竹爪氏:AIを企業の意思決定やサービスで本格的に活用するためには、データに求められる水準が格段に上がります。どのような方針でデータ基盤を構築すれば良いとお考えでしょうか。
佐藤氏:多くの企業が、AIの回答に自社固有のデータを掛け合わせるRAG(検索拡張生成)の導入を検討しています。そしてその際、基幹システムなどの社内データを、RAG用のデータベースに複製して格納するケースが見受けられます。
しかし、データを複製した瞬間にデータの鮮度が落ち、古いデータを参照したAIは誤った回答を出すリスクが増大します。私はこの複製プロセスが、AIの精度を大きく低下させる要因であると考えています。
複製を介さず、AIが常に単一の「正本データ」を直接読みに行くことができるデータベースを構成することが、AI視点での最適なデータの持ち方だと言えます。
また、AIの回答精度を高めるには、受注、在庫、生産といった複数部門のデータを多面的に組み合わせることが不可欠です。部門ごとに最適化されたサイロ型のデータベースを、どうやって統合するかも考えなければいけません。
竹爪氏:オラクルも同じ考えに基づき、「AI on Live Data」を提唱しています。これは、データを複製してAIへ渡すのではなく、最新のリアルタイムデータを、そのままAIが参照できるデータ基盤の姿です。
ただし、既存の基幹系システムなどのデータを、無理にまとめる必要はありません。分散したままでもAIからは1つのデータソースとして扱える「ハブ型」のプラットフォームの構築を、オラクルでは提案しています。
佐藤氏:サイロの解消は必要ですが、データを物理的に1カ所にするかは別にして、AIから1つに見えるように保持する必要はあります。
その上で、重要なのは、データ本体にその属性やデータ取得の経緯などを示す「メタデータ」を付加することです。メタデータの付け方を含めた管理ポリシーを設定することで、社内データの検索精度を高め、再現性を持たせることができます。当然、このようなメタデータの適切な設定ができるデータベースを選択することも必要です。
また、企業のAIシステムでは、特定のAIモデルに依存しない構造であることも重要度を増しています。AIモデルは進化が速く、RAGに相当する技術も移り変わります。その時々で最適なものを選べば良いからです。企業にとっての真の資産はモデルではなく、自社が持つ「データ」そのものであると再認識すべきです。
竹爪氏:日本企業がAI活用に慎重になる大きな理由の一つは、セキュリティとガバナンスへの懸念ですが、そのあたりはいかがでしょうか。
佐藤氏:RAGを使って社内情報をAIに読み込ませると、本来、特定の部署しか見られないはずの情報が、AIの回答を通じて全社員に見えてしまうおそれがあります。むしろ現状でも「至るところで起きている」と言っていいかもしれません。
この問題は、AIの出口側、つまり回答内容を監視する「ガードレール」だけでは防ぐことができません。AIに悪意ある指示を投げれば、機密情報のキーワードから文書を引っ張り出すことができてしまうからです。
解決策は、データの「入り口」でブロックすること。つまりAIがアクセスするデータベース側で認証し、認可する機能を含むアクセス制御を持たせるしかありません。その意味でも、データ基盤の設計思想がAIを安心して活用するためのポイントとなります。
竹爪氏:おっしゃる通りですね。企業内で社長が使うAIエージェントと、一般社員が使うもので、参照できる情報が同じであってはいけません。
その点、我々オラクルをはじめとする企業向けのリレーショナルデータベース(RDB)は、ユーザーごとのアクセス制御や監査、トレース機能を長年にわたって進化させてきました。また、「誰が」「いつ」「どの情報」にアクセスしたかを追跡できるなど、データアクセスに統制をかけることも得意としています。
佐藤氏:個人情報保護の観点からも、利用目的の制限は厳格に適用されなければいけません。社内利用であっても、データ取得時に明示した目的外で使用することは禁じられています。利用の履歴を残せるデータベースであるかも、AI時代にはますます重要な要件になります。
竹爪氏:AI Readyなデータ基盤を構築する手順ですが、AI用に新しい基盤を一から作り直すことは、セキュリティや性能、信頼性の整備に多大なコストがかかります。
そこでオラクルでは、これまでの企業向けデータベースの新しいバージョンに、今日の議論にも出てきたさまざまなAI対応機能を追加しています。
導入手順も、試験的なPoC(概念実証)段階から、実際の本番サービスまでを1つのアーキテクチャで完結させることを推奨しています。信頼性の高い既存のデータベースをベースに、AIに特化したベクトル検索機能などを実装していくアプローチが、現実的なAI Readyへの道です。
佐藤氏:日本企業は、できるだけ早くAI Readyな状態になるべきです。というのは、これまでは資産として認識されてこなかった現場の知恵や熟練者のノウハウを、AIを通じて構造化し、日本の知的資産として残すことができるからです。
また、基幹系データにも日本企業の業務プロセスの強みが凝縮しています。こうした固有のデータを臨機応変に組み合わせたAIこそが、日本企業が世界の市場で存在感を持つ「勝ち筋」であると見ています。
竹爪氏:ここまでの佐藤先生とのお話を通して、日本企業が秘めているポテンシャルについて改めて確信しました。AIを高付加価値な形で活用できる余地は、どの国よりも大きいはずです。
佐藤氏:私はよく企業の方に、「AIはコストではなく資産である」とお伝えしています。社内に眠る価値ある知見を、AIで資産化することを目指していただきたいですね 。さらに資産としてのAIは、その活用を通じて知見を増やせることから、価値が上がる資産になりえます。日本企業の成長の可能性は非常に高いと思います。
竹爪氏:データの分断を解消するモダナイゼーションは、AIを本格的に実装する好機でもあります。競争力強化のカギは、自社が持つデータを「いかに早く、いかに深く活用できるか」というスピードにあります。
佐藤先生をはじめとする有識者の知見を、私たちテクノロジーベンダーが「安心して実現できる仕組み」として提供していくことで、AI時代の日本企業の変革を支援していきたいと考えています。