

CFPを算出するには、基礎となる様々なデータをどこからどのように集めてくるかが課題になる。例えば、該当製品の製品材料表(以下、BOM)、BOMを構成する原材料の原産国や配合、製品の製造工程や使用エネルギー、中間製品の輸送エネルギーなどのデータが必要だ。それらを集めようとすれば、少なくとも調達部門や生産部門の協力が不可欠である。まず旭化成のプロジェクトのメンバーは、CFPの必要性、重要性を各部門に説いて回ることから始めた。
CFP算出をシステム化するには、膨大なデータの収集・統合基盤が必要になる。そこで、同社はデータベースとして「SAP Datasphere」(旧SAP Data Warehouse Cloud)を導入した。また、CFPの算出にはSaaS型の分析ソリューションである「SAP Analytics Cloud」を採用した。なお、SAP DatasphereとSAP Analytics Cloudは、SAP BTP(Business Technology Platform)の一部であり、SAPが提供する様々なソリューションを活用しながら、アプリケーションの開発、プロセスの自動化、インテグレーション、データ活用とアナリティクス、およびAI活用などを実現するビジネス基盤である。
図2. SAPが提供する様々なソリューションを対象に、アプリケーションの開発、プロセスの自動化、インテグレーション、データ活用とアナリティクス、およびAI活用などを実現するビジネス基盤「SAP Business Technology Platform(SAP BTP)」
SAP Analytics Cloudの選定にあたっては、CFP算出のテンプレートが用意されていたこと、旭化成本社の基幹システムであるSAP S/4HANAとも連携できること、算出だけではなく分析や見える化も可能なこと、などを評価したという。
澤井氏は「サステナビリティを推進するソリューションを長年にわたってグローバルに展開してきた実績と信頼感に加えて、当社の持つビジョンを具体策に落とし込んでくれることを期待してSAPのソリューションを選定しました。グローバルな知見に基づいたアドバイスを提供していただけるなど、SAPは共創できるビジネスパートナーという認識です」と説明する。
「ソリューションありきではなく、まずはお客様のご要望をきちんと受け止めるところからスタートするのが当社のカルチャーです。今回はCFP算出に取り組みたいという旭化成様のご要望にお応えして、欧州で培ってきたノウハウや、業界ごとのスペシャリストの知見も交え、最適なプロセスを定義してお届けできたと思っています」(岩渕氏)
旭化成のCFP算出システムは、本プロジェクトの開始からわずか1年ほどの2022年6月に稼働。合成ゴム・エラストマーの一部製品を対象に、CFPデータの提供が開始された(図2)。その仕組は、製品や生産や原単位排出量などの様々なデータを社内や社外から集め、必要なデータを社内のデータマネージメント基盤である『DEEP』を経由し、SAP Datasphereで抽出したのち、SAP Analytics CloudでCFPデータを算出・分析し、顧客に提供するというものである。
「システムの稼働により、当初は情報収集からCFPの算出、顧客に提供するための資料作成を含めて10日間程度かかっていた作業が15分ぐらいで終えることができるようになりました。業務の効率が上がっただけではなく、お客様にスピード感をもってデータをお届けできるようになったことが大きな効果として得られています」と澤井氏は評価する。また、プロジェクトの活動が、CFPの重要性を全社に浸透させるきっかけにもなったという。

澤井氏は次のステップとして、CFPデータを顧客に提供するだけではなく、自社のGHG削減活動にも役立てていきたいと話す。
「どの製品の原材料や生産工程でGHGを多く排出しているかがピンポイントで把握できるようになりました。また、今後CFPを意識した製品開発にもつなげられると考えています。実際に社内でそういう取り組みも始まっています」。
GHG排出量の削減を積極的に進めている同社は、2013年の511万トンを基準とし、2030年には30%減の360万トン未満を目指している。さらに2050年にはカーボンニュートラルを実現する計画だ。また、CFPの視点も活用しながら、ユーザーにおける製品使用までも含めたバリューチェーン全体でのGHG排出量削減にも取り組もうとしている。
「環境やサステナビリティの問題はEthical(倫理的・道徳的)が目的になりがちですが、ビジネスにいかに結び付けてEconomical(経済的)にできるかが今後の課題と考えています。実際にGHG排出量の少なさを謳う原材料は一般にコストが高く、ものづくりに取り入れようとするとハードルが上がります。それでも、持続可能な社会の実現に貢献するという大義を持って進めていくことが重要です。多くの日本企業にもトライしていただきたいと思いますし、一緒になって広がりを作っていければ嬉しく思います」と澤井氏は展望する。
企業間を結ぶ取り組みについてはSAPジャパンの岩渕氏も同じ考えを示す。
「社会としてGHG排出量を削減していくには企業の枠を超えた連携やデータ交換が必要で、実際に欧州ではそのような動きが始まっています。旭化成様が導入されたSAP Datasphereは、企業をまたがるデータ連携にも対応しています。またSAPは、SAPアプリケーションを活用してイノベーションを推進するためのビジネス基盤として、SAP BTPの提供も進めています。SAP BTPの一部であるSAP Analytics Cloudを中心に構築したCFP算出システムが、旭化成様のさらなる企業価値の向上とGHGの排出量の削減につながることを期待しています」
合成ゴム・エラストマー製品で業界をリードする旭化成は、SAP Japan Customer Award 2022で「Innovation/Sustainability部門」を受賞した。同社の取り組みが、企業の枠を超えて業界に広がるとともに、日本社会としてGHG排出量の削減に向かうことが期待される。
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