二九精密機械工業の取り組み

取材先:二九精密機械工業株式会社(ふたくせいみつきかいこうぎょう)
代表取締役会長 二九宏和さん
同 執行役員 社長室室長 大川智司さん
同 執行役員 製造部部長 廣瀬正典さん
対象企業:二九精密機械工業株式会社(製造業、従業員数165名)

・会社負担で団体用総合医療保険に加入し、病気になったときの経済的不安を少しでもやわらげるようにしている。

・正社員の短時間勤務制度や障がいがある人でも作業ができるアシスト器具を作るなど、何らかの働きにくさを抱える人でも、どうやって能力を活かして働けるかを考えている。

・経営者が普段から社員の顔を見て声をかけて回るなど、家族的なコミュニケーションで本音を話せる環境作りを心がけている。

従業員が安心して働ければ、顧客や協力会社の安心につながる

 京都に本社を置く二九精密機械工業(以後、二九精密)は1917年に創業し、今年100周年を迎える老舗企業。開業当初の仏具製造業から機械加工を行うようになり、現在は金属加工を中心とした精密機械部品加工やβチタンパイプの製造を行っている。血液分析計の注射針や内視鏡のパーツなど、約60%がメディカル関係の製品だ。

 創業時は従業員数名の同族会社だったが、現在は従業員数165名に成長。それでも、会長自ら現場を周り、ひとりひとりの社員に声をかけ、表情や顔色の変化を見るように心がけている。最近は年間数十名が入社するようになり、さすがに顔と名前が一致しないことが出てきたが、会長にはいまでも従業員を家族のように思う気持ちがある。

 従業員の働きやすさを追求してきた結果、2015(平成27)年には京都府から「京都モデル」ワーク・ライフ・バランス推進企業認証を取得。2016(平成28)年には京都府子育て支援表彰を受けた。

 二九精密では経営理念として、顧客、協力会社、従業員に対する3つの安心を掲げている。会社の基盤は従業員であり、従業員が安心して働ける環境があれば、よい製品を顧客の希望する納期通りに納品できるため、顧客の安心につながる。協力会社も同様で、相互に安心があることで事業がうまく回っていくという考えだ。

団体総合医療保険の加入で、経済的な不安をやわらげる

 従業員の安心のために、2017年1月から入院手術見舞金制度として、会社負担での団体用総合医療保険に加入した。

 二九精密では、最近6年間に40代から50代の社員6名ががんに罹患した。企業にとって中心となる働き手であり、家庭でも大黒柱となる年代で、がんになった従業員や家族の不安を少しでもやわらげられないか、会社として何かできないかを検討した結果、団体用総合医療保険の導入を決めた。

 保険料は会社負担で、年間300万円程度の固定費がかかる。役員の中では、中小企業としてここまでやる必要があるのか、保険ではなく対象者が出る度に個別に支援してはどうかという意見もあったが、最終的には従業員の安心につながるということと、わかりやすく公平な制度ということで、加入を決めた。幸い、保険料は会社の財務システムの見直しにより捻出できた。

 個人で加入する一般的な医療保険と同様に、入院や手術を行ったときに、入院給付金5千円/日、入院療養給付金2万5千円/回、入院中の手術10万円/回、日帰り手術2万5千円/回、放射線治療給付金5万円/回などの給付金が、会社を通して支払われる。契約時には各従業員に告知書を書いてもらうことから、従業員へは医療保険の加入は周知されている。ただし、大病をした人は完治後5年経たないと加入できないため、今回6、7人は加入できない社員がいた。

 従業員の安心のためには、病気への対応以外にもさまざまな制度がある。 「成長できる安心」として教育制度・自己啓発支援制度があり、通信教育、書籍の購入、資格支援、講習会への参加などを支援している。

「いきいき楽しく働ける安心」として、社員の親睦を図るため毎年社員旅行を実施している。近年は海外に出かけることが多く、2016年には一足早い100周年記念としてハワイ旅行を実施して、入社式もハワイで行った。また、社内自助組織「友の会」では、月千円の会費で、納涼会や忘年会などのイベント、慶弔金支給、クリスマスケーキ配布などの活動を行っている。

「どうやったら働いてもらえるか」を考えて、多様な人材を確保

 「自分らしくいられる安心」として、多様性を認め個性を尊重することを掲げている。障がい者、育児中などなんらかの働きにくさのある人でも、会社としてその人の持っている力を発揮できるように支援し、評価するようにしている。

 そのため非正規雇用の社員はほとんどいない。期間限定社員はいるが、ほとんどが1年ほどで所属長の推薦により、正社員に登用する。

 働きにくさを抱える人のために、正社員のまま短時間の勤務を認める制度がある。定時は8時半から夕方5時半までだが、9時から4時、10時から4時といった勤務時間に変更できる。係長など役職はそのままで、時間が短くなった分、給料は少なくなる。また、働きづらさがなくなった時点で、いつでもフルタイムに戻ることができる。

 短時間勤務の人は、時間が短いことを意識して集中して仕事を行うため、効率的な仕事をすることが多い。「4時に帰るので、伝票を4時までに出してください」といった要望はあるが、いまのところ短時間の社員がいるので業務が滞ったり、周囲に迷惑をかけたりということはない。

 現在、誰かが休んでもラインが止まらないように多能工化を進めている。多能工化とは、ひとつの作業を複数の従業員ができる体制にすることだ。がんなどの病気がなくても、例えばインフルエンザで1週間休む人がでることはある。しかし、従業員がインフルエンザにかかったからといって納期を延ばしてはもらえないので、顧客の安心のためにも多能工化は必要だ。多能工化により、従業員にはいくつもの仕事を覚えてスキルアップにつながるというメリットがある。

 もし1人が欠けても10人で仕事を分割できれば、1人当たりの負担増は10分の1になる。多能工化が進めば、病気などで休んでも周囲に大きな迷惑をかけないで済む。

 二九精密の障がい者雇用率(※)は2.2%で、法定雇用率を上回る。障がいを持つ従業員は1級1名、2級1名の2名だ。※労働時間数や障害の程度によって一定の方式で換算したもの。

 2級の従業員は病気で左手に力が入りにくくなった。金属加工では削ったあとにブローといって空気で細かい金屑を吹き飛ばす作業があるが、右手で製品を持ちながら左手でブローを行うことが難しかった。そこで左手の代わりに足で操作してブローを行うアシスト器具を作成したところ、健常者と遜色なく働けるようになった。

 1級の従業員は、交通事故による脊椎損傷で下半身が不自由になり、歩行はできるが時間がかかる。しかし、CADを使ってパソコンで3次元画像を見ながらプログラミングができるという、ほかの人にはなかなかできない能力があるため3年前に採用した。障がい者であることを、周囲は当初は意識したと思うが、現在はまったく意識していないようだ。時間はかかるが歩いて移動できるので、特別な配慮はいっさいしていない。

家族的なつながりで、柔軟に対応する

 経営者や管理職は従業員の様子を常に観察し、顔色が悪いときは残業させないなど、ケースバイケースで配慮をしている。家族的なつきあいを軸にして、普段からコミュニケーションがとれている。そのため、がんになったことを会社に打ち明けづらいということはない。幹部社員ががんへの罹患をオープンにしていることも、気兼ねなく話せる空気につながっている。

 上司や経営者が、普段から直接従業員とコミュニケーションをとっていたので、復職するときに産業医に相談することを思いつかなかったという。意見交換会で産業医に相談できることがわかったので、今後は産業医への相談も考えるそうだ。

 病気休暇については、特別な制度はない。有給休暇がなくなったあとは休職になり、休職6カ月で基本的には退職となる。ただ、経営者の判断で変更できるため、柔軟に対応している。実際に、うつで休職6カ月を過ぎた社員が、主治医の意見などを参考にして休職期間を延長し、8カ月で復職した例がある。そのときは、復職直後は精神的な負担をかけない業務を担当させ、半日勤務から徐々に時間を増やすといった対応も行った。

 中小企業は経営に余裕がないので、仕事に対してはきびしい結果を求められる。しかし、病気は本人がなりたくてなったわけではないため、復帰が可能な状況であれば、臨機応変に特別な配慮をしている。

 従業員に無理な負担がかからないように、人員補充の要請があればできるだけ新規採用を行っている。いまのところはうまく人材確保できていて、補充したいが人材が見つからないということはない。従業員数が165名と零細企業とはみなされなくなったために、応募者が増えたのかもしれない。優秀な人材でも、辞めたい人は引き留めない。そのときは引き留めても、結局辞めていく可能性が高いからだ。二九精密で働きたいというモチベーションがある人を大切にするようにしている。

会長のひと言で、何が何でも復職しなくてはと考えた

 二九精密でがんになっても働き続けた例として、執行役員で生産部長の廣瀬正典さんの事例を紹介する。

 廣瀬さんは、2015(平成27)年に会社の健康診断で、胸部X線画像に影が見つかった。CT検査とPET検査で腫瘍が確認され、2日間の検査入院で内視鏡検査を受けた。内視鏡検査でがん細胞は確認できなかったものの、最終的に肺がん(ステージIからIb)の診断を受け、手術を勧められた。

 廣瀬さんにはがんは不治の病というイメージがあり、告知のときは自分の人生はもう終わったような気がしたという。しかも、工場生産のトップという責任がある仕事にもかかわらず、後継者が育っていないと気づき、途方にくれた。主治医から「手術ができるのは治る可能性があるから幸運だ」と聞いて、手術を決意した。

 手術の日まで1カ月程度あったので、自分が入院中に問題がないように生産計画を立てて、あらかじめ部下に指示を出しておいた。しかし、それまで自分ひとりで仕事を抱え込んでいたため、手術後2日目から、ベッドの上でパソコンを使ってメールのやりとりをして、進捗状況を確認し続けた。身体に点滴などの針が6本ささり、管が3本つながった状態でメールをやりとりするのは、かなりきつかった。顧客に迷惑をかけることなく、すべての業務を滞りなくやってくれた部下には感謝している。

 入院中に会長が見舞いに来て、「当然治るのだから、何が何でも治して会社に戻ってこい」と言われた。とてもきびしい言葉だったが、しっかりと治療をして仕事に復帰しよう、がんになっても復帰できるという見本になろうと心に決めた。

 10日間入院し、3日間の自宅療養の後に、フルタイム勤務でそのままの役職で仕事に復帰した。体力がかなり落ちていて、自家用車で通常45分のところを途中で休憩を入れざるを得ず、倍の1時間半かけて通勤した。階段を上がるのがつらかったが、管理職で椅子に座っていられたので、助かった。体調が戻るまでには3カ月かかった。

 手術後半年で気胸になって5日間入院し、退院後自宅療養2日で、また仕事に復帰した。生活がかかっているので、仕事を失う怖さに比べれば身体がきついくらいなんともないと思った。手術後1年半経ち、走ったりはできないが、仕事は普通にできている。体力が必要なことは、部下に頼んでフォローしてもらっている。

二九精密機械工業の取り組みから学ぶこと

・家族的なコミュニケーションで、普段から本音で語り合える環境があると、周囲に理解されやすい。

・何らかの働きづらさがある人でも、どうやって働いてもらおうかと考えると、道が開けてくる。

二九精密機械工業株式会社の取り組みは、単に「家族的経営」という言葉ではまとめられません。もっとも重要なキーワードは「安心」。しかも、まず働く従業員の「安心」を確保することが顧客や協力会社の安心にもつながるという考え方に立ち、さまざまな側面から「安心」を検討して制度に結び付けています。 また、制度やコミュニケーションに加えて、働きにくさを抱える従業員への対応を「この人を働けるようにするにはどうしたら」という視点からとらえています 費用対効果だけではなく人材を宝と考えて判断する姿勢に、100年企業の懐の深さを強く感じました。

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