ヒューマンキャピタル2016・セミナー 『がんと就労』企業でできるがん対策 ~コープみらいのきめ細かい復職支援制度から学ぶ~ を開催

 2016年6月に東京国際フォーラムにて、企業の人事・組織戦略・人材関連サービスのための専門イベント「ヒューマンキャピタル2016」が開催されました。その中で、6月10日に実施されたセミナー「『がんと就労』企業でできるがん対策 ~コープみらいのきめ細かい復職支援制度から学ぶ~」について報告します。

 セミナーは、最初に座長の国立がん研究センター(NCC)がん対策情報センターの若尾文彦センター長から挨拶と背景説明があり、次に、生活協同組合コープみらい人事教育の大山克己執行役員から、コープみらいの取り組み状況について講演がありました。その後、コープネットの健康管理センターの看護師深井好子氏、コープみらい職員でがんで休職後に復職した嶋田淳氏、NCCがんサバイバーシップ支援部高橋都部長をパネリストとして加え、パネルディスカッションが行われました。

 参加者は約80名。40分と短い時間ながら、密度の濃い内容に、会場は熱気に包まれました。

[背景説明] 様々な病気を持つ人への対応が求められる時代 国立がん研究センターがん対策情報センターセンター長 若尾文彦

 医学の進歩により、がんは不治の病ではなく、長く付き合う病気となった。全国で32万5千人ががん治療をしながら働いている。一方でがんを理由に3割以上の人が依願退職または解雇で仕事を辞めている。また、90%の企業が病気になった社員の適正配置や雇用管理等について、対応に苦慮している。

 国は、がん対策を進めるために「がん対策推進基本計画」を策定している。その重点課題のひとつとして「がん患者の就労を含めた社会的な問題への対応」が、追加されている。

 2016年2月には、厚生労働省は「事業所における治療と職業生活の両立支援のためのガイドライン」を作成した。がんに限らず、様々な病気を持った労働者への対応が企業には求められている。

 両立支援の具体策として、労働者や管理職に対する研修と啓発、相談窓口の明確化などがある。この3月に日経BP社の協力でNCCが行ったアンケート調査では、50%の企業が相談窓口を設置していると回答したが、窓口を知っているという従業員は13%だった。窓口は作るだけでなく、存在を周知することが重要だ。

 ガイドラインには、両立支援の具体策として、短時間勤務や休暇制度の導入、主治医と連携するための様式の整備なども掲載されている。

 生活協同組合コープみらいは、「平成26年度東京都がん患者の治療と仕事の両立への優良な取組を行う企業表彰」にて、大企業部門の優良賞を受賞した。今日はその取り組みについて伺って、みんなでぜひ参考にしたい。

[講演]  がん治療と就労の両立支援~復職支援制度を活用して

 生活協同組合コープみらい 人事教育 執行役員 大山克己氏より、「がん治療と就労の両立支援~復職支援制度を活用して」と題して講演がありました。講演内容については、別途取材した内容をあわせて、記事にまとめています(企業レポート 生活協同組合コープみらいの取り組み)ので、参照してください。

[パネルディスカッション] 非常に細やかな制度を柔軟に運用

 「コープみらいはどのような経緯でこのような制度を作ったか」と若尾座長から問われ、大山氏は「当初メンタル不調者になると本部などで力を十分発揮できないまま軽作業をしていたり、休職してそのまま退職していた。病気と向き合いながら復職して仕事を続けてもらおうと、この制度をつくった」と答えました。

 高橋部長から、「制度が充実しているだけでなく、非常に細やかだと思う。そういう支援のしくみは、コープが合併する前から布石を打っていたのか」と問われて、大山氏は「同じ生協でも組織文化の違いはあって、合併を契機に統合を進めているところはある。事業所がとても多いので、現場に出向いて事実をつかむことが重要と考えていて、これは合併前から実行していた」と回答しました。

 若尾座長から「実際に支援を受けて、どんな点がよかったか」と問われて、嶋田氏は「がんになって、最初は頭の中が真っ白になった。直属の上司から『何かあったら、いつでも連絡してくれ』と言われて心強かった。当初は上司に連絡していたが、途中からは健康管理センターの深井さんに直接連絡を取るようになった。現在の病状や見通しを逐一電話で報告し、ともかく仕事に戻りたいと発信し続けた。深井さんがそれにしっかり応えてくれて、いろいろなアドバイスをもらえたことは、精神的に非常に助かった」と答えました。

 若尾座長から、健康管理センターの人員体制や職務内容を問われて、深井氏は「埼玉東京千葉の広大なエリアに嘱託の産業医が8名、保健師看護師を含めて6名で体制を組んでいる。昨年度の健康診断は、受診率100%。その結果、2割の職員は、糖尿病、高血圧等の有病者とわかっている。私たちは産業医と共に職場巡視に行くので、現場に行ったら有病者と面接をしている。保健師・看護師が身近な存在でいることで、相談がしやすくなる。

 医療界と産業界では、言葉の齟齬が生じているので、私たちは病院と会社をつなぐ翻訳をしている。自分は以前病院で働いていたので、病院と職場双方の言い分がわかる。両者を取り持つことで、職員が働き続けられるようにしている」と回答しました。

 それに対して高橋部長は、「現場に行くことの大切さを強く感じる。深井さんは以前は病院勤務ということで、病院と職場の通訳力が高いのかなと実感した」とコメントしました。

 若尾座長から、「休職中の人と頻繁に連絡したり、巡回でいろいろな職場の人とつながっているのは、非常にいい体制だと思う。どういういきさつでそうなったのか」という質問があり、大山氏は「復職支援制度の中で、上司がやり方がわからないときに、人事が現場に行くようになった。健康管理センターは、産業医と職場訪問をしていた。人事、健康管理センター、産業医は、復職判定会議などで顔を合わせて一緒に考える場が非常に多くなっている。話し合いの中で、主治医から復職可の診断書が出ても、本人の職務内容や現場の状況に基づいて、復職を延期したり何等かの制限を加える判断をすることもある。それらが複合的に合わさって、いまの体制になったのだと思う」と述べました。

人事や産業保健担当者が、患者の味方だと思ってもらうことが大切

 高橋部長から「がんと就労について調査をしていると、人事や産業保健担当者が、患者から味方だと思ってもらえるかどうかが、とても大事だと思う。その点、コープみらいでは、味方なのだなと強く感じる。職員に味方だと思ってもらうノウハウが、多くの会社で共有できればよい」と意見を述べました。

 若尾座長から「味方だと思ってもらえるように、何か心掛けていることはあるか」と問われて、深井氏は「私たち本部の仕事は、現場があってこそ。現場で働く方々に常に感謝の気持ちを持っている。また、相談された結果がよくないと、その後の相談が来ない。そのようなことがないように、該当者の状況を現場の方にわかっていただくように、なるべく顔を合わせたり電話をしたりしている。主治医から制限がでているようなときに、実際に現場に行くと、もっとこんな制限が必要だとわかることがある。自分たちが現場を理解していると上司や職員にわかってもらうと、信頼しあえる。それから、病気になるのはしかたがないことで、けっして切り捨てることはない、病気をもっても働き続けられる職場を職員のみなさんと作っていきましょうという気持ちを持ち続けている」と説明しました。

 若尾座長から「病気の職員に対する手厚いサポートで、周囲の人が不公平感を持ったりはしないか」と問われて、大山氏は「復職をして仕事への向き合い方が変っていく人がいると、だらだらせずに時間内に終わらせようといった、よい影響がある。中には有病者をマイナスと考える人もいるが、みんなで底上げをすることが大切であり、生協の知識を持つ人が働き続けることに価値があると考えてもらうようにしている」と答えました。

 高橋部長から「メンタル不調や心筋梗塞では、会社側の働かせ方に問題があったかもと思われることもあるが、がんは働かせ方とは無関係なことが多い。がんにも復職支援制度を広げるときには、すんなり進んだのか。どのように話し合われてきたのか」と問われて、大山氏は「がんに特化して工夫したということはない。制度の運用という形でやった。事例がいくつか積み上がってきて、こういう人が復職したので、この人も復職できそうだという判断になっていった」と答えました。

 高橋部長から「周りの人々の協力を得るための工夫はあるか」と問われて、大山氏は、「人事課が出かけていって事業所長に説明するのが基本で、事業所長がしっかり理解していればよい。中には、『そうはいっても』と言う事業所長もあるかもしれないが、そこをていねいに説明して復職のプログラムを組んでいく。1週間試してうまくいかなかったら、また行って話をしてという具合に段階的に進めて行く」と説明しました。

制度がなくても、当たり前のことが当たり前にできる社会を目指したい

 最後に、ひとことずつコメントを求められて、大山氏は「本当に人に優しく、誇りがもてる組織を作っていきたい」と発言しました。

 深井氏は「将来的には、制度がなくても病気になったら休むという具合に、当たり前のことが当たり前にでき、働き続けたい人が働き方を選べる世の中になっていくことを目指したい」と述べました。

 嶋田氏は「2012年1月に腎盂がんとわかり、2014年までの3年間で8回手術をした。右の腎臓と右の肺の部分切除を行い、膀胱も全部で6回手術をしているが、最後の手術から、どうにか1年半経った。少し安定してきているかと思うが、これからも深井さんに相談しながら、がんばって働きたい」と発言しました。

 高橋部長は「支援対応は、総合力だと思った。人事、健康管理センター、本人だけが単独でがんばっても、うまくいかない。嶋田さんの事例では、本人も人事も健康管理センターもすべてががんばった。それに対して医療現場はどうするべきか、背筋が伸びる思いがする」と発言しました。

 若尾座長は「深井さんの発言で、当たり前のことを当たり前にということは本当に重要だが、いまは、まだまだ当たり前ではない状況が続いている。みなさんも今日の話を参考に進めていただければと思う」と述べて、閉会となりました。

ご来場の皆様から貴重なご意見を頂きました!

会場アンケート集計結果

本日のセミナーは?

7割以上の方に「役にたった」とお答えいただきました

本日のご感想をお聞かせください。今後とりあげてほしい事例や話題・論点などがあれば、お書きください(一部をご紹介、読みやすいよう加筆・修正等しています)。

・“がん”に罹った人に対する「職場環境+制度」の確立が重要であると感じました。

・「会社が味方になってやることが重要」という言葉に深く共感します。

・「味方だと思ってもらえる人事、会社」がキーワードだと思いました。

・看護師さんが「近いところに居る」、現場に行くことの大切さ、顔が見えることを大切にしている考えに共感しました。また、行動指針に基づく行動に「イイネ!カード」を渡すシステムからも社員を大切にする会社であることを感じました。

・あたり前のことをあたり前にやることの重要性を再確認させて頂きました。ワークライフバランスや無理なことをしないということが重要だと思いました。

・こういう事例があると知る点では良かったが、40分の中身、構成を考えると、雑な印象をもった。無理に登壇者を増やさず、絞ったテーマで、タイトルに組した発表にしていただきたい。一番大切なスライドは6と思うが、何の説明もなかった。また、現状はどうかより、どう作られていったのかを知りたい。

・コープみらいの人材に対する考えを理解できた。

・コープみらいは、とてもいい制度を持っていると思います。これからも継続して頂きたいです。ただ、ちょっと言わせて頂くと、病気になってみて本当にいい制度だと思ったのですが、病気が改善すると放り出されてしまう。特にがんの治療で体力が落ちた中、仕事をするだけできつくて、やっぱり就業規則自体が、本当に健康(五体満足)な人向けのものと痛感しました。

・コープみらいの取組について大変興味がある。私の職場外で参画しているNPO法人にて協力出来ることが出るかもしれない。

・コープみらい様の制度、すばらしいです。私もがん患者ですが、健康管理センターのように、相談できる窓口が設置されてる企業が増えていくといいなと感じます。

・ご出席のコープみらいの皆さんの「総合力」を本当に感じました。なかなかまねのできないことだと思います。

・パートにも対応していること。非正規が全体の4割を占める現在、非正規救済は大事。

・感動しました。

・具体的なお話で大変興味深く参加しました。もっと時間があれば・・・と思います。

・具体的な事例を知ることができてよかった。

・今後それぞれの企業が向き合うべき方向性。具体的にイメージができたと思います。

・昨年も感じましたが、もっとお話をうかがいたいと思います。

・参考になりました。ですが、事例の法人様のそもそもの“優良企業”ぶりから、普通の企業には参考にしづらい内容かと感じました。

・事例の方もいらして分かりやすいセミナーでした。もう少し具体的な復帰の流れやその後苦労されてる事も聞いてみたいと感じました。

・時間が短かった。企業の取り組み事例がわかりやすかった。適切なコメントがよい。

・自分の会社はどのような体制になっているか確認したい。コープみらいの会社としての総合力に感心しました。

・就労者本人として参加させていただきましたが、今日のセミナーは、企業様のためのもので、個人的に困った事の解決にはあまりならなくて残念でした。一部の企業様でどんなに頑張っていただいても、自分が働く関係の会社で、対応窓口があるのかどうか?という点で、何も生きた情報として入ってきませんでした。あくまで、理想の形を紹介していただいたのみで、「うらやましい、でも私は困っている」で終わってしまったというのが現状です。

・制度は全ての人が知り、何かあったら使えると伝えること。その懸け橋となる部署は企業内には必要。疾病に対する事例は一つ一つつくっていきたい。トップのコミットの大切さ。働き続けたい人があたりまえに働ける。

・先進事例で参考になりました。

・他社の取組、特に保健師の方の活躍ぶりが参考になりました。お時間が短かったのが残念です。

事例を募集しています!

「がんと就労」を応援するWebサイト「がんと共に働く 知る・伝える・動きだす」では、がんや慢性疾患の治療と仕事を両立させている事例を広く募集しております。疾病は必ずしもがんに限りませんが、「がんと就労」推進プロジェクトに実践面でヒントとなる事例、他の方々の参考となる事例をぜひお寄せください。応募は疾病治療中のご本人からだけではなく、ご本人をサポートされているご家族、企業の経営者や人事部の方などからの自社制度のご紹介や就労事例なども歓迎いたします。

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事例紹介

「がんと共に働く 知る・伝える・動きだす」では、がんと共に働く事例をご紹介してまいります。

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