高橋康一さん、40代、男性
職業:会社員(システムエンジニア)
勤務先:富士通株式会社(通信システムの製造・販売等、従業員数156,000名)
健康保険:富士通健康保険組合

2011年4月に上行結腸がんが発見されて手術を受けた後、約半年、12クールの抗がん剤治療を実施。2014年11月に腹膜播種で再発。手術後、約半年、12クール抗がん剤治療を実施。2015年9月に右外腸骨リンパ節に再発、手術。2016年2月に右鼠径部リンパ節転移により、手術。同年5月に傍大動脈リンパ節に再発。手術不可のため抗がん剤治療を開始して、現在も治療中。

・抗がん剤の副作用による体調悪化のピークが土日に来るように治療日を設定するなど、副作用対策を工夫した。

・チームメンバーには病状を正確に伝えて理解を得るようにした。また、人の嫌がる業務を引き受けるなど、残業ができなくても、違う形でチームに貢献するようにした。

・仕事をいつ離脱してもよいように、作業状況をこまめに記録してチームで情報を共有した。問題を先送りしないなど、効率的な業務を心がけた。

・インターネットの情報は信用できないものも多いため、闘病中の患者ブログなど口コミ情報を活用した。ブログのオフ会や患者会などに出かけて、対面での情報交換を行った。

多くの人とつながりができて、世界が広がった

 高橋さんは、IT企業でシステムエンジニアとして働いてきた。2011年4月に会社の健康診断で便潜血反応があり、忙しいので精密検査に行かないつもりだったが、保健師の説得で渋々受診したところ、上行結腸がん(ステージIIIa)が見つかった。

 上司にはすぐに隠さず伝えたが、人事部にはあまり知られたくない。病気欠勤となると人事部に伝わってしまうので、このときはすべて有給休暇で対処した。幸い入院期間が1カ月未満で大型連休と重なり、その後の通院も併せてすべて有給休暇で間に合った。病気欠勤ではなかったため、復職時の面談等はなく、仕事の担当も変わらなかった。

 手術後は、12クール約半年間の抗がん剤治療を通院で受けた。

 2014年11月に再発して、手術を受けた。このときは有給休暇ではまかない切れず、2カ月間の病気欠勤となった。

 高橋さんの会社では、長期間病気欠勤すると、復職時には医師の診断書を提出して、復職面談を受けることになる。復職面談には、産業医、保健師、上司、職場作り支援スタッフ※、人事担当者が参加して、復職に支障がないかを判断する。復職直後に産業医面談が1回あり、その後も月1回程度定期的に産業医面談を受ける。産業医面談の結果によって、その都度、就業規制を付けたり外したりする。就業規制は、体力や治療の状況によって、残業禁止、遠隔地出張禁止などの条件がつく。
※職場づくり支援スタッフとは、担当部門に広い人脈を持ち、相談しやすく指導力を発揮できる役割を担う人。詳しくは、「第1回意見交換会レポート」を参照。

 2015年1月に復職面談を受けて復職したが、就業規制により残業禁止となった。業務内容は、残業をしなくて済むような小規模プロジェクトやサポート業務に変わり、規制がはずれたあとには元の業務に戻った。

 退院後に、12クール約半年間の抗がん剤治療を通院で受けた。

 2015年9月に、再発して手術した。1カ月の病気欠勤後、10月に復職。このときも残業禁止の就業規制がついたため、負担が軽い業務に変わった。この就業規制が解除される前に、2016年2月にリンパ節に転移があり、入院して手術を受けた。病気欠勤中の5月に傍大動脈リンパ節に再発。手術はできず、3週間に1度の抗がん剤治療を開始し、現在も継続中だ。

 抗がん剤治療を続けながら6月に復職。現在、就業規制により残業が禁止されている。

 がんのことについて、職場では、上司にはありのままを正確に具体的に伝え、人事担当者には、上司を経由して伝えてもらった。同じプロジェクトのメンバーには、自分が抜けることで迷惑をかけるので、正確に早めに伝えている。それ以外の同僚には、おおっぴらに広めはしないが、もし聞かれたら正直に答えるというスタンスだ。

 顧客については伝え方が非常に難しく、必要最低限の情報を上司や営業部など第三者から伝えてもらうことにした。

 周りが忙しく残業しているときに自分が対応できないことには、後ろめたさを感じている。お客様と直に接するSE部門ではなく、比較的残業の少ない後方支援部門へ異動するべきかとも悩む。人がやりたがらない面倒な仕事を引き受けるなど、違う形でグループに貢献するように配慮している。

 いつまた入院して離脱するかもしれないので、作業状況をこまめに記録して、チームの中で情報を共有している。問題を先送りせずに、すぐに対処するなど、残業できない分は、効率化や作業分担を工夫している。

がんについてわかってくれている人と気軽に話せる場所があることは、ありがたい

 がんが見つかると、まず入院の予約を入れて、すぐに上司に報告・相談する。仕事の引き継ぎなどがあるので、病状や治療計画は、隠さず正確に話す。予約をしてから入院するまでの待ち時間が、20日から40日かかる。仕事の引き継ぎなど準備ができるのはよいが、待機期間が長いと精神的にはつらかった。

 入院前には、万一のときに備えて、大掃除と財産整理を行うようにしている。父が亡くなったときに財産整理ができていなくて困った体験からだが、一種の儀式として気持ちを切り替える意味もある。

 退院後、自宅療養中には、ウォーキングやストレッチをして、体力を取り戻すようにした。高橋さんの会社では、自宅療養中は時短勤務が適用されない(育児・介護のみ適用される)ため、復職にはフルタイム勤務ができる体力が必要だ。集中力を高めるために、デスクワークの模擬訓練として、だんだんデスクに向かう時間を延ばしていくようなことも行った。

 独身でひとり暮らしのため、自宅療養では食事の問題がある。野菜不足をおぎなうために、スロージューサーで特製野菜ジュースを作ったり、栄養補助食品を利用したりした。高齢者向けの健康に配慮した宅配食材や弁当のサービスも利用している。復職してからは、コンビニで、帰宅時に受け取るようにした。

 通院治療のための有給休暇のやりくりには苦心している。

 1回目の入院はすべて有給休暇でまかなった。2回目以降は、長期入院時には病気欠勤の制度を利用している。

 問題は、復職後の通院治療だ。病気欠勤は1日単位では取得できない。欠勤になると人事評価や収入に影響があるため、できるだけ有給休暇で対処したい。

 抗がん剤治療は2、3週間に1回の通院が必要で、どうしても丸1日かかってしまう。3週間に1回なら年間17日必要だが、有給休暇は年間20日しかない。定期検査などの通院も必要だ。検査は、できるだけ午前中とか午後に集中して行い、半日休暇を利用できるようにしている。

 いまはなんとか有給休暇で通院できるが、旅行など他の用事では休めなくなっている。

 病院が自宅や勤務先から遠くて往復3時間くらいかかるので、緊急時はどうしようかと不安がある。今後、もし自宅で介護が必要になったらどうするかも心配だ。親兄弟は、遠方に住んでいるので、あまり頼れない。

 勤務先の健康管理室には週2回カウンセラーが来て、無料でカウンセリングを受けられる。高橋さんは、産業医の勧めで、ここでカウンセリングを受けて精神的なケアをしてもらっている。何でも相談できるので、再発や死の不安を話すこともある。回答が得られるわけではないが、話すだけでもすっきりする。

 健康管理室には保健師が常駐していて、雑談の相手をしてくれる。がんについてわかってくれている人と気軽に話せる場所があることは、とてもありがたい。

副作用の影響を最小限にするために、治療日を設定するなど工夫

 抗がん剤は、FOLFOX(5-FU+ロイコボリン+オキサリプラチン)を24回、FOLFIRI(5-FU+ロイコボリン+イリノテカン)+アバスチンを1回実施後、新薬の治験に参加して、いまも継続中だ。

 副作用の中でいちばんつらかったのが、オキサリプラチンによる手足のしびれだ。症状が悪化して日常生活に支障が出そうになったため、オキサリプラチンは途中で中止した。

 それ以外にも、吐き気、悪心、疲労感、倦怠感、発熱、頭痛、しゃっくり、味覚障害、便秘・下痢、脱毛、睡眠障害、集中力低下、無気力、骨髄抑制などの副作用を経験した。副作用が出にくい体質だったのか、吐き気には吐き気止め、睡眠障害は睡眠導入剤などを使えば、なんとかコントロールできている。

 吐き気止めは眠気が強く出るので、勤務中には問題だ。コーヒーを飲み過ぎて胃が荒れてしまったことがある。しゃっくりは、投与後2日間続く。見た目に異常なため、周囲への説明に苦慮している。脱毛する抗がん剤を使用するときには、周囲に事前に説明して、医療用ウィッグの使用も検討した。ただ、実際には1回投与した時点で治験薬に切り替えたので、髪が少し抜けただけで済んだ。

 抗がん剤治療を受けた後、3日目から5日目に疲労感や倦怠感が強くなる。そこで、木曜日に投与して、体調不良のピークを土日にあてるようにした。そのため、副作用がつらくて休んだのは、5年半の間に2、3日で済んでいる。

 抗がん剤の副作用かははっきりしないが、集中力や記憶力が低下し、生産性が低下した。以前は10分で作れた資料に30分もかかる。そのため精神的なストレスがたまるが、これといった対処法はない。

 5-FUという抗がん剤は、病院で抗がん剤の入ったボトルを装着した後、48時間携帯して注入し続ける。仕事中はボトルを布製のケースに入れてベルトに固定し、シャツの下にチューブを通して左胸のCVポートにつないだ。

 ケースを使ってなんとか目立たせずに仕事をしたが、やはりじゃまだった。48時間は入浴できないので、夏場は汗臭くなることも気になった。

口コミ情報を重視し、患者会などで対面での情報交換をする

 がんになって、治療費がかかるのに収入は減った。

 病気欠勤時には給料はカットされる。健康保険に傷病手当金の制度があるが、同一疾病では支給を開始した日から1年半しか受給できない(健康保険組合の付加給付で延長あり)。いまは断続的に休んでいる状態なので、まだ使わずに申請のタイミングを見計らっている状態だ。

 また、就業規制で残業できない間は残業代が入らないため、以前に比べて収入が25~30%減っている。

 治療費については、健康保険組合の高額療養費制度を利用した。また、個人契約の生命保険と医療保険に加入していたので、入院、手術、通院の給付金を受けられて、経済的には助かった。

 ネットにはさまざまな情報があふれ、信用できないものが多い。派手な宣伝やセンセーショナルな報道は真に受けず、客観的なデータを確認するようにした。

 闘病者のブログなど口コミ情報は積極的に利用した。ネットのオフ会や患者会に参加し、対面での情報交換をしている。ただ、闘病者の発する情報は、有用なものが多い反面、病状が悪化していくばかりなど、非常につらい情報が多い。

 がんになる前とあとでは、高橋さんのがんに対するイメージはがらりと変わった。がんになれば長期入院と思っていたが、実際には手術後1、2週間で退院するし、抗がん剤は副作用のコントロールが進んでいて、通院で受けられる。長くは生きられないのだろうとも思っていたが、がんと共存しながら5年以上が経過した。

 治療をしながら仕事はできる。長期間共存するので治療費を稼ぐ必要があるのだが、仕事をする意義は、それだけではない。仕事は社会との接点であり、社会貢献ができていると感じることで、生きる意欲にもつながっている。がんになってから、再発や死への不安が常にあるが、働いているときは、がんのことを忘れられる。

 死を意識することで、自分の生き方も考えるようになった。限りある命だと思うと、いろいろなことに積極的になったり、人にやさしくなったりできるときがある。仕事に対しても、最後の仕事かもしれないと思うと、真剣に取り組める。

 キャンサー・ギフトという言葉があるが、がんになってよかったこともある。

 まず、人のやさしさやありがたさを身にしみて感じることがある。上司に「君はできることをやればいいんだ」と言ってもらったり、産業医に「就業規制に何か言われたら、私の指示だと言えばいい」といってもらったりしたことは、心にしみた。会社の中でも外でも、さまざまな人たちに支えられて生きているのだと実感する。

 インターネットや患者会で、多くのがん友達ができて、たくさんの人とつながりができた。これまで仕事上のつきあいと家族親戚くらいだった世界が大きく広がったことは、非常によかったと思う。

龍田さんの事例から学ぶこと

・治療や検査日の設定を工夫することで、副作用のコントロールや有給休暇の節約など、就労と両立しやすくできる。

・仕事のチームには病状を正確に話して理解を得る。いつ離脱してもよいように、こまめに記録して情報を共有するなどして、迷惑を最小限にする。

・がんに関する情報には誤ったものが多いため、信頼性があるものか確認する必要がある。

・カウンセリングを受けたり、気軽に雑談したりできると、精神的なケアを得られる。

度重なる治療とシステムエンジニアとしての仕事を5年間も両立することは、容易ではなかったはずです。高橋さんは、仕事への影響を最小限にとどめるためのさまざまな工夫を具体的に語ってくださいました。また、働き手としてのパフォーマンス維持に向けた自己管理や、サポートする上司や健康管理室スタッフとの信頼関係も印象的です。死を意識することで自らの生き方を考えるようになり、さまざまな人からの支えも実感すると語る高橋さん。その働き方は、逆に周囲のスタッフにも大事なメッセージを伝えているのではないでしょうか。

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