沓掛 クルマのアーキテクチャのトレンドについて伺いたいのですが、これまで機能ごとに分散していたECU(電子制御ユニット)を、高性能なコンピュータに集約するドメイン・アーキテクチャが提唱されています。
川西 高性能なコンピュータに集約していく方法も当然ある一方、安全性の追求には終わりがないので、どれ程の演算能力があれば適切か、どれ程のデータをセンシングすれば十分かといった問いには明確な答えはないんですね。並列化で性能を高めたり、不要なデータをエッジ側で処理して消費電力やデータ量を減らしたりするやり方もあるので、その都度判断する必要があると考えています。
沓掛 トレンドとして語られることの多いもう一つのキーワードがSDV(ソフトウエア・デファインド・ビークル)です。AFEELAもSDVを標榜されています。
川西 ハードウエアの代わりにソフトウエアによって機能を自由度高く実現する「ソフトウエア・デファインド」の考え方は、クルマから始まったわけではなく、以前からネットワークの世界では「SDN(ソフトウエア・デファインド・ネットワーク)」という言葉がありました。これをモビリティに適応したときの優位性が、世の中にようやく認められてきたのだと思っています。
SDVにはソフトウエアを実行するコンピュータに冗長性(性能の余裕)を持たせておくことが大事で、そうしておかないと先々にソフトウエアをアップデートしたり機能を追加したりできません。各メーカーの方針やラインアップによると思いますが、当社としてはクルマの進化の可能性を求めたいと考え、最大800TOPSという高い演算能力を持つ半導体を搭載していきます。
沓掛 SDVになると、身近なイメージで言えばスマートフォンのようなビジネスに、クルマも変わるわけですね。
川西 販売後も価値を提供し続けていくことになります。最終的には、お客様がどう感じるか、何を体験できるのか、というところに行き着くと思っています。
沓掛 AFEELAのような新しい時代の自動車に向けて、アナログ・デバイセズでは、カメラやメーター・ディスプレイなどの接続に適した映像データ伝送バス「GMSL™(Gigabit Multimedia Serial Link)」や、マイクやスピーカーの接続に適したオーディオ信号伝送バス「A²B™」などを開発し、ご提案しています。どちらも広帯域かつ低遅延が特長です。
川西 今言われたソリューションはいずれも採用する方向で進めています。ビデオやオーディオの伝送で何が重要なポイントかというと、やはり広帯域と低遅延なんですよね。エンタテインメント機能の拡充や、クルマの情報をECUに吸い上げるには、大容量のデータを流せるソリューションが不可欠です。その意味でアナログ・デバイセズの取り組みはとても重要だと感じます。
沓掛 ありがとうございます。これら当社が提供するビデオやオーディオの伝送バスに加えて、センサー出力などのさまざまな信号をEthernet化する「E²B™」などは、先ほど話題に上がったAI活用においても貢献できると確信しています。現在、テキストだけでなく映像、音声など、複数のデータを同時処理する高度な「マルチモーダルAI」が進んでいます。ビデオ、オーディオ、センサー・データなどを高性能なコンピュータに入力して演算処理を行うことで、初めてAIを動かして新しいアウトプットを得ることができるわけです。そこで重要なのが「データを集めて、送る」領域であり、当社は常に、ノイズの影響を受けにくく、広帯域かつ低遅延なデータ伝送の実現へ、技術を研鑽してきました。
川西 私がソニーで「PlayStation®」や「XPERIA™」の設計を担当していた時代からアナログ・デバイセズとはお付き合いがありますが、アナログとデジタルとの橋渡しを得意にされてきた認識です。目で見る、音を聴く、しゃべる、すべてアナログな世界です。それらがデジタル化されてデータとして扱えるようになることで、リアルな世界からバーチャルな世界が作れると考えています。
沓掛 さて、ソニー・ホンダモビリティが開発中のAFEELAは、2025年前半に先行受注を始めて、2026年に北米を皮切りに納車と発表されています。
川西 まずは1号車をお客様にお届けすることが最初の目標です。先ほども申し上げたように、人とモビリティの関係性を変えていきたいという思いを実現しながら、新しい価値観を作っていきたいと考えています。
沓掛 AFEELAがどのような価値観や体験を見せてくれるかがとても楽しみですし、当社としてもソニー・ホンダモビリティの革新的な取り組みに今後も貢献していければ嬉しく思います。本日はありがとうございました。