藤田靖さん(仮名)、50代、男性
職業:フリーランス講師→教育機関職員(キャリアカウンセラー)
勤務先:教育機関
健康保険:国民健康保険(診断時)→私学共済

2012年に直腸S状結腸部がん(ステージIIIa)の告知を受け、11月に腹腔鏡下手術により摘出。半年間(6クール)の術後補助化学療法を受ける。その後、再発は認められず、現在は経過観察中。

・フリーランスのときは、仕事先との長年の人間関係があったため、病気のことを正直に話して理解を得た。

・長期療養者等就労支援モデル事業(当時)によるがん相談支援センターの就職相談を利用した。

・勤務に特別な配慮が必要ないため、求職時にはあえて病歴を開示しなかった。

これまでのキャリアを活かす形で職業訓練を受け、転職に成功

藤田さんは、フリーランスで専門学校の講師として20年以上働いてきた。

2012年の秋に直腸がんが見つかり、11月に腹腔鏡下手術を受けた。入院期間は2週間ほどだったが、手術後はすぐには働けないと考え、そのクールの仕事はすべてキャンセルした。仕事先はどこも長年のつきあいがあったので、病気のことを正直に話すと「元気になったら、またお願いします」と言ってもらえた。

フリーランスだったので有給休暇や傷病手当金の支給はなく、休業すると収入が途絶えた。ただ、民間のがん保険に入っていたため、診断給付金が100万円あり、その後も手術や入院日数に応じて補償を受けられた。それほど深い考えはなく、たまたま契約したものだったが、入っていて本当によかったと思う。

翌年2月からの仕事はかなり依頼があり、当初はできると思って引き受けた。ところが、術後補助化学療法が始まると、副作用からか体調が不安定になった。不定愁訴が続いて体調が悪いものの、原因がはっきりしない。精神的にもまいった状態になり、「途中で止めるとかえって迷惑をかける」と考えて、開始直前に2月からの講座をすべてキャンセルさせてもらった。

その後、また仕事は入ってきたが、体調不良による急なキャンセルを何度か繰り返すと、だんだん仕事が減っていった。度々キャンセルされると、先方も不安になったのだろう。

講師の仕事は週1回くらいになり、収入は激減した。2年くらいは貯蓄でしのいでいたが、だんだんそれも底をついてきた。

がん相談支援センターで、就職相談に乗ってもらう

2014年秋頃に、患者会で知り合った人から、国立がん研究センター中央病院のがん相談支援センターで就職相談に乗ってもらえると教わった。長期療養者等就労支援事業(当時はモデル事業)により、飯田橋のハローワークから月に2回相談員が派遣されてくるという。その病院に通院していなくても利用できることや、中央病院に来る相談員がとてもやさしい人だと聞いて、相談することにした。

>長期療養者就職支援事業(厚生労働省)
  概要図、実施ハローワーク(公共職業安定所)と連携拠点病院のリストが掲載されています。

電話予約して相談に出向き、ハローワークからの相談員と、がん相談支援センターの相談員による面談を受けた。詳しく話を聞いてもらって、就職についての相談を重ねていった。

転職の場合は、どうしてもそれまでの職務経験が問われることになる。専門性の高い職務経験は強力な武器になるが、もしそれがなくても、何か具体的に自分の経験をアピールすることが重要だ。

藤田さんの場合は、これまで経済系の講師をしながら、学生の就職相談にも応じてきた。これまでのキャリアを活かすためには、キャリアカウンセラーを目指すのがよさそうだ。相談員から求職者支援制度について教わり、給付金を受けながら、キャリアサポーター養成科の訓練を受けることにした。

>求職者支援制度のご案内(厚生労働省)
 職業訓練受講給付金などの説明が掲載されています。

がん罹患歴を明かさずに、採用通知を得る

2014年末から翌年6月まで半年間の訓練を受け、修了と同時に求職活動を開始した。

応募の際、病気のことを話すかどうかは、かなり迷った。

最初は正直に話してみたが、不採用になった。不採用の理由はわからないが、がんを打ち明けたことが、マイナス要因になった可能性はある。もし自分が採用する立場なら、がんの罹患歴がある人の採用をためらうかもしれない。

がん相談支援センターの就職相談で病歴開示について相談すると、「もし、業務上何か配慮してもらう必要があれば、言わないわけにはいきません。でも、それがなければ、あえて言う必要はないのでは」とアドバイスを受けた。再発のリスクを隠していてもいいのだろうかと問うと、「他の人もまだ見つかっていないだけで、がんはあるかもしれませんよ」と言われて、「それもそうだ」と勇気がわいた。

病気のことを打ち明けないで応募したところ、2カ所から採用通知を得ることができ、そのうちの1つに10月から入職した。

就職先は短期大学のキャリアセンターで、就職活動中の学生と面談し、キャリアカウンセラーとしてアドバイスをしている。フルタイム勤務だが、嘱託で1年ごとに契約更新がある。正規職員に比べると給与水準は低いが、有給休暇や社会保険などの支援サービスは正規職員と同様に受けられる。

手術から4年が経過して、体調はほぼ回復した。手術のためか便通に多少異常があり、たまに急にトイレに行きたくなることがある。学生の面談中などに起こると冷や汗をかくはめになるが、それ以外は特に問題はなく勤務できている。

フリーランスの頃は、主に夜間の講座を受け持っていたため、夜型でとても不規則な生活だった。いまはすごく規則的で、規則的に生活するとこんなに体調がいいのかと思う。

藤田さんは独身でひとり暮らしだ。実家には母と姉がいるが、心配をかけたくなくて、手術で同意書が必要になるまで、打ち明けなかった。その後、母には多少経済的な支援もしてもらったが、50代になって親に心配をかけることは、心苦しかった。安定した仕事を得て、母を安心させられて、本当によかったと思う。

情報を開示するかどうかで大切なのは、人間関係

藤田さんは自分のことを、かなりきまじめで、責任感が強すぎて、自分を責めてしまうような性格だと自己分析している。手術後半年くらいは、「がんになったのは自分に責任があるのでは」「がんになったことが恥ずかしい」といったマイナス思考にとらわれた。不定愁訴が続いたのも、あるいは精神的な影響かもしれない。その後、病院の患者会に参加して仲間に出会えたことから、少しずつプラス思考に変っていった。同じ病気をした仲間には、わざわざ説明しなくても気持ちをわかってもらえるので、ありがたい。きまじめな人はがんになりやすいと聞いたので、いまは意識していいかげんでいようと思っている。

がんとその後の転職体験から思うのは、人間関係の大切さだ。

病気の情報を開示するかどうかは、人間関係の有無にかかっていると思う。フリーランスで仕事をしていたとき、取引先はどこも長年のつきあいでしっかりした人間関係があったため、躊躇なく情報を開示できた。また、「元気になったら戻ってきてください」と言ってもらえた。しかし、まったく初対面の人に対して、「実は私はがんで闘病していまして」と話しても、受入れてもらいにくいだろう。

いまの職場にはがん体験を話していないが、ある程度人間関係ができたいまなら、もし打ち明けても、おそらく受入れてもらえるのではと感じている。

職場にがん体験を話していないことに、うしろめたさはない。

自分は、がんになって世界観が変ってしまった。それまでは、がんのことをほとんどわかっていなかったと思う。だから、がんのことをよく知らない人に、自分はがんだと打ち明けても、なかなかわかってもらえないだろう。話すことでかえって誤解されるのならば、あえて話すことはない。それは、人間関係を良好に保つためのひとつの知恵だと思う。

・患者会で仲間を得ると同時に、さまざまな情報を得たことが、就職相談から求職者支援訓練制度の利用、就職にまでつながった。

・病気の開示については、業務上何等かの配慮が必要になるかどうか、慎重に吟味した。

・転職の際は、それまでの経験を具体的にアピールすることが重要。

フリーランスで長く働いてきた藤田さん。がん相談支援センターとハローワークが連携する「長期療養者等就労支援事業」を使って、新規の職探しに成功した事例です。ハローワークの専門相談員が拠点病院のがん相談支援センターで長期療養者の職探しをサポートする本事業は、平成28年度から各都道府県で少なくとも1か所のがん相談支援センターで実施されています。当該医療機関を受診していなくても利用可能で、ハローワーク側にも専用の相談窓口が設けられており、新たな職探しのサポートシステムとして期待されています。

過去の職歴や専門技能を生かした再就職活動は参考になります。藤田さんはその過程で病気情報を開示しない選択をしましたが、それは配慮がなくても業務が遂行できる見込みがあったからであり、配慮が必要であれば、長期的には病気情報を開示したほうが無理がないでしょう。その見極めには、業務内容の慎重な吟味が不可欠です。おそらく、ハローワーク相談員と医療情報がわかるがん相談支援センターの相談員が連携して対応したものと思われます。第三者のアドバイスが得られるのは貴重だと思います。

顧客への情報開示、転職時の情報開示、民間医療保険、雇用形態の変更、がん相談支援センターでのハローワーク相談員による就職相談(長期療養者就職支援事業)

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