
合成ゴム・エラストマー製品などで業界をリードする旭化成。同社は持続可能な社会の実現に向けた取り組みの一環として、製品ごとの温室効果ガス排出量の算出と開示を目的としたカーボンフットプリントに対してのデジタルイノベーションに取り組んでいる。その過程で旭化成が合成ゴム・エラストマー製品向けに導入したのが、様々な業務を土台から改善するSAPのソリューションである。旭化成はCFPデータを求める社会や顧客のニーズにどのように対応していったのか。その取り組みと今後の展望について、両社のキーパーソンに聞いた。

マテリアル、住宅、およびヘルスケアの三領域で事業を展開する旭化成。従業員数4万8897人(2023年3月末時点)、売上高2兆7265億円(2023年3月期)と、日本を代表する企業の1つである。
同社は創業100周年を迎えた2022年に公表した中期経営計画で、先駆者や開拓者を意味する「~Be a Trailblazer~」を掲げ、持続可能な社会の実現に努めながら企業価値の向上を引き続き進めていく考えを明らかにしている。
持続可能な社会の実現に向け、同社が取り組みを強化しているのが、温室効果ガス(以下、GHG)の排出量を製品ごとに定量化するカーボンフットプリント(以下、CFP)であり、2022年6月にマテリアル領域の合成ゴム・エラストマー製品において、CFPを算出するシステムを開発した。そのきっかけについて、同製品を扱う環境ソリューション事業本部企画管理部 ゴム・エラストマー企画室 室長 澤井憲彦氏は次のように説明する。
「2019年当時の合成ゴム事業部長が商談のために欧州の企業を訪問した際に、顧客から製品毎のCFPデータの有無を尋ねられたそうです。しかし、当時当社は工場単位のGHG排出量のみを算出していただけで、お客様が求めている製品単位ではお出しすることができなかった。事業部長自ら、環境意識で先行する欧州に対して、当社の取り組みが遅れていることにかなりの危機感を抱いたそうです」
澤井 憲彦 氏
旭化成
環境ソリューション事業本部
企画管理部
ゴム・エラストマー企画室 室長
事業部長帰国後、各部署の担当者が集まり、従来工場単位だったGHG排出量を、顧客の要求があった時に製品単位で把握できるようにする“CFPを見える化する”プロジェクトがスタートした。澤井氏は「CFPの算出方法やデータ収集を含めて多くのことが手探りだった」と語る。
「まずはやってみようということで、データを集めながら手作業で計算し、お客様が何を求めているのか、社内の算出プロセスにはどういうボトルネックがあるのか、といったあたりを点検していきました。当初は1つの製品のCFPの値を算出するだけでも、情報収集から始めると10日間程度を要していたと記憶します」(澤井氏)
さらに2020年になると、様々な顧客からCFPデータの問い合わせが来るようになった。CFPデータの提供が例えば製品仕様の提供と同じように、いずれ当たり前になると考えた同社は、マニュアル作業ではなくデジタルを活用したイノベーションが必要と判断し、CFP算出業務のシステム化に着手。そのときにパートナーとして声を掛けたのがSAPだった。
岩渕 聖 氏
SAPジャパン
ビジネステクノロジープラットフォーム事業部
事業部長
SAPジャパンで、イノベーション実現に向けたビジネス基盤であるビジネステクノロジープラットフォーム(以下、BTP)事業を統括する岩渕聖氏は、当時の状況を振り返り、次のように話す。
「SAPはお客様のビジョンやビジネスプロセスに踏み込みながら最適なソリューションを提案・提供できる会社です。環境で先行する欧州(ドイツ)の企業であるということ、業界のスペシャリストが在籍していること、グローバルでの実績や経験が豊富であること、などをご評価いただいて、CFPに関するご相談を頂戴したと認識しています」(岩渕氏)
旭化成はSAPのソリューションを用いて、CFP算出システムというイノベーションに向けたプロジェクトをどのように進めていったのだろうか。
図1. 持続可能な社会の実現に向けた旭化成のグリーントランスフォーメーション(GX)における取り組み。自社のGHG排出量削減目標としては、2050年にカーボンニュートラルを掲げる。また、顧客使用を含むバリューチェーンでのGHG排出量削減貢献量では、2020年比で2030年に2倍以上を目指す
出典:旭化成『中期経営計画 2024 ~Be a Trailblazer~』