ヒューマンキャピタル2017・セミナー「がんと就労」企業でできるがん対策〜日立製作所の事例から〜

 2017年6月、東京国際フォーラムにて「ヒューマンキャピタル2017」が開催されました。ヒューマンキャピタルは、企業の人事・組織戦略・人材関連サービスのための専門イベントです。そのセミナーのひとつとして、「がんと共に働く」プロジェクトが6月29日に開催した「『がんと就労』企業でできるがん対策 ~日立製作所の事例から~」について報告します。

 セミナーでは、最初に座長の国立がん研究センター(NCC)がん対策情報センターの若尾文彦センター長から挨拶と背景説明がありました。次に日立製作所システム&サービスビジネス統括本部アプリケーションサービス事業部事業企画部主管の太田純子(おおたよしこ)氏から、自らのがん体験について発表していただきました。その後、パネリストとして、太田氏の上司である日立製作所システム&サービスビジネス統括本部アプリケーションサービス事業部事業部長山橋哲也氏とNCCがんサバイバーシップ支援部高橋都部長を加えて、パネルディスカッションが行われました。

 80名の定員を超える参加があり、満席で立ち見が出るほどの盛況ぶり。40分と短い時間でしたが、参加者は熱心に耳を傾けていました。その具体的な内容を紹介しましょう。

[背景説明] 様々な形で取り組みが進む「がんと就労」

国立がん研究センターがん対策情報センターセンター長 若尾文彦

 2人に1人ががんにかかる時代だが、5年生存率は62.1%に伸びた。がんを抱えて働く人は32万人いる一方で、がんを理由に依願退職や解雇で仕事を辞める人が35%もいるのが問題だ。

 厚生労働省は、健康局、職業安定局、労働基準局の3つの局で、がんと就労の問題に取り組んでいる。がん相談支援センターに社会保険労務士や産業カウンセラーを配置したり、ハローワークの職員を派遣したり、昨年の2月に作成した「事業所における治療と職業生活の両立支援のためのガイドライン」(以後、「両立支援ガイドライン」と略す)の企業向け研修会を行ったりしている。

 昨年、がん対策基本法は施行10年を迎え、12月には改正がん対策基本法が成立した。大きな改正点のひとつは、がんと就労の問題だ。がん患者の雇用の継続等に配慮し、がん対策に協力するよう努力することが、事業主の責務として追加された。

 今年3月28日に成立した「働き方改革実行計画」には、「病気の治療と仕事の両立」として、病気を抱えて仕事をする人のサポートが含まれている。中でも「トライアングル型支援などの推進」ということで、両立支援コーディネーターが会社と医療機関を結んでしっかりとサポートするように記載されている。

 がん対策推進基本計画は、2007(平成19)年から5年に1回見直しが行われている。いまは、第3期基本計画の策定に向けた検討がなされているところだ。その案には、3つの柱として、「がん予防」「がん医療の充実」「がんとの共生」が挙げられている。「がんとの共生」の中には、「がん患者等の就労を含めた社会的問題」が含まれている。

 がん患者の就労支援として、企業には両立支援ガイドラインに基づく働きやすい環境整備や、社員研修などでがん患者への理解を深め働きやすい企業風土づくりをすることなどが求められている。今後は、経済産業省の「健康経営銘柄」の選考基準に、罹患した従業員の復職、就労支援を盛り込むことなども検討されている。ぜひ、がんと就労について関心を持ち、取り組んでいただきたい。

[事例講演] 乳がんステージ1患者の就労事例

日立製作所システム&サービスビジネス統括本部アプリケーションサービス事業部
事業企画部主管 太田純子氏

 事例講演では、太田さんが乳がんと診断され、3度の手術と抗がん剤治療を受け、現在もホルモン療法を行っていること、治療期間中に休職はしないで年次有給休暇で乗り切った経緯、それを実現するための工夫、体験を通してわかったことなどが発表されました。太田さんの事例については、別途取材した内容も含めて別の記事で詳しく紹介していますので、そちらを参照してください。

[パネルディスカッション]成功のポイントは、情報収集力と伝達力

『体調がよいときは、できる範囲でいいから出社するといいよ』

 若尾座長から、「がん罹患を会社に伝えたときの上司の対応は、大きなポイントになる。太田さんは、山橋さんから『人事のことは考えます。休職を考えるのではなく、体調がよいときは、できる範囲でいいから出社するといいよ』と温かい言葉を得たそうだが、山橋さんは上司として動揺はしなかったのか」と問われて、山橋さんは、「早い段階で情報をあげてもらって、『治療を最優先にする。その上で、できるようなら仕事をやろう』と話した。ちょうど人事を考えるタイミングだったので、治療に専念できるように、少し負荷を減らすように配慮した。1回目と2回目の手術のときは冷静に見えたが、3回目の手術と抗がん剤治療のときはかなり動揺しているのがわかったので、時間を割いてじっくり話した。自分は、たまたま身内の抗がん剤治療を経験していた。そこで、『個人差はあるが、体調がよいときもあるので、そういうときは仕事に来てもらいたい』と話した」と答えました。

 その対応への感想を問われて、太田氏は「正直にいうと意外だった。すごくうれしくて、一気に気持ちがマイナスからプラスに切り替わった。本当に感謝している」と答えました。

 高橋部長から、「人と人との相互作用の大切さを感じる。これは、太田さんに情報収集力と伝達力があったからこそできたのだろう」と発言がありました。さらに、高橋部長からの「多くのがん患者は、職場の誰に、どこまで、いつ伝えるかについて、非常に悩む。太田さんは、職場への情報伝達でどういうところに気を配ったか」との問いに、太田氏は「動揺していたせいもあるが、最初のうちは余計な情報を話しすぎた。こんなに治療予定が変わると思わなかった。もっと自分で消化してから話せばよかった。ただ、仕事で迷惑をかけないように、できるだけ情報はきっちり伝えようと心がけた」と答えました。

 若尾座長から「病気になったことで、何か変化はあったか」と問われて、太田氏は「以前はかなり不摂生な生活をしていたが、健康で普通の日常生活を送れるありがたさがわかった。抗がん剤治療中は、朝目覚めて今日は普通に過ごせそうだということを、とても幸せに感じられた」と答えました。また、ダイバーシティについて意見を求められ、「自分の部には、時短勤務で時間の制約があったり、慢性疾患を抱えて仕事をしたりする人たちがいる。その人たちが、ハンディを感じずに公平に仕事ができるように考えなくてはならない。例えば、日立ではITツールを使って在宅で仕事をできるが、自分がマネージャーの立場で率先して実行すれば、他のメンバーが利用しやすくなると考えている」と答えました。

3カ月を職場で対応できればその先もやっていける

 若尾座長から、「部下が病気になった体験から、来場している管理職や人事担当者へのメッセージはあるか」と問われて、山橋氏は、「働き方改革と言われているが、自分たちIT業界は、多忙さで厳しい局面もある。ただ、事業部のみなさんには、『いちばん大切なものは自分の人生や健康』ということを伝えている。大切なものを守るためには、組織として対応していく必要がある。今回の事例では、抗がん剤治療の期間は、約3カ月だった。3カ月くらいを、職場でいろいろ協力して対応できればその先もやっていける部分がたくさんある。それを理解してやっていくことが大切だと思う」と答えました。

 最後のまとめとして、高橋部長は「中長期的な視点を持つことが大事だと思う。治療予定は、どんどん変化する。それを医療側がかみくだいて患者さんに伝え、患者さんは職場に伝えなくてはならない。それで不十分なときは、職場から主治医に問い合わせていただくなど、やりとりが必要だと思う。医療現場もがんばる必要がある。太田さんの場合は、やりとりがなくても情報が伝わったのは、情報の咀嚼力と伝達力が傑出していたからだろう」と発言しました。

 若尾センター長から、「この事例は非常にうまくいった例なので、『うちでは到底無理だ』と思うかもしれない。しかし、これがひとつの完成形なら、それを実現するために足りないものは何かを考えることができる。そこで足りないものを補充すれば、完成形につながるサポートができるかもしれない。これから、必ず社員の中からがん患者は出てくる。がん患者でも、罹患前と同じように働ける職場を作っていくために、事例を参考にしていただけたらと思う」と締めくくりました。

ご来場の皆様から貴重なご意見を頂きました!

会場アンケート集計結果

本日のセミナーは?

約9割の方に「役にたった」とお答えいただきました

本日のセミナーの感想を、ご自由にお書きください。

・とても参考になりました。太田様のお話はさらに色々な現場でお伝えいただくと、助けられる方が多いのではと思います。ありがとうございました。

・サバイバーとして大変共感でき、社内人事部門にも共有したい内容。

・とてもためになりました。もしも私の身近で起こった場合も、このお話を生かしていきたいと思います。

・実体験を聞けて参考になりました。

・私もステージⅡで治療しながら働かせていただいており、共感するところがたくさんありました。

・資料のまとめ方が、とてもわかりやすく参考になりました。

・すごくラッキーなケース(上司の理解、家庭の条件、勤務体系など)ではあったと思いますが、これが「ラッキー」ではなく「当たり前」になるような働く環境の整備が必要だと思いました。

・事例を通して、いろいろな状況があっても仕事を続けやすい環境をどう作れるか、ダイバーシティについて考えさせられた。よいセミナーを有難うございました。

・働き方改革の一部分にあるとは、本日まで気づかなかったので、意識を変えることができました。社員にがん患者は少ないですが、今後の対処に本セミナーは有効と感じました。

・企業人事の経験をより広く活かしたいと昨年よりキャリアカウンセラー(コンサルタント)として活動を始めました。この様な取り組みを好例として、広められる様、注力していきたいと感じております。

・ある意味、勇気ある講演を聞かせてもらい、ありがとうございました。

・自分の部下にもがんで闘病している方がいるので、どのように接すればいいのか、大変参考になりました。ありがとうございました。

・ご本人、上司の方が本音でお話し頂ける機会は本当に貴重であり、今後多くの患者や家族の心を救うことになると思いました。ご自分の病気や気持ちなどプライベートなことを語って頂けた勇気に感動し、感謝を申し上げます。

・太田さんのお話し、とても心を打たれました。病気を客観的に分析し、それを会社と共有することの大切さ、そして周囲の理解の重要さを知りました。一方で、太田さんのような人の上に立つ人(管理職ですかね)ではなく、プレーヤーががんになった場合、どんな対応、気づかいが必要なのかな・・・?とも思いました。

・もっと時間をとっても良いと思います。

・生命保険に加入するだけでなく企業として取り組むことで本当にがんに向き合うことができるのではと感じることができた。これから企業のお客様に活かせることが増えた。

・信頼関係の大切さを実感し、涙が出ました。

・とても参考になる話であった。残念なのは、時間が短かった。

・休みたいという希望に対して、出ていらっしゃいという勇気はむずかしい。

・スライドが見える化されていてよかった。

・がんは誰でもかかるもの、特別ではない病気、情報さえあればかかってもうまくつきあえると改めて体験談を聴いて実感しました。自分が診断されたとしても、されなかったとしても、サバイバーの方々とお互い様の精神でつきあっていきたいし、そうすべきと思いました。

・恵まれた環境だったとは思うが、率直に知的に自身をプレゼンされたことに敬意を表したい。昨年もそうだったが、この内容で40分は短すぎてもったいない。(パネルがパネルになっていない)

・大企業では「がん」になった従業員へ対する現場のサポートが重要であると感じた。日立製作所の企業としての独自の対応等の紹介があればもっと良かった。

・実体験者のお話しは興味深く拝聴できました。いろいろな事象があるでしょうから、ご本人にかぎらず、数多くの事例を知りたいと感じました。

・もっと長いセミナーを聞きたかった。ぜひまた企画してほしい

・がんになった時、それを知らせると即ラインからはずす・・・こんな会社が多い中、しっかりサポートしてくれている職場環境がうらやましく思います。2人に1人ががんになる時代、職場教育の大切さを感じました。

・こういう取り組みが中小零細にまで反映される時がくれば良いなあと感じました。がん=仕事はいいからやめなさいが宿命。大きい企業だから当たり前にならないように希望します。

・がんと診断された際の太田さんの気持ちは参考になった。職場での対応の仕方も参考になった。

「がんと就労」に関してお困りのことやご意見などがあれば、ご自由にお書きください。

・治る病気として、事前知識を周知する仕組作りに力を入れて頂きたい。

・職場から主治医へ治療の状況について問い合わせできるような環境整備は理想だが、患者の状況をどこまで開示するかは患者とよく相談しておかないとトラブルの元になりうるのではないかと(主治医サイドとしては)感じました。就労に不利になってしまわないかが心配です。

・企業努力だけに頼るのも限界があるのでは。行政の介入も必要だと感じます。

・転職について、今後転職したいと思っても、難しいのだろうなと思う時。息づまりを感じる。

・会社でもがん患者が何人か出ている。ステージが進んでいる人もおり、休職も余儀なくされている。復帰も短い時間での働き方や、月に5~6日休まなくてはならない中での働き方、人事の支援方法が知りたい。

・家族のがんについて、どの様に会社がフォローしてくれるのかも大きな問題だと思う。がんの介護による仕事への影響収入面での不安、そして離職につながる職場環境課題が多いのではないでしょうか

・がん治療中休ませてくれないと言っている人がいました。また休むなら有給ではなく無給といわれたと・・・そんな企業がまだまだたくさんあると思います。

事例を募集しています!

「がんと就労」を応援するWebサイト「がんと共に働く 知る・伝える・動きだす」では、がんや慢性疾患の治療と仕事を両立させている事例を広く募集しております。疾病は必ずしもがんに限りませんが、「がんと就労」推進プロジェクトに実践面でヒントとなる事例、他の方々の参考となる事例をぜひお寄せください。応募は疾病治療中のご本人からだけではなく、ご本人をサポートされているご家族、企業の経営者や人事部の方などからの自社制度のご紹介や就労事例なども歓迎いたします。

応募はこちらから

※応募いただいた事例は、Webサイトやセミナーなどで紹介する可能性があります。紹介する場合は、事前にこちらから連絡してご了解をいただきます。事前のご了解なしに掲載や公開をすることはございません。
※お寄せいただいたすべての事例を紹介するものではありません。事前にご了承ください。
※応募の際は、上記の「応募はこちらから」から「事例応募シート」をご利用いただき、事例の概要を差支えない範囲でご記入ください。応募は匿名でも構いません。

事例紹介

「がんと共に働く 知る・伝える・動きだす」では、がんと共に働く事例をご紹介してまいります。

企業レポート

「がんと共に働く 知る・伝える・動きだす」で紹介した、企業の「がんと就労」事例です。

意見交換会

「がんと共に働く 知る・伝える・動きだす」が開催した意見交換会の模様をレポートします。

セミナーレポート

「がんと共に働く 知る・伝える・動き出す」が開催したセミナーをレポートします。

セミナーレポート

「がんと共に働く 知る・伝える・動き出す」が開催したセミナーをレポートします。

インタビュー

がんと共に働く、をテーマにしたインタビュー記事を掲載しています。

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