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電力自由化の時代を先取りする デジタル化とテクノロジーで送配電事業の価値を高める東芝の電力流通IoT

※記事中の情報につきましては、すべて取材時点のものとなります。
電力自由化の最後のピースとして、電力の発電と送配電を分離するいわゆる「発送電分離」が2020年4月に予定されている。これまで以上に効率的な経営が求められる送配電事業者に対して、東芝は、IT(情報技術)とOT(運用技術)、およびIoTを活用した「電力流通IoTソリューション」を提供する。変電所のデジタル化、アセットマネジメントの効率化、蓄電による需給調整機能などがポイントだ。
大佐古 佳明 氏
東芝エネルギーシステムズ株式会社
電力流通システム事業部
配電システム統括部
電力IoTプロジェクト
プロジェクトマネージャー

地域ごとの電力会社がこれまで一括で担ってきた、発電、送配電、および小売をそれぞれ分離するいわゆる「電力自由化」が、電力改革政策の一環として日本においても進められている。

いくつかの段階が設けられているが、2016年4月には小売が全面自由化された。約2年が経過した2018年3月時点で、いわゆる「新電力」と呼ばれる新規小売業者のシェアは、販売電力量ベースで約13%、家庭などを含む低圧契約件数ベースで約10%と、電力料金を節減できるなどのメリットが受け入れられ順調な伸びを示している状況だ[*1]。

次の大きなマイルストーンは、2020年4月に施行が予定されている、発電事業と送配電事業との分離である(図1)。送配電網を従来の電力会社だけではなく、新規参入の事業者にも公平に使わせることなどを目的にした措置だ。発送電分離は小売の自由化とは異なり私たちの生活からは直接見えてこないものの、電力の安定供給を確保しつつ、再生可能エネルギーの利用拡大、そして電力料金の低減につながっていくと見込まれている。

各電力会社が送配電事業を分社化するなどの準備を進める中で、長年にわたって電力流通事業を手掛けてきた東芝エネルギーシステムズ(以下、「東芝」)は、「電力流通IoTソリューション」を通じて託送[*2]外収益の確保と、送配電事業の効率化実現を支援する。

「発送電が分離された将来は、発電事業者は送配電事業者に対して託送料金の低減を強く求めると考えられ、そのため送配電事業者はこれまで以上に託送コストの削減や託送外収益の創出を進めていかなければいけません。電力制御システムや電力流通設備に関して多くの実績と経験を有する東芝は、ITとOTとを組み合わせたいわば『IOT』と、設備の監視や管理を効率化するいわゆる『IoT』(Internet of Things)などのデジタル技術を活用しながら、送配電事業の効率化を支援していきます」と、同社の電力IoTプロジェクトチームでプロジェクトマネージャーを務める大佐古佳明氏は取り組みの狙いを説明する(図2)。

  • [*1] 「電力小売全面自由化の進捗状況について」経済産業省 資源エネルギー庁、2018年7月6日
  • [*2] 託送:送配電設備を利用して電力を送ること
図1 2020年4月に予定されている発電事業と送配電事業の分離
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図2 東芝の狙い:託送原価の削減と託送外収益の創出
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電力流通設備のデジタルトランスフォーメーションを推進

加瀬 高弘 氏
東芝エネルギーシステムズ株式会社
電力流通システム事業部
配電システム統括部
電力IoTプロジェクト
サブプロジェクトマネージャー

同社が取り組む「電力流通IoT」の全体像(図3)を見ていこう。ここでいうIoTには、前述の通り、ITとOTを組み合わせた「IOT」と、機器や設備をセンシングしたデータを分析し価値へと反映する、いわゆる「IoT」の両方の意味が込められている。

まず重要なのが、電力流通に関連するさまざまな設備のデジタル化である(図3下)。後述するアセットマネジメントの効率化や、SCADA/EMS[*3]を通じ、いっそう高度な制御が可能になる。

「送配電の世界にもデジタル化の波は押し寄せており、具体的には変電所設備をデジタル化して運用管理の効率化を図った『デジタル変電所』を構築しています。また、スマートグリッドの代表的な規格であるIEC 61850[*4]に基づいた設備のネットワーク化も進行しています。一方で、デジタル化に対応していない現行設備をいかにデジタル環境に取り込んでいくかも重要です」と、同チームの加瀬高弘氏は指摘する。

同社ではこうした市場の変化に合わせて電力流通設備のデジタル化を進めている。既存の設備に対してはセンサーの追加などを提案する考えだ。「運用中の設備にセンサー類を追加するにも知識と経験が必要です。電力流通設備を長年にわたって提供してきた当社だからこそ、デジタル基盤の構築においてさまざまな提案ができると考えています」と、加瀬氏は強みをアピールする。

  • [*3] SCADA:Supervisory Control And Data Acquisitionの略で、送配電分野では一般に電力系統の監視制御システムのこと/EMS:Energy Management Systemの略で、コスト制約を考慮しつつ電力の需給バランスを取るシステムのこと
  • [*4] IEC 61850:変電所の統合/オートメーションに使用される通信ネットワークとシステムの規格
図3 東芝が提供する電力流通IoTソリューション
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IoTに東芝独自のAIを組み合わせて運用管理を効率化

渋谷 真人 氏
東芝エネルギーシステムズ株式会社
電力流通システム事業部
配電システム統括部
電力IoTプロジェクト
参事

同社の取り組みの2つ目となるのが、巡視・点検、アセットマネジメントなどの効率化である。電力の安定的な供給を維持しながら、託送に要する運用コストの削減を図る提案だ。

図3における「巡視・点検・異常対応」に対しては現場作業を支援するソリューションを提案する。例えば音声認識による現場レポーティングのリアルタイムでのテキスト化、音声合成やARを用いた作業指示、ロボティクスや画像認識を用いた巡視支援などだ。東芝グループが持つさまざまなテクノロジーを組み合わせながらソリューションを構築する。実際にドローンを使って高圧送電線を撮影し、アナリティクスAI「SATLYS™」(サトリス)を用いて送電線の素線切れやアーク痕などを自動検出する実証実験も進められている。

「アセットマネジメント」では、デジタル化した設備から得られたデータを東芝のAI技術を用いて分析し、設備の異常検知、故障予知、寿命予測、保全および更新計画の支援などを行う(図4)。

同プロジェクトの渋谷真人氏は次のように述べる。「送配電網は数多くの機器や設備で構成されています。そうした膨大なアセット(資産)を、電力の供給を維持しつつ、いかに低コストで、かつ、いかに効率的に監視・管理するかが託送コストの削減には重要です。当社はアセットマネジメントに関して、グループ会社が持つAI技術も活用しながら、最適な方法を提案します」。

図4 東芝が提案する送配電事業向けアセットマネジメントの概要
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高性能かつ実績の豊富な東芝二次電池 SCiB™で電力需給を調整

最後に、電力需給調整に関するソリューションを紹介しよう。近年、天候や時間によって発電量が変動する再生可能エネルギーの導入増加に伴って、需給調整能力の確保が課題に挙がっている。電力を使う側においても酷暑や極寒の天候が続いてエアコンの使用が増えるなど振れ幅が大きくなっている。適切な需給調整がなければ需給の逼迫を招いてしまう状況だ。

そこで送配電事業者が抱える需給調整ニーズに対して東芝グループが提案するのが、性能と安全性に優れたリチウムイオン電池「SCiB™」を用いた蓄電システムである。すでに数十kWから数十MWクラスのプラントを世界各国に納入済みだ(図5)。「実証実験だけではなくて実運用としても使われており、実績と規模の両面で世界トップクラスを誇ります。初期の設備は稼動から10年近くが経過していますが、今でも性能は落ちていません」と大佐古氏は説明する。海外の蓄電池プラントでは、需給バランスによって変動する周波数を安定化できるとして、周波数調整市場における託送外収益の確保にも用いられている。

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また、東芝では、太陽光発電や蓄電池、水素など地域に散在する複数のエネルギー発電・蓄電設備を効果的に制御・運用し、1つの発電所のように機能させることで系統の安定化に寄与する「バーチャル・パワープラント(仮想発電所)」も手掛けており、横浜市などと実証実験を進めている。SCADAおよびEMSを活用して蓄電池の充電放電制御および状態監視を行いながら、デマンドレスポンスのサービスモデルの確立を目指している。

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図5 東芝の蓄電システムの納入実績
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送配電事業の経営をITとOTで支援

東芝は、発電および送配電に関する実績と経験に、ITやOTをベースにしたデジタルトランスフォーメーションを組み合わせながら、目前に迫った電力の完全自由化の時代に向けて、送配電事業の効率化を実現するさまざまなソリューションやテクノロジーを提案していく考えだ。また、デジタル化された電力流通設備から得た情報を、さらなる改善や提案へとつなげていく。

「送配電事業を担っているお客様からは、電力自由化においてもぜひ一緒にやっていきましょうと声を掛けていただいています。当社の取り組みが送配電事業者の経営強化へとつながればうれしく思いますし、ひいては電力の安定供給を確保し、電力料金の削減に貢献できれば幸いです」と大佐古氏は展望を述べた。

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