「がんと就労」応援ポータルサイト創刊記念特集

2014/06/24

がんと共に働くために必要なこと

がんになっても、働くことの意味はなんでしょう。
がんと共に働くために、何が必要でしょう。
いま、現状はどうなっているのでしょう。
がんと就労に取り組む3者が、語り合いました。

働くことは、社会との接点

堀田門田先生が会長を務めるがん対策推進協議会で、わが国のがん対策の基本となる「がん対策推進基本計画」の更新が検討され、平成24年6月に第2期の計画が閣議決定されました。そこには、働く世代と子どもに対する対策が重点項目として盛り込まれています。門田先生、その背景を説明していただけますか。

門田平成19年の第1期計画では、まずはがんによる死亡者を減らすこと、それから患者さんの療養の質を上げ苦痛を緩和することが、主なテーマでした。つまり"病気"と患者さん="人"がターゲットだったのです。

ところが徐々にですが治療成績がよくなってくると、患者さんの実生活が大きく意識されるようになりました。治る率が上がったと同時に、治療中でも比較的健康な状態で過ごす人が増えました。すると、"社会"との関わりが重要になってきます。

いままでは、「どうぞ無理をしないで」と患者さんをいたわることが患者さんのためだと思われていました。でも、治療中でも働けるようになってきました。働くことは、社会と接点を持ち、社会に貢献することで、自分の存在意義を感じるということです。人間の尊厳について考えると、働ける人が働くというのは当然のことだと思います。

でも、社会全体では、「がん患者が治療中に働くなんてとんでもない」というイメージが、まだまだあります。それを切り替えなくてはいけません。

そこで、"病気"、"人"に加えて"社会"が意識されるようになり、平成24年の第2期計画では、「がんになっても安心して暮らせる社会の構築」が新たな目標として加わりました。

堀田それで、働く世代と小児がん罹患後に成人をむかえる子どもとが、クローズアップされたわけですね。

企業は多様性を求めています

堀田知光(ほった ともみつ)
国立がん研究センター理事長 

1969 年名古屋大学医学部卒業。独立行政法人国立病院機構名古屋医療センター院長などを歴任後、2012 年より現職。厚生労働省「がん患者・経験者の就労支援のあり方に関する検討会」座長。がんサバイバーシップ支援研究部の設置、サバイバーシップ支援研究の推進、がん相談支援センターにおけるハローワークとの連携のモデル事業や社会保険労務士による相談の実施、アピアランスセンターの開設などの施策を行う。

堀田酒井さん、企業の意識はどうでしょう。企業が求める就労者のイメージに変化はありますか。

酒井病気を抱えて働く人にとって、いまはチャンスが巡ってきていると思います。いまの企業が目指す方向は、グローバル、イノベーション、それにダイバーシティです。

これまで日本の企業では、健康で若い日本人という比較的均一な人たちだけが働いていました。でも、グローバル化で海外進出をすると、現地の事情にあわせて働き方を変えなくてはなりません。また、以前はいい商品というと均一な質の工業製品でしたから、独創的なことをするよりも、他の従業員と同じことをすることが求められました。ところがいま求められているのは、新鮮な驚きがある商品や感動するサービスを提供することです。

グローバル化してイノベーションを起こすには、ダイバーシティ、つまり多様性が必要になる。多様な働き手の中に、がん患者さんも入ってくるはずです。

堀田国際競争が熾烈な中で、病気やハンディを抱えた方が能力を発揮できるのか、雇用者側が不安に思うことはないですか。

酒井経営者は、以前のように同じような製品を作るのではなく、付加価値を高めるためのアイデアや企画が欲しいと思っています。定時に出社して机の前に座っていても、アイデアは生まれません。そうすると、働く場所も時間帯も、あまり重要ではなくなります。だから、がん患者さんを含め、病気その他の経験を付加価値に変えていける人はすごく重要視されると思います。

いまは価値観が変わっていく時代

堀田門田先生、医療の現場におられる立場で、がんと就労について言いたいことはありますか。

門田守人(もんでん もりと)
がん研究会有明病院病院長、がん研究会常務理事(病院本部本部長)

1970年大阪大学医学部卒業。大阪大学外科教授、同大学理事・副学長などを歴任後、2012年より現職。厚生労働省「がん対策推進協議会」会長。国立がん研究センター理事(がん対策担当)。文化放送毎週日曜日朝8:00〜8:30「キャンサーカフェ〜みんなでがんを考えよう〜」パーソナリティ。これからのがん対策では、「患者・社会が協働する能動的参加の体制」づくりが必要と考えている。

門田目指す方向ということでいいでしょうか。

若くて健康な人が多かった高度成長期に比べると、いまは高齢化が進んで、社会構造が変わってきています。就労環境だけではなくこれからは生き方や価値観も根本的に変わってくるという認識を、社会全体が持つ必要があると思います。

医療についていえば、いま病院では、病人と健康人との境目が明確でない人たちが増えています。どこまで入院させてどこから地域に返すのか、線引きがしにくくなっています。そういう状況にあった体制に切り替えなくてはいけない。

それから、以前は生産性を高めて成長してというのが、当たり前の価値観でした。でも、全世界が成長してくると、いずれそういう競争はできなくなります。どう生きれば幸せなのか。いまは価値観が大きく変わっていく時代だと思います。

堀田働くことが、単にお金を稼ぐことではなく、社会とのつながりや自分の存在感を確かめることになる。それが生きる幸せにつながるということですね。

門田アメリカではQuality of Life(生活の質)と共にQuality of Death(死の質)という言葉が出てきます。どう生きるかを考えるときに、Lifeという光の部分だけではなく、陰の部分も大切だと思います。Quality of Deathを意識すると人生観や生き方が変わるのじゃないでしょうか。

堀田死生観は大切だと思います。いまは死が日常から離れてしまっていますが、死と生はそう遠いものではありません。死を日常に取り戻して、もっと深めていけば、生き方や働き方が変わって来ると思います。

国立がん研究センターでは、昨年、がんサバイバーシップ支援研究部を作りました。就労や家族関係など、全体としてがん患者さんの生き甲斐を高め、人生を充実させるにはどうしたらいいか。それを研究し、実践していく部門です。

ここで"サバイバーシップ"とつけたのは、闘病中や終末期の人も含めて、トータルな生き方の問題としてとらえたかったからです。"サバイバー"では、どうしても生き残った人という感じになってしまいますから。死を意識しながらも、どう生きるかが大切だと思います。

これからの施策が大事

堀田酒井さん、がん患者が働き続けようとするときに、企業の体制はどうでしょうか。大企業にはサポートしてくれる制度があると思いますが、中小企業で働く人は、どうでしょう。

酒井綱一郎(さかい こういちろう)
日経BP社取締役(健康・医療プロジェクト担当)

1981年国際基督教大学卒業。毎日新聞社記者を経て、1988年日経マグロウヒル(現日経BP)入社。日経ビジネス編集部記者、日経BP社ニューヨーク支局長、日経ビジネス編集部長、日本経済新聞社デジタルビジネス局長などを経て、現在に至る。日経メディカル、日経メディカルオンライン、がんナビなどに加えて、日本経済新聞社とともにビジネスパーソン向けの健康情報を提供する新規メディア開発を担当している。

酒井大企業でも、まだまだです。例えば通院を有休扱いにしてくれる企業は、1割しかありません。しかも、がん対策事業を厚労省と一緒にやっている企業で1割ですから、企業側の就労支援は全然進んでいないといったほうがいいでしょう。

日本の社会全体で、意識が遅れていると思います。20年から、30年前にアメリカの雑誌で、がん患者のためのQuality of Life(QOL:生活の質)という言葉に出会ってびっくりしましたが、日本では、ようやく最近になってQOLという考えが広まって来たところです。

最近、厚労省の推計で、働きながらがん治療を受けている方が32万5千人という記事がでました。今回初めて推計したというのは、なんとも遅いですね。それから、がんと診断された人が1年以内に自殺するリスクが、がんになっていない人の20倍だという記事もありました。がんは「死の病い」という世間一般のイメージが影響していると思います。がんは、抱えていくものです。

アメリカでは、かなり以前からQOLを意識していたのに、日本では、企業もわれわれの意識も、変わっていない。これは本格的に変えていかなければなりません。

堀田がん対策基本法ができる前は、がんの人は働けないという烙印を押されてしまっていました。いまは一歩前進はしてきたけれど、まだ日本にはそんな風土が残っていますね。

酒井具体的に施策としてやっていただいて、ずいぶん前進したと思います。ただ、世論全体を変えていくには、これからの施策がとても大事だと思います。

堀田そうですね。実はいま、がん対策推進協議会の諮問を受けて、がん対策がどのくらい効果があったのかを調べる指標を検討しています。次はちゃんとした指標に基づいて、成果を確認しながらやろうということで、一生懸命やっています。

企業を変えるために必要なこと

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