS用にはそれぞれ対応アプリが無償でリリースされている。

また、TransferJet™機能を搭載した16GBのSDHCメモリカードが2015年7月に発売された(図3右)。デジタルカメラやビデオカメラで撮影した写真や動画をメモリカードリーダーを使うことなくパソコンやスマホに簡単に転送できる。「理想はすべてのデジタルカメラとビデオカメラにTransferJet™機能が内蔵されることですが、まずはSDHCメモリカードによって普及を図りたいと考えています」と的場氏は狙いを説明する。

図3 東芝が提供する「TransferJet™」製品のラインアップ

最高10Gbpsの次世代「TransferJet™」も開発中

東芝はこうしたソリューションを足掛かりにTransferJet™の市場拡大のシナリオを描く(図4)。 

写真や動画などの共有や、コンサートやイベント会場での限定コンテンツの配信に加え、会議資料や授業教材の配布などをまずは提案していく。また、訪日旅行者の増加を背景の1つとして、デジタルサイネージや自動販売機でのコンテンツ配信も有力な応用形態になりそうだ。現在は物理的な媒体を貸し出しているレンタルCDやレンタルビデオも、いずれは店頭でデータだけを高速にダウンロードするスタイルに変わる可能性もある。

さらに東芝およびTransferJetコンソーシアムでは、60GHzのミリ波帯を使って10Gbpsのデータレートを実現する次世代TransferJet™の国際標準化を2017年に向けて進めている。4K/8Kの大容量動画も瞬時に転送できるようになればデータの配布や共有のスタイルは大きく変わるだろう。

「海外の展示会でもTransferJet™は大変な人気があり、『タッチ・アンド・ゲット』の手軽さを多くのユーザーが待ち望んでいることがうかがえます。次世代TransferJet™の開発を進めながら現行のTransferJet™の普及を進め、データ共有やデータ配信の新しいスタイルをつくり上げていきたいと考えています。その良さをご理解いただくためにも、ぜひアダプタやSDHCカードを使ってTransferJet™の便利さを体験していただきたいです」と的場氏は訴求する。

TransferJet™は2010年ごろに第一号の製品が市場に投入されたが、当時は大容量データを共有したり配信したいというニーズがまだ弱く、普及するには至らなかった。しかし、その後スマホやタブレットが広く普及し、かつ、動画の撮影や視聴も当たり前になってきたことを考えると、まさに機が熟してきたといえる。スマートフォンやデジタルカメラ等のモバイル機器に新しい利用スタイルをもたらすTransferJet™に注目していきたい。

図4 「TransferJet™」の市場拡大のシナリオ
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