NTTデータ先端技術は、単体で938名、グループ全体で1401名もの従業員が働くシステム基盤ソリューションの提供企業である(2021年4月1日現在)。システムやソリューションという無形の資産を提供する同社にとって、最も大切な経営資源は、それらを企画・提案し、実装から運用までトータルで提供できる「人材」だ。
同社の人事総務部は、その「人材」が自らの持つ能力を高めつつ、手腕を振るい続けてもらうために、「Well-being」(ウェルビーイング、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあること)を重視している。
「中でも従業員同士のコミュニケーションの質を高め、仲間意識や絆を深めることはWell-beingを実現するための重要なテーマです」と小林氏は語る。
だが、同社のように個々のプロジェクトに参画して手腕を発揮するような働き方においては、従業員はあちこちの開発拠点に常駐しているケースが多く、ただでさえ日ごろから従業員同士が交流する接点は少ない。
「従業員同士が机を並べて常にコミュニケーションを交わせる環境であれば、先輩・同僚に困り事などを気軽に相談できますが、顧客企業に常駐して対応するプロジェクトなどの場合は簡単ではありません。もちろん上司による定期的な訪問や、人事総務部主催イベント、各種相談対応など、コミュニケーション不足を解消する仕組みを用意してはいたのですが、コロナ禍によって従業員のテレワークを推進したことで、直接コミュニケーションの機会はますます減っていました」(小林氏)
そしてもう一つ、有給休暇の取得などの勤怠申請や業務用の端末やシステムの申請といった社内手続きが煩雑で、業務に少なからぬ支障を来していることも課題であった。
「当社では従業員のPCから様々な申請を行うことができます。便利な一方で、申請内容によって窓口がばらばらで、どこに問い合わせればいいのか分からず、頼んだことがどこまで進んでいるのかを確かめるのに時間がかかる場合があります。手続きに迷い、ストレスを感じてしまう人がいるというのも耳にします」と語るのは、人事総務部人事担当 担当部長の伊藤美和子氏である。
社内アンケートでは、そうした社内申請の煩雑さによって仕事に集中できないという声も多かった。「もっと本業に力を注げるように従業員向けの社内サービスを改善すべきではないかと考えました」と伊藤氏は振り返る。
従業員に余分なストレスを与えず、本業で存分に力を発揮してもらえるようにすれば、顧客企業に提供できる価値も高まる。「Well-being」の実践は、企業価値や業績の向上にも直結する。
「その好循環を生み出すためには、従業員に『働きやすい会社だ』と思ってもらえるような環境を整えなければいけません。人事総務部が『従業員エクスペリエンスの向上』を目指したのは、そうした強い思いが原点にありました」(小林氏)
これを実現するため、人事総務部は自らが社内DXの推進役となり、仕組みづくりを行っていくことにした。仕組みを回すための基盤として採用したのが、ServiceNowのHR Service Delivery(以下 HRSD)である。
HRSDは、人事申請や福利厚生手続きなどの人事サービス、社員証の発行や入館手続きなどの総務サービス、ITデバイスの貸与やシステムへのアクセス権限をIT部門に申請するなど、あらゆる手続きやシステムを1つの従業員サービスとしてつなぎ、 “ワンポータル”で従業員に提供できるソリューションである。通常、これらの申し込みは、担当する各部門にばらばらに行うことになるが、HRSDは、各部門が使用するシステムを一元化する「Now Platform」という業務プラットフォーム上で動くので、「1つ」の窓口からすべての申請が可能となる。
しかも、すべての問い合わせが「1つ」のサービスポータルでできるようになり、用件ごとに、別々の担当者へ電話やメールで連絡を取る煩わしさからも解消される。社内業務に関する従業員のストレスを軽減するためには、非常に理想的なソリューションであった。
小林氏は、「ServiceNowが世界中で多くの企業に利用され、高い評価を得ていることは知っていましたが、人事や総務関連のソリューションとして提供されていることは認識していませんでした。しかし、従業員エクスペリエンスの向上のためにも『新しい技術は積極的に試してみよう』という思いから、まずはスモールスタートから始めてみることにしたのです」と振り返る。
こうしてNTTデータ先端技術は、2021年2月にHRSDの導入を決定。手始めにどのようなサービスを提供していくのかを検討するため、プロジェクトを主導する人事総務部、開発を担当する同社ソフトウェアソリューション事業本部 AP(アプリケーション)テクノロジー事業部、実際にサービスを利用するユーザー(従業員)の代表者、ServiceNowの担当者が集まってワークショップを開催した。