2015/08/25

ヒューマンキャピタル2015・セミナー 「『がんと就労』に必要な体制づくり 〜東京都がんと仕事の両立優良賞受賞企業、サノフィの事例から学ぶ」を開催

 2015年7月、東京国際フォーラムにて、企業の人事・組織戦略・人材関連サービスのための専門イベント「ヒューマンキャピタル2015」が開催されました。その中で、セミナーとして15日に実施された「『がんと就労』に必要な体制づくり 〜東京都がんと仕事の両立優良賞受賞企業、サノフィの事例から学ぶ」について報告します。

 最初に座長である国立がん研究センター(NCC)がん対策情報センターの若尾文彦センター長から、がんと就労を取り巻く現状について、背景説明がありました。次にサノフィ株式会社 人事・総務本部 人事・労務部長 長田茂樹氏から、サノフィの「がんと就労」に関わる制度と体制について講演していただき、その後、パネルディスカッションによって理解を深める形で進行しました。それぞれについて、内容を紹介しましょう。

がんと仕事を両立するためのノウハウを共有したい 国立がん研究センター(NCC)がん対策情報センター センター長 若尾文彦

 いま日本人の2人に1人はがんになる時代だ。20歳から65歳の働く世代のがんも増えている。そして、働く世代のがん患者さんは、4分の1が退職している。がんと仕事を両立できないのだろうか。

 国は、平成19(2007)年にがん対策推進基本計画を作り、平成24(2012)年に更新した。そのとき、重点的に取り組む課題として、「働く世代や小児へのがん対策の充実」、全体目標として、「がんになっても安心して暮らせる社会の構築」、分野別施策には「がん患者の就労を含めた社会的な問題」などを加えた。国も、働く世代のがん対策を進める必要があると考えている。

 それに基づき、昨年、「がん患者・経験者の就労支援のあり方に関する検討会報告書」がまとめられた。その中で、企業については「がんや治療に対する知識・理解の不足」「治療のための休暇を取得しやすい労働環境や企業風土形成が不十分」「柔軟な雇用管理の取り組みが普及していない」といった課題が指摘された。

 国立がん研究センターがん対策情報センターでは、がん患者さんが働き続ける際の参考資料として、「がんと仕事のQ&A」をがん対策情報センターのウェブサイト「がん情報サービス」の「生活・療養」の中で提供している。これには、がん患者さんが職場で働くためのさまざまなノウハウや体験談が記載されているので、ぜひ活用してほしい。

 昨年度、東京都は、がんと就労について非常によい取り組みをしている優良企業として、中小企業4社、大企業3社を表彰した。本日は、その中のサノフィ株式会社の方に、その取り組みを紹介していただく。そのノウハウを、みなさんで共有して活用していただきたい。

「がんと就労」治療と就労の両立を図る制度・体制について サノフィ株式会社 人事・総務本部 人事・労務部長 長田茂樹氏

 サノフィは、フランスに本社を置く製薬企業で、社員数は世界で11万人。約100か国で事業を展開し、昨年度の売り上げは338億ユーロ(約4兆5千億円)となる。日本では、2900億円規模の売り上げがあり、社員数は約2650人。

理念と方針

 理念・方針として、ラ・メゾンとダイバーシティを重視している。ラ・メゾンはフランス語で家という意味で、会社を家に見立て、社員を家族のように大事するということだ。また、CSRの取り組みとして4つの領域に12のプライオリティがあり、このうちのひとつがダイバーシティ(多様化)だ。健康問題もひとつのダイバーシティととらえている。

制度と体制

 がんと就労に関わる制度のひとつに、ラ・メゾン休暇がある。これは失効した有給休暇の積立制度だ。利用要件に、「本人私傷病(暦日7日以上の連続休業)」がある。また、「会社が必要と認めたケース」という要件もあり、弾力的に運用をしている。

 休業を支えるしくみとして、GLTD(長期所得保障)がある。休業発生から90日は免責期間で、本人の有給休暇あるいはラ・メゾン休暇を使ってもらう。その後、健康保険からの傷病手当金に加えてGLTDが給付され、18か月間は、ほぼ100%給付される。その後18か月間は、70%給付される。

 在宅勤務制度は育児や介護を想定しているが、利用要件に「会社が認めたもの」とあり、がんの治療中でも、個別ケースで認めている。終日在宅は週2日まで。適用する職務に制限があり、例えば外回りが多い医療情報担当者や工場のライン生産従事者は対象外となる。利用できるのは、管理職とMC6(一般社員の最上位職種)となっている。

 がんと就労を支えるしくみとして、メディカルルームがある。統括産業医1名、各エリアに計10名の産業医、本社に看護師2名、川越医務室に保健師1名がいる。メディカルルームの役割は、社員の健康増進、健康相談、予防、健康管理だが、例えば休業から復職する場合には、健康相談として、産業医や看護師がサポートする。

 健康問題で休業、復職などの選択が必要な場合は、会社がオプションを提示するのではなく、本人の選択をスタートポイントと考える。復職あるいは就業継続の場合には、ビジネスパートナー人事(BP人事)、労務担当人事、上司、メディカルルーム、本人の5者が話し合い、情報交換をしながら段階的な復職計画がスムーズに進むようフォローしている。

事例

 実際にがん治療と就労を両立した事例を紹介する。

 ある部長職の方が肺がんになり、手術が困難ということで、抗がん剤の治療を行った。本人の高い労働意欲、上司の理解、職場の理解があったので、治療と仕事の両立に努めた。

 3週間に1回の抗がん剤投与を何回か繰り返し行った。投与当日にラ・メゾン休暇の取得を認め、その後1、2日は、体調不良や感染症のリスクを考慮して、在宅勤務とした。ラ・メゾン休暇は原則7日以上の連続休業で取得できるが、柔軟に判断して、断続的な利用を認めた。在宅勤務も同様に柔軟に判断した。がんのための制度を構築したのではなく、既存の制度を柔軟に運用した。

今後の取り組みと課題

 今後の取り組みとして、メディカル関係では、予防、早期発見、治療が大事だと考えている。当社では、検診受診率100%を常に追求しているが、それに加えて、がん検診の受診率向上を目指している。要検査の場合には、精密検査の受診勧奨を徹底する。

 人事としては、働き方のフレキシビリティを高めることが重要と考える。例えば、在宅勤務の利用要件や資格条件を緩和したり、1、2時間抜けて病院に行けるような時間単位の有給休暇の導入を検討している。

 さらに多様性を受容する社内文化と、同僚のライフイベントを共に乗り越えるマインドの醸成を目指している。長期的に、こういった文化の醸成が必要と考えている。

さまざまな制度を構築するより、    いまの制度の弾力的な運用が効率的

 長田氏の講演についてコメントを求められ、サノフィのメディカルルームに勤務する看護師の瀬戸氏は「できるだけ本人が納得した働き方ができる環境作りをお手伝するために、何が解答になるかをいつも考えている」、NCCの高橋部長は、「しっかりした理念、さまざまなセイフティネットの存在、弾力的な運用はすばらしい。本人の意志をスタートラインから大事にするという点が印象的だ」と発言しました。

 若尾座長からの「ラ・メゾンという企業風土が熟成しているのはなぜか」という問いに長田氏は、「日本法人を立ちあげるときに社長が導入した。ひょっとするとフランス企業には、博愛の精神があるのかもしれない。自分としては、議論になったときに立ち返る理念があるのはありがたい」と答えました。また、瀬戸氏は「2009年に、当時の社長が『社員とその家族が、長い間健康で安全に仕事ができるように配慮する』という健康企業宣言を出し、健康推進センターが開設された。これも企業風土の醸成に役立っていると思う」と説明しました。

 高橋部長から「コミュニケーションには、意志と努力が必要だと思う。どうやって本人の希望を引き出しているのか」という問いに、長田氏は「ひとつには、傾聴を徹底している。面談をして、本人が満足するまで十分話してもらうことを繰り返す」、瀬戸氏から「統括産業医がかなり経験豊かで、看護師2名も病院での臨床経験がある。医療現場での経験が患者さんの気持ちを理解するのに役立っていると思う。がん患者さんは、想像もつかない不安を抱えて、やっと相談に来る。だから、はじめの第一声のコミュニケーションをとても大切にしている。ここで人間関係がくずれてしまうと、そのあとに相談しにくくなる」と答えました。

 若尾座長から「制度の構築や運用では、どのような工夫をされているか」という問いに、長田氏は「制度構築には、長い時間とエネルギーがいる。いろいろなケースに応じて、さまざまな制度の構築をするより、いまの制度を柔軟に考え弾力的な運用をしていくほうが、その人にとっても、人事にとっても非常に効率的」、瀬戸氏から「本人の希望がいかに仕事と親和していくかが重要と考えている」と回答がありました。

 高橋部長から「がん患者さんから、自分の味方が会社のどこにいるのかわからないとよく聞く。味方の顔がすぐに思い浮かぶような工夫をされているか」という問いに、瀬戸氏から「メディカルルームは、健康診断の事後フォローなどで、日々いろいろな形で、社員の方とやりとりをする。そのひとつひとつを大切にしている」と回答がありました。

 最後にひとことを求められ、長田氏は「本人、上司、BP人事、産業医といった関係者が、すべて集まってコミュニケーションをとることが重要だ。それから、なるべく既存の制度を柔軟に運用すること。また、制度の裏側に理念があると、判断に迷いがあったときにも理念に立ち返ることで正しい判断を導ける」、瀬戸氏から「いろいろなケースにおいて、いまある既存の体制で、何がこの人にとって有利か、この人の希望は何かということを重点にして、常に答えを探している」と答えました。

 高橋部長から「がんを含めて、なんらかの働きにくさを乗り越えて働くことが、ダイバーシティにつながると思う。できないことだけではなく、可能性を考えていくことが大切だ。さらに、会社は本人の希望をとことん聞き、本人も自分はどうしたいかをきちんと考えて伝えることが必要だと思った。しっかりコミュニケーションしていれば、最終的に就労継続がむずかしくなっても、納得が得られるだろう」と述べました。

 最後に、会場からの質問で、自身も大腸がんでステージIVという男性から、「2650人の社員の中で、どのくらいの人がこの制度を利用しているのか」と問われ、瀬戸氏から「がんでも例えば1日の入院で済む患者さんもいるので、がん患者の数を完全に把握するのは難しい。ラ・メゾン休暇を取るためにがんの診断書を出す方は、年間10人くらい。治療を続けながら就労する方は、年間1人か2人」と回答がありました。

 会場はほぼ満席。40分という短い時間ながら密度の濃い内容に、聴衆は最後まで熱心に聴き入っていました。

ご来場頂いた皆様から貴重なご意見を頂きました!

「がんと就労」に必要な体制づくり 
〜東京都がんと仕事の両立優良賞受賞企業、サノフィの事例から学ぶ
会場アンケート集計結果

本日の意見交換会は?

8割近くの方に「役にたった」とお答えいただきました

本日のご感想をお聞かせください。今後とりあげてほしい事例や話題・論点などがあれば、お書きください。(一部をご紹介)

・長期間に及ぶことがありますが(再発、再々発)そのあたりの対応についても知りたかったです。

・参考になりました。自社に持ち帰り、アピールします。

・参考になりました。少し短かったです。

・素晴らしいお話をきかせて下さいました。

・サノフィさんの事例について、ライフイベントにあたっての支援が制度としてできあがっていることは大いに評価できると思いました。このような体制が働く場で当たり前となる世の中になって欲しいと思います。ただ、フレキシブルな勤務体制の構築が上位職種以外の一般社員においても、実際に可能なのかどうかやや疑問が残ります。

・制度利用者が年間1〜10名程度ということに驚きました。2,000人超の企業であればもっと利用者が多くてもおかしくないのではないか?本当に制度が有効活用されているのか疑問を感じる。

・制度をかたくなに守るのではなく、柔軟に運用するという考え方がすばらしい。自分自身が復職した時は、「本人、上司、産業医」のコミュニケーションだったが、産業医はがんについて、ほとんど知識がなかった(メンタル中心)。たまたま運よくトラブルなく復職できたが、一歩まちがえば、大変だったと思う。産業医もがん(抗がん剤など)について知識を持ってほしい。

・社内での工夫を今後考えていきたいと思います。

・事例含め分かりやすく参考になりました。

・やはり、がんと就労は、本質的に労働組合の課題、就業規則と費用の問題です。改めて、若尾先生、高橋先生にレポートいたします。短い時間でコンパクトに上手くまとまっていたと思います。(もの足りないぐらいでした。)ありがとうございました。

・ラ・メゾンの考え方はすばらしいです。私の院の経営にも取り入れたいと思います。

・製薬業という医療・健康に関連する業務にたずさわっているからこそ、という部分もあると思います。自分の例だと、病気の話を共有するのは、職場では必要最小限にしたかったし(体調が悪かった時期は特に)、共有することが自分に不利に働く懸念が拭えなかったりもしました。

・このような素晴らしい制度のある企業があることを本日はじめて知って、感動しました。本当に素晴らしいです!

・大変参考になりました。

・貴重な取り組み事例をお聞きし、弊社への適用を考えるきっかけとなりました。

・長田氏のプレゼンはとてもわかりやすくよかったと思う。

・参考になりました。企業理念の重要性がわかりました。

・地元での取り組みの参考にさせていただきます。ありがとうございました。

・良い事例を紹介して頂いた。

・サノフィの博愛精神をベースとした就労支援体制は、理想とする取り組みと思った。

・情報の共有化、本人面談⇒傾聴の重要性
患者さんのフォロー対応
⇒大企業にもかかわらずきめ細かい対応をされているように感じた。

・既存制度で対応出来たという事例、大変うらやましいです。トップダウンが強い中小企業としては、中々難しいのが現状です。多くの可能性を考えて頂ける事を期待しておりました。

・制度、体制、スタッフ・・・プロの集団で細やかな体験談がうかがえて良かったです。一つひとつ積み上げていく事が大切ですね。

事例紹介

「がんと共に働く 知る・伝える・動きだす」では、がんと共に働く事例をご紹介してまいります。

企業レポート

「がんと共に働く 知る・伝える・動きだす」で紹介した、企業の「がんと就労」事例です。

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「がんと共に働く 知る・伝える・動きだす」が開催した意見交換会の模様をレポートします。

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