GISTを治療の傍ら、個人事業所にて勤務を継続

平塚歩さん、40代、女性
職業:事務職員
勤務先:個人事業所(税理士事務所、従業員数4名)
健康保険:税務会計監査事務所健康保険組合

2012年6月に外陰部腫瘍の摘出手術を受け、病理検査でGIST※と診断される。3カ月後に断端部位を除去するために再手術。経過観察中の2014年8月に局所再発。2015年1月に摘出手術を受ける。同年4月に分子標的薬の服用を巡ってセカンドオピニオンを求めるうちに、遠隔転移(腹膜播種、胃と副腎の間の腫瘤など)が発見される。同年5月より分子標的薬イマチニブ(商品名グリベック)の服用を開始し、現在も服用中。

※GIST(消化管間質腫瘍):悪性腫瘍の一種で、消化管の壁から発生する肉腫。

・職場では1人ずつに、少しずつ何度も説明し、理解を得るようにした。

・なるべく休まずに受診できるように、職場近くの病院に転院して経過観察を行った。

・インターネット等を利用して積極的に情報収集し、相談窓口や患者会も活用した。

・どうすれば副作用を少なくできるのか、試行錯誤をしながら薬とのつきあい方を探っていった。

仕事は生活の一部。自分の生活を守るために、働き続けたい

 平塚さんは、個人の税理士事務所で働いて8年になる。

 2009年頃、外陰部に小さな硬いものがあることに気付いたが、痛みもないため、特に気に留めていなかった。気付いてから2年目に、2カ所の婦人科クリニックを受診したがいずれでも原因がよくわからなかった。3年目になって大きさが4cmくらいになり、座るときや排便時など生活に支障を来すようになったため、3カ所目の婦人科クリニックを受診し、そこで大学病院を紹介された。

 2012年6月に大学病院で摘出手術を受け、その後の病理検査でGISTと診断された。GIST自体が10万人に1から2人と希少な病気だが、原発部位が外陰部であることは非常に珍しく、医師も驚いたようだった。

 開腹手術をしなくてすんだため、10日ほどで職場復帰できたのは、幸運だった。少人数の職場なので仕事を代わってくれる人を探すことは難しい。もし長期間の入院が必要なら、仕事を続けられなかったかもしれない。

 GISTの診断後、断端部位に細胞が残っていたため、約3カ月後に再手術をして取り去った。

 GISTでは、転移リスク分類が重視される。当時の分類では低リスクと判定されたため、経過観察をすることになった。現在の分類なら高リスクに該当するが、当時は低リスクと言われたので、それほど重大には受け止めなかった。職場にもGISTという肉腫だと伝えたが、特に深刻には受け止めなかったようだ。経過観察のために通院が必要なことは伝えて、了解を得た。

 手術をした大学病院は職場から遠く、通院に時間がかかる。平塚さんは、2回の手術と通院で職場に大きな迷惑をかけたと感じ、職場の近くの別の大学病院への転院を希望した。系列ではない大学病院間の転院は異例だが、仕事を続けるためには必要と思い、無理を言って双方の病院に聞き入れてもらった。

 平塚さんは、不妊治療のために仕事を一時休止していたことがある。出産をあきらめ、夫婦2人で生きていこうと決めた後に、新たな気持ちをもって、いまの税理士事務所で働き始めた。自分の日常生活を守るためには、仕事をやめたくないという気持ちがあった。

 転院先の大学病院は、職場からは目と鼻の先で、予約制のため待ち時間は比較的少ない。半日休暇で十分受診でき、ときには昼休みを利用して、休暇を使わないで受診することもあった。

自分を納得させるため、情報を集めてセカンドオピニオンを受ける

 2014年8月に局所再発し、手術をした病院での受診を勧められた。そこで、最初の大学病院を受診して、2015年1月に摘出手術を受けた。総合的に高リスクということで、分子標的薬イマチニブ(商品名グリベック)の服用を勧められたが、平塚さんはすぐには決断できなかった。

 グリベック®を飲むと、さまざまな副作用の心配がある。本当に抗がん剤を飲まなくてはいけない病気なのだろうか。外陰部という稀な部位で、本当にGISTだろうか。いろいろな思いが錯綜して、自分を納得させるために、インターネットで情報を収集した。そして国立がん研究センターの「希少がんホットライン」に電話で相談し、国立がん研究センター中央病院でセカンドオピニオンを求めることにした。

 中央病院で病理診断からやり直してもらい、2015年4月に、やはりGISTとの診断を受けた。また、その後の検査で遠隔転移(腹膜播種、胃と副腎の間の腫瘤など)が判明し、平塚さんは、きちんと自分の病気と向き合わなくてはいけないと考えた。

 最終的にはGISTに詳しい医師のいる国立がん研究センター東病院(千葉県柏市)へ転院し、5月からグリベック®の服用を開始した。現在は、1、2カ月に1度、休暇を取って東病院に通院しながら、フルタイムで勤務を続けている。

 GISTは稀な病気で、平塚さんも自分が診断されるまで聞いたこともなかった。そこで、当初から積極的に情報を集めて、勉強していった。初発時には、がん相談支援センターで相談し、国立がん研究センターが提供する「がん情報サービス」や日本癌治療学会の「GIST診療ガイドライン」を読んだ。再発後には、「希少がんホットライン」に電話で相談したり、製薬会社が情報提供をする「グリベックなび」や患者が集まる「GIST掲示板」などを利用した。

 特に、NPO法人GISTERSが運営する「GIST掲示板」は、非常に心強かった。最初は読むだけでなかなか書き込めなかったが、勇気を出して書き込むと、同じ病気の患者さんや、家族の方からコメントをもらえた。また、同じGISTERSが運営する非公開のSNS「GISTERS.net」を紹介されて、参加した。GISTERS.netでは、治療をしながら働き続ける人が意外に多いとわかって、勇気づけられた。

 GISTに関する勉強会や交流会のお知らせなどは、NPO法人GISTERSのホームページで公開されている。SNSで交流している人や、インターネットで繋がりのないGISTの患者さんに出会える貴重な機会なので、遠隔地で開催されるときでも、参加することがある。

 グリベック®の副作用は、人によってさまざまだ。平塚さんは、骨髄抑制、浮腫、発疹、吐き気等の副作用を経験したが、最初の頃に比べるといまは落ち着いてきたようだ。

 吐き気をどうすれば少なくできるか、他の患者の体験談や「グリベックなび」を参考にして、試行錯誤しながら薬とのつきあい方を探っていった。そのためか、ある程度の吐き気や浮腫はあるものの、腫瘍の増大を抑えて、仕事を続けられている。副作用が強くて服用を続けられない場合もあるので、薬が身体に合ったのはありがたいと思う。

何度も足りないところを補うように、少しずつ話して理解を得た

 平塚さんの勤める税理士事務所では、1人の税理士の下で、3、4名が補助業務を行っている。平塚さん以外の職員は、顧客まわりで外出することが多い。平塚さんは主に事務所に残って、補助業務をしながら電話対応もする。そのため、通院で休むときには、誰かが代わりに事務所に残ってもらう必要がある。

 現在は、通院予定は早くから決まっているが、セカンドオピニオンを受けているときには、急に休まなくてはいけないことが多かった。迷惑をかけるのは申し訳なかったが、事前にそういうことがあるかもしれないと説明しておいて、その都度頼んで予定を調整してもらった。

 周囲の理解を得るために、誰かと1対1になるときを見計らって、1人ずつ「実はいまこういう状態なんです」と説明していった。一度でわかってもらおうとせず、足りないところを補うように、少しずつ何度も話していったので、理解してもらいやすかったのではと思う。

 有給休暇が不足しがちなため、通院以外でなるべく使わないように、体調管理には気を配っている。それでも有給休暇を使い果たしたときは、欠勤した分を減給してもらうことにした。周囲には、欠勤分は給料が減っていることをそれとなく伝えて、不公平感をもたれないように配慮した。

 病気の状況は、できるだけきちんとすべてを伝えるようにしている。ただ、局所再発後に遠隔転移が見つかったときには、退職を勧められるのではという不安から、再発のみを伝えて、遠隔転移のことは話さなかった。最近、「実は遠隔転移もしていて」と明かしたが、「これまでも変らずに仕事を続けているのだから、全然問題ありません」と言ってもらえて、ありがたかった。

 再発し、セカンドオピニオンを受けているときは、この先どうなるのだろうと思うと精神的にとてもつらかった。いまでも常に不安はある。そんな中、職場の人たちは、何もなかったように普通に接してくれるのがありがたい。理解のある職場に恵まれて、本当に感謝している。

 職場の人間関係は、病気になる前から良好だ。仕事でも飲み会でも、自身が思ったことを気軽に話せる環境だから、病気のことも話しやすかった。仕事を続けられるのは、それまでの人間関係や職場環境があってこそだと思う。

 グリベック®は高価な薬なので、高額療養費制度を使っても経済的な負担は重い。平塚さんは民間のがん保険に入っていたので、診断時、手術時、入院時には給付を受けられた。現在、診断給付金を薬代にあてているが、これがなくなると仕事で収入を得ることは一層重要になる。働いていることで、「がんと共存していく」自信がわいてくる。仕事は生活の一部で、社会とつながる生きがいにもなっている。これからも、できる限り仕事を続けていきたい。

平塚さんの事例から学ぶこと

・病気のときに限らず、普段から気軽に話をしたりできる職場の人間関係が重要。

・周囲に根気よく説明し、不公平感を持たれないようにした。

・希少ながんの情報を効率よく得るため、信頼度の高いインターネットサイトや各種の相談窓口を活用した。

・職場近くの病院への転院など、前例が無くても自分から働きかけて道を切り開いた。

稀ながんと診断されたときには、信頼度の高い情報を効率的に集めることが特に重要になります。平塚さんは、医療情報を信頼できるリソースから収集するとともに、患者グループでの体験者同士の交流からも多くのヒントを得ています。稀ながんであるほど体験談を聞く機会は貴重ですから、患者グループとのつながりは重要な意味があったものと思います。職場関係者の理解を得る工夫も印象的です。個別に少しずつ何度も説明すること、急な受診の可能性も伝えておくこと、欠勤に不公平感を持たれぬようにすること。職場に恵まれたと語る平塚さんですが、ご自身の細やかな工夫が、職場全体の理解と納得感を時間をかけて形作ったように感じられました。

社内への情報開示、転院、インターネット情報、民間医療保険

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