望月 製造業では労働力人口の減少などを背景にロボットやAIの導入が進んでいます。こうした状況をどのように捉えていますか。
齊藤 教えられた動作を正確かつ素早く繰り返すこれまでの「自動化」から、AIも活用しながら、周囲の状況に応じて動作を変え、人が対応していた暗黙知の領域までカバーする、いわゆる「自律化」へと進化を遂げつつあると考えています。日本や欧州では、AIを活用した外観検査や、移動経路を自ら判断する自律型の走行搬送ロボットがその代表例として進んでいますし、他方で中国やアメリカではヒューマノイド型ロボットの開発も盛んですね。
望月 「ルールが設定されている」のが自動化で、「ルールを自ら考える」のが自律化と理解しました。自律化の実現には、どのようなテクノロジーが必要でしょうか。
齊藤 重要なのは環境認識です。近くの人や障害物との距離の測定や、柔らかいモノをつかむ器用さなども求められます。そのためには、カメラやセンサーを用いて物理世界の情報を収集して、AIで認識や推論を行い、再び物理世界へと戻して動きを制御しなければなりません。
望月 そうした背景の中で、半導体メーカーであるアナログ・デバイセズの取り組みを教えてください。
齊藤 自律システムは、ロボットからFA機器に至るまで、高精度なセンシングや動作制御が求められています。また、データ量の急増にともない、高速かつ高信頼なネットワークも必要です。そうしたニーズに応えるために、アナログ・デバイセズが中核に据えているコンセプトが「インテリジェント・フィジカル・エッジ」です。当社は、アナログとデジタルの機能を統合したソリューションを推進し、さまざまな環境において感知、解釈、行動するシステムを提供しています。そのためにも、低ノイズ信号処理と高性能ネットワークに加え、状況判断や意思決定を可能にする組み込みソフトウエアとAIアルゴリズムの提供も進めています。
望月 エッジという用語は業界や企業によって異なる意味で用いられがちですが、どのように定義されていますか。
齊藤 当社としては「温度」や「圧力」や「距離」といった物理情報をデジタルに橋渡しするとともに、デジタルで演算した「動作量」などを、モーターやアクチュエータを介して“物理の世界に戻す”という、アナログとデジタルの接点をエッジと呼んでいます。この双方向インターフェースは、物理課題をリアルタイムで推測することを重視するフィジカル・インテリジェンスの概念の基盤となるものです。
望月 なるほど、物理量を扱うことを意味した「フィジカル・エッジ」なのですね。
齊藤 そのとおりです。物理世界との接点は、産業分野だけではなく、メディカルやヘルスケア、コンスーマ、オートモーティブ、エネルギーなど、あらゆる分野に存在します。デジタルの進化には、物理とデジタルとの接点の進化も必須です。それがまさにインテリジェント・フィジカル・エッジであり、センサーやアクチュエータを含めたリアルタイム制御を実現する技術と捉えていただければと思います。