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乳がんで3回の手術と抗がん剤治療を受けながら、部長職を継続

太田純子(おおたよしこ)さん、40代、女性
職業:会社員(管理職)
勤務先:株式会社日立製作所(従業員数303,887名 連結、2017年3月末日現在)
健康保険:日立健康保険組合

2015年11月に人間ドックで「左乳房石灰化、要精密検査」の診断を受け、2016年4月末に精密検査を開始。6月に大きさ0.8cmの浸潤がん、ステージI、ホルモン(+)、HER2(-)と診断される。8月にセンチネルリンパ節生検と左乳房の部分切除手術を受ける。病理検査の結果、リンパ節転移はなかったものの、核グレード3、断端露出ありとの診断。10月に再度左乳房部分切除を受ける。病理検査で、多発性の非浸潤性乳管がん、断端露出ありとの診断を受け、12月に左乳房の全摘出術。2017年1月~3月に化学療法(TC療法、3週間ごとに4クール)を受ける。その後、5年間のホルモン療法を開始し、継続中。

・上司、部下、関係する部署の部課長クラスには、情報をオープンに伝えた。

・都合がつく範囲内で、業務を考慮して通院と手術日程を決めた。

・1週間以上出社できない場合に備えて、引き継ぎ事項を洗い出して、不在時の対応を部課長に依頼した。

・抗がん剤治療と業務との両立は難しいと考え、上司に後任人事を相談したところ、部長職のまま負担を軽減する人事を配慮してもらえた。

・出社できないときも最低限メールを確認し、何かのときには電話やビデオ通話アプリなどで連絡可能だとメンバーに伝えた。

「体調が大丈夫なら、来るだけでいいから」と言ってもらえた

 太田さんは、IT事業の事業企画部門で、部長職を務めている。事業企画部門は、事業部の中長期計画の方向性や進め方を考え、示し、かつ推進する役割で、部員は約10名と少数精鋭だ。 2015年11月に人間ドックで「左乳房石灰化、要精密検査」の診断を受けたが、それまでもよく診断されていた乳腺症だと思って、数カ月放置。いつもと違うしこりに違和感を覚えて、2016年4月に総合病院を受診したところ、針生検などの検査を経て、6月に大きさ0.8cmの浸潤がん、ステージI、ホルモン(+)、HER2(-)と診断される。そこで、8月にセンチネルリンパ節生検※と乳房部分切除の手術を受けた。
※センチネルリンパ節生検:乳がんが最初に転移するリンパ節であるセンチネルリンパ節を摘出して、転移の有無を確認すること。一般的に手術中の迅速診断で、転移があるときのみ腋窩リンパ節郭清を行う。

 術中迅速診断で転移はなかったが、手術後の病理検査で切除断端に微細ながん細胞があり、放射線治療とホルモン療法(5年間)の前に、追加部分切除をすることになった。また、がん細胞の種類が核グレード3と悪性度が高いため、手術後に、抗がん剤治療(TC療法)を行うことになった。

 がんと診断されたときはかなり落ち込んだが、早期だから手術をすれば大丈夫と思って、前向きに考えるようにした。ところが抗がん剤治療が必要になり、気持ちは再び大きく落ち込んだ。抗がん剤は副作用が強いから、仕事ができなくなるかもしれない。治療が長期間にわたると、10年くらいで定年だ。仕事中心でここまで来たのに、もう満足に働けないのだろうか。そんな考えが頭をよぎった。

 8月末に、再手術と抗がん剤治療が必要になったことを上司に伝え、業務との両立は難しそうなので後任人事を考えてほしいと話した。すると、「人事についてはすぐに考えます。でも、いきなり休職を考えるのではなく、体調が大丈夫なら、来るだけでいいから出社するといいよ」と言われた。上司は、親族が抗がん剤治療を受けた経験から、抗がん剤治療中は体調にかなり波があるとわかっていたそうだ。

 自分が考えもしなかった両立の提案を上司から受け、太田さんは、いっきに気持ちが前向きになった。そして、「これまでと同じ成果は出せなくても、今の私にできることで貢献しよう」と気持ちを切り替えた。

 タイミングよく、ちょうど人事異動の時期で、10月から、他部署から部長を1名追加配置してもらった。太田さんは異動しないで、責任範囲が限定的な部長職となった。また、他部署に異動予定だった課長職1名を兼務で残してもらい、太田さんの負担はかなり軽減された。

主治医と相談して副作用をコントロール

 2回目の手術後に抗がん剤治療に入るはずが、術後の病理検査で断端露出と広範囲での非浸潤が見つかって3回目の手術が必要になった。またもや気分は落ち込んだが、左乳房全摘出手術を決断。感染症などへの懸念から、再建手術は受けないことにした。年齢的なこともあり、乳房を失うことへの抵抗はそれほど強くなかった。片側を失うことによる体のゆがみは気になったが、人工乳房の存在を知って不安がかなり解消した。

 12月に左乳房の全摘出手術を受け、2017年1月から抗がん剤治療を開始。TC療法を3週間ごとに4クール行った。

 主治医には仕事を続けたいと伝えて、手術前にも退院後どのくらいで仕事に戻れるか、退院後の生活で気をつけることはないかなどを事前に確認していた。抗がん剤治療中も仕事を継続したいと主治医に伝えると、できるだけ通常の日常生活を送れるように副作用をコントロールする薬を処方してくれた。

 太田さんは体調の変化を細かく記録して、それをもとに主治医と副作用対策を相談。体調を整えるために、漢方医にも相談して漢方を利用した。そのためか、副作用は思ったよりも強くはでなかった。また、投薬日の関係で体調の底がうまく週末に重なったため、出勤に支障が出る日を少なくできた。

 出勤できる程度に副作用は抑えられたが、口の中の違和感、浮腫、手指と腕のしびれなどの副作用は、つらかった。口の中の違和感は、舌のしびれ、粘膜が乾く感じ、口内炎、味覚障害などが起こった。浮腫は、顔が腫れ、普段の靴や服が入らなくなった。指がパンパンに腫れて曲げにくくなり、パソコンのキーボードを打つのが大変な日もあった。

 抗がん剤治療中は、体調管理のために食事に気を配ろうと、なるべく自分で食事を作るようにした。たとえば、身体を温めるためにしょうが、浮腫をやわらげるために小豆など、食事面でも体調を整えるようにした。

 夫は週末に野菜スープを作るなどして、支えてくれた。夫と二人暮らしなので、家事は手抜きでもあまり困る人がいないことも助かった。

 主治医は、一貫してていねいにわかりやすく説明をして、太田さんの話にもしっかりと耳を傾けてくれた。太田さんは自分のことは自分で決断したいタイプだ。主治医は、医師として適切だと考える治療法をはっきりと示す一方で、決してそれを押しつけずに太田さんの意志を尊重してくれた。病院は通勤途中にあり、職場からも自宅からも通いやすかった。立地のよい病院で信頼できる主治医に出会えたことは、非常に幸運だった。

自分がいないと業務が回らなくなっていた

 太田さんが働く事業企画部門は、社内の他部署とのやりとりが多いが、社外との接触はほとんどない。早い段階で、部下と上司、仕事上関わりがある他部署の部課長には、がんになったことや治療計画をすべてオープンに伝えた。頻繁に休んだり体調不良で仕事に影響が出たりしたときに、理解とバックアップを得るには必要だと考えた。日頃のやりとりで信頼関係を築けていたために、情報開示にためらいはなかった。結果的に周囲からは理解を得られ、大いに励まされた。

 当初は詳細な治療計画をすべて職場に伝えたが、予想外に治療予定が変わったために、雑音情報が多くなってしまった。もう少し自分の中でかみ砕いて、本当に必要なことを選んで伝えればよかったと思う。

 太田さんは、他人にまかせることが不安で自分で動きたい性格だ。部員の数が少なく、専門性の高い部員が多いこともあり、これまで太田さんが直接メンバーとやりとりして指揮することが多かった。しかし、太田さんがいないと部の業務が回らない形になっていたのは、問題だった。今後は、一定レベルでメンバーに仕事をまかせる体制を整えていくつもりだ。

 入院などでしばらく不在にするときには仕事の引き継ぎをして、いざというときは電話やビデオ通話アプリなどで連絡してよいと伝えた。実際、ベッドで横になっていても、スマートフォンでメールチェックはできる。何もできないのは手術の日当日から翌朝くらいまでだった。部下も遠慮したのか、結果的に電話連絡はなかったが、同報メールで業務のやりとりが流れてくるため、入院中でも状況は把握できた。太田さんはなるべく口を出さないようにしたが、どうしても気になるところは、メールで助言を送ったりした。

 日立には、在宅勤務や別拠点同士でもコミュニケーションロスを最小にして仕事ができるITツールが用意されている。今回は在宅勤務という形はとらなかったが、自宅にいても会議に出席したりできるのは、安心感がある。

 太田さんは事業部門のダイバーシティー、働き方改革推進委員を務めていて、部内には育児中で時短勤務をする人や病気を抱えながら働く人がいる。マネージャーである太田さんが率先して利用することで、こういうツールが普及すればよいと思う。

年次有給休暇の範囲内で対処できた

 休職をせずに治療を続けたが、通院、手術、体調不良など、仕事を休む日はどうしても多くなった。当初は手術1回で済む予定が、手術3回に抗がん剤治療も加わって、年次有給休暇がどんどん減っていった。夏期休業の時期に手術をあてるなど、できるだけ休暇を節約したが、入院期間だけで17日の年次有給休暇を消費した。他にも、検査通院などで、思いのほか休暇が必要だった。

 太田さんの会社では、年次有給休暇は年度ごとに24日支給される。残った年次有給休暇は翌年に持ち越せるが、翌々年には持ち越せない。太田さんは前年の年次有給休暇を持ち越したため、年度初めには48日の年次有給休暇があった。

 また、勤続10年以降40年まで、5年ごとに5日間の「リフレッシュ休暇」と称した休暇が与えられる。太田さんは2016年度にちょうど勤続25年で、この「リフレッシュ休暇」が利用できたので助かった。「リフレッシュ休暇」は、35歳以上の者は1回だけ10日間に拡大できる。太田さんは申請すれば10日間の「リフレッシュ休暇」が使えたが、手続きの時期が過ぎてしまって今回は5日間しか使えなかったのは残念だった。

 翌年に持ち越せずに打ち切られた年次有給休暇のうち、1年に4日、最大20日までがさらに積立てられる。積立有給休暇は、ボランティアなどの社会貢献活動、育児・介護、病気やケガのために利用できる。太田さんは、幸い年次有給休暇と「リフレッシュ休暇」の範囲内で間に合って、積立有給休暇は使わずに済んだ。

 太田さんは傷の治りが早く、短い期間で退院できたのも幸いだった。趣味のゴルフや他部署との連絡で社内を歩き回るなど、普段から身体を動かすようにしていたことで、ある程度体力があったのかもしれない。

 休職しなかったことと、がん保険と民間医療保険の支給が受けられたことから、経済的な心配は特に抱えずに済んだ。

インターネットでは、出所が確かな情報を参考にするよう気をつけた

 がんと診断されると同時に、積極的に情報収集をした。インターネットには、玉石混淆の情報があるので、国立がん研究センターや他のがんセンターのホームページなど、出所が確かな情報を選んで参考にした。また、書籍も何冊も読んでみた。

 抗がん剤治療を受けたくないという思いが強く、当初は代替療法の情報も探してみたが、治療実績などを調べた結果、より確実に治すには標準治療でいくべきだと判断した。

 患者ブログでは、ウィッグや日常生活での便利グッズの情報が、大いに参考になった。ただ、患者ブログにはつらい闘病生活の記載が多いため、ある程度の知識をもって読まないと、不安だけが広がる場合があると思う。

 がんになって、健康の大切さ、日常生活をなにげなく送れる幸せを知ったと思う。これまでの生活はかなり不摂生だったと反省し、睡眠時間の確保と栄養に気を配り、健康的な生活を送るようになった。

 治療中も仕事を続けることで、気持ちが前向きになれたのはよかった。ある程度身体を動かすことになるし、職場の人とのコミュニケーションは、張り合いになった。家にいると、おそらく病気のことばかり考えてしまっただろう。

 がんの治療中は、一見元気そうに見えても、必ずしもそうではない。手術後や化学療法等の治療期間中は、元気に見えても健康なときよりも疲れやすく、疲れは回復しにくい。本人にしかわからない副作用があることを、周囲の人は知っておいてほしい。業務負担を減らしてもらえたことは、とても助かった。

 気力・体力が整った状態にないと、がん治療は乗り越えられない。自分が好きなことや楽しいと思えることをたくさん取り入れることも、気力を保つためには大切だと思う。

太田さんの事例から学ぶこと

・日頃の信頼関係があれば、周囲の人の理解とサポートを得やすい。

・治療予定は、状況により変わることを理解しておく必要がある。

・抗がん剤の副作用は、薬である程度緩和できる。詳細な体調記録をとることで、医師との相談がしやすくなった。

・自分がいないと業務が回らない体制では、いざというときに休みにくい。

・ITツールを使えば、入院中や自宅でもある程度仕事はできる。

部長職にあり、ご自身の体調管理と部のパフォーマンス管理の双方に取り組んだ太田さん。社内制度やIT環境が充実していても、変化する治療予定への対応は容易ではなかったはずです。もっとも印象的なのは、太田さんが「伝達者」の役割を見事に果たしていることです。主治医との間では、就労継続の意思を伝えるとともに体調変化のグラフを示し、仕事への影響を最小限にする治療計画を共に考えてもらっています。そして、主治医から得た医学情報を咀嚼して職場の文脈に変え、ご自身の働き方の見通しをオープンに上司・部下・関連部署に説明しています。その結果、人事的な配慮によって業務負担がかなり軽減され、気持ちのうえでも多くの支援が得られたと太田さんは語ります。ご本人の伝達力がもたらすもの、そして、本音のコミュニケーションの前提としての主治医の協力や周囲との信頼関係の大切さを改めて感じさせてくれる好事例です。

社内への情報開示、企業風土、業務の負担軽減、副作用対策、情報収集、有給休暇

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