がんは”抱えていく”時代

2017/06/20

がんと共に働くために必要なこと

がん患者が働くことの意味

酒井いま32万人ががんを治療しながら就労している一方で、仕事との両立は難しいと考えている方も、けっこうおられます。内閣府の「がん対策に関する世論調査」では、治療をしながら働きたいと思う一方で両立は難しく、その理由として、「代わりに仕事をする人がいない、またはいても頼みにくい」「職場が休むことを許してくれるかどうかわからない」「がんの治療・検査と仕事の両立が体力的に困難」などがあげられています。

中釜治療をしながらどう働き続けるかは、非常に重要なテーマだと思います。40歳から60歳くらいの働く世代では、死因の第1位はがんなんです。30歳から40歳の世代でも死因の第2位となっています。5年生存率や10年生存率がかなり改善されてきたので、がんになって治った人やがんを治療しながら生きている人が、非常に増えています。現在、治療を受けている人が数十万人で、がんになって治った人をいれると数百万人はいるでしょう。個人によって状況はさまざまだと思いますが、できれば就労して、社会に貢献する機会を増やしていくべきだと思います。

そのとき、働くことの価値として、何を求めるかが重要だと思います。例えば、病気になると健常者にはわからないことに気付くことがあります。それを新たな価値として活かせれば、企業にとって活力につながるし、社会全体としても、成熟した豊かな社会になると思います。

酒井個人の側では、どうでしょう。生きがいや働きがいを持つがんサバイバーは、何か身体にいいことはありますか。よく精神的なものが免疫力に関係するといいますよね。

中釜専門外なので詳しいことはわかりませんが、精神腫瘍学の専門医からは、「非常にポジティブに前向きに考える人のほうが、生存期間が長い」という話はよく聞きます。それを裏付けるデータもあるようです。

酒井そうすると、働くことは、生活費を稼ぐためにも、生きがいとしても必要だし、自分の病気を内的に克服するためにも重要だと考えていいのでしょうか。

中釜私は、そう思います。これは人生観あるいは死生観にもつながってくる問題だと思います。

いろいろな制約を抱えながら働く人

酒井いろいろな制約を抱えて働いている方は、がん以外でもたくさんいらっしゃいますよね。少し前までは、フルに健康でフルに働くのが当たり前という社会でしたが、ここ数年で大きく変わってきたと思います。例えば育児や介護と仕事をどう両立するか、障がい者はどう働けばいいかといったことが、問題提起されるようになってきました。がんもその中のひとつであり、多様な人たちがどう共生するかを考えると、働くことの意味がより大きくなると思います。

安倍政権の「働き方改革」が、社会にかなりインパクトを与えていると思います。去年の秋の「働き方改革実現会議」で、安倍首相が「病気の治療と仕事の両立に力を入れていきたい。これは重要なテーマだ」と話したことは、ひとつのエポックメーキングでしょう。この会議で、女優の生稲晃子さんは自分の乳がん体験について多くの貴重な話をされました。中でも興味深かったのは、「抗がん剤の副作用によるつらさとは別に内的なつらさがある。病気を公表しないで仕事をしていると、周りから『やる気がない』などと思われがちで、それがつらい時期がありました」というものです。この会議で、がんと就労についてクローズアップされた後、厚生労働省の動きが速くなったと思います。

中釜私も、「働き方改革」は社会に影響を与えていると思います。私は研究職として、優秀な女性研究者が結婚や出産の度に悩む姿を見てきました。制約を持ちながら働くことについて、社会の考え方が変わらなければいけないと思います。

酒井「働き方改革」が出てきた背景には、日本は先進国の中では単位時間当たりの労働生産性がかなり低いということがあります。企業として多様な価値を発見できないと、海外に比べて商品化に結びつけられません。

例えば、軽自動車を使うのは女性が多いですよね。そこで女性が軽自動車の開発をしたら、よい商品開発につながったという例があります。イノベーションを起こすには、多様な人材を取り入れていかなくてはなりません。そういう意味で、がんを患っている方の果たすべき役割というものは、今後ますます出てくると思います。

中釜まさにそうですね。その仕事が社会にどう還元されるかを考える必要があると思います。商品をたくさん作っても、それが社会に還元されなければ、その価値は目減りしてしまいます。

時短勤務やテレワークができれば、働きやすい

酒井内閣府の「がん対策に関する調査」では、「がん治療と仕事の両立でいちばん必要なのものは何か」という質問に対して、「時短勤務」があがっています。産休や育休後の時短勤務は、育児休業法で法律化されていますが、がんにはまだありません。

中釜働き方に柔軟性を持たせるという意味では、時短勤務やテレワークは、非常に重要だと思います。私自身はどちらかというと古い世代なので、長く職場にいる習慣が染みついてしまっているのですが。でも、そこは変えなくてはいけないと思います。

酒井最近、企業では在宅勤務が、すごく大きなテーマになっています。在宅勤務は働く側には働きやすい反面、会社としては、本当に働いているかをどう把握するかが問題です。ただ、最近はITを活用すれば、どこでも働ける時代になってきました。例えばIT企業のヤフーには、自宅に限らずどこで働いてもよい"どこでもオフィス"という制度があります。それなら、病院内オフィスというのがあってもいいと思うのですが、いかがでしょうか。病院内でなくても、病院の隣にシェアオフィスがあれば、週2回の通院が必要な人でも、わざわざ会社に行かなくてよくなります。

中釜院内オフィスをうちの病院ですぐに実現するのはスペースの問題もあるので難しいかもしれませんが、面白いアイデアです。今後の重要な検討課題と認識しています。がん研究センターでも、この春からテレワークの試みを始めたところです。さすがに臨床ではやりにくいので、まずがん対策情報センターで開始しました。テレワークの社会的意義を当センターとしても打ち出していきたいと思います。

テレワークの採用による社内での不満を出さないためには、仕事の成果をどう評価するかがポイントだと思います。コンピュータに向かっている時間で評価するのは寂しいのですが、成果物だけで評価するのもどうでしょう。例えば医師なら、何人診察した、何本論文を書いたというだけではなくて、患者さんにどう対応したかが重要です。もちろん、一定レベルの対応はきちんとしなくてはいけないのですが、非常に素晴らしい対応で病院の評判が上がり、患者さんが大勢集まってきたら、それは大きな貢献です。多様なアウトカムをどう評価につなげるか、についても考えていく必要があります。

酒井評価の部分は確かに難しいですね。でも、いままでだって企業は本当に評価しているのかという見方もあります。座っているだけで仕事をしていない人がいたりしますから。そこは割り切って、どうすれば時間に制約のある社員が働けるかを考えることが重要です。がん患者は治療に時間がかかり、育児中の人は子育てに時間がかかります。それなら、サテライトオフィスを作って通勤時間を短くしようとか、多くの企業はそういう外形的なところから始めているようです。

中釜なるほど。そういえば、以前は支店同士で販売数や売上高を競い合っていたのが、最近はブランドとしての成果という見方に変わってきたと聞きました。自分の支店で買ってもらわなくても、そのブランドについてカスタマーにきちっとアピールできれば、他の支店で買ってもらってもいい。そういう考え方ができると、よさそうです。

酒井そうですね。価値観の多様化とは、実は目標の多様化なのだと思います。以前は働いた時間数や作った物の数、生み出したサービスの量などで評価していました。それが、大きく変わってきています。

中釜そういうふうに日本社会が大きく変われるといいですね。

酒井そのために、がんを抱えて仕事をしている方々が果たす役割は、相当あると思います。ただ、乗り越えなければならない課題が山積みなので、サポートも必要でしょう。

中釜その通りだと思います。

酒井最後に、いまこれが重要だと思うことがあれば教えてください。

中釜治療を受けたがん患者さんが、社会の中で共に働き、それにより社会に新たな価値観を提供し、新たな付加価値を創成できるよう、出来るかぎりの支援を行う体制を整えることが重要と考えます。

国立がん研究センターとしては、個々のケースに対応して、ひとりひとりの職員が社会の中での新たながん医療のあり方を意識できるかが重要と思います。われわれがん研究センターにその役割を果たせるかどうかがかかっていると思います。

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