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DX成功のカギは「従業員エクスペリエンスの向上」 NTTデータ先端技術が進める人事総務部主導の企業変革

従業員の85%が高評価
職域接種の予約システムも追加

 人事総務部側で導入プロジェクトをリードした伊藤氏は、ワークショップの成果について、「Service Nowの機能を使えば何ができるのかという提供する側からの視点ではなく、『こんなことができるようにしてほしい』という使い手の理想に沿った方向性づくりができました。これはServiceNowからのアドバイスに基づいたアプローチであり、従業員エクスペリエンスを向上させるためには、何より従業員の要望や意見にしっかり耳を傾けることが大切だということを知りました」と語る。

 一般に社内DXのプロジェクトでは、従業員向けサービスを提供する人事や総務、経理といったバックオフィス部門の業務効率化に重点が置かれがちだ。もちろん、それも重要ではあるが、「『従業員エクスペリエンスを向上させる』ことをプロジェクトの基本コンセプトに据えていたので、何よりも従業員体験を最優先させるべきだという方向性だけは絶対に見失わないようにしながら要件を詰めていきました」と伊藤氏は振り返る。

 ワークショップでは、プロジェクトを大きく2つの段階に分け、第1段階では、あらゆるサービスへのアクセスを一元化する人事総務部サービスポータルをリリースすることにした。

 そして第2段階では、社内のすべてのシステム群とデータベース群を「Now Platform」上で一元化し、従業員がその日にやらなければならない仕事(To Do)の確認や、担当する仕事の進捗状況の把握などが、同じ人事総務部サービスポータルで行える環境を整えることを目指した。

西村氏/小林氏/伊藤氏

 人事総務部サービスポータルの構築から始めることにしたのは、「それまで電話やメールで行っていた申し込みを人事総務部サービスポータルに一本化することで、従業員に『ずいぶん変わったな』という印象を持ってもらいたかったからです」と小林氏は説明する。

 「従業員の幸福度を高めるため社内DXに取り組んでいることを、インパクトを持って伝えたかった。これもワークショップでServiceNowから受けた提案の一つですが、おかげで今後の変化に対する従業員の期待が強まったのではないかと思います」(小林氏)

 開発は21年3月にスタートし、5月には人事総務部サービスポータルのファーストバージョンをリリースと、わずか3カ月足らずで完了した。人事総務部サービスポータルの画面上には、申し込み先や手続きの手順などが調べられる検索窓を設け、よくある問い合わせや申し込みについては人事関連、研修関連、採用関連などに分けてメニューを掲げた。

 ファーストバージョンをリリース後、従業員向けにアンケート(今後の期待も含めた)を行ったところ、「従来よりも欲しい情報にたどり着きやすくなる」「問い合わせなどのコミュニケーションがストレスなく取れるようになる」という回答が85%に達し、今後も定着化とサービス追加を継続して進めることで、「従業員エクスペリエンス向上」の効果を最大化できるという感触をつかむことができた。また、将来的には「人事総務部だけでなく、他の部門のサービスもポータルに一元化してほしい」という要望も85%に上った。

 こうした声を受けて、新型コロナウイルスワクチンの職域接種が始まったときには、すぐさま予約システムを画面上に追加した。伊藤氏は「実装がしやすく、すぐにサービスの追加や変更ができるのもHRSDの便利な点だと思います」と評価する。

人事総務部がHRSDで作った従業員ポータルサイトのトップ画面
人事総務部がHRSDで作った人事総務部サービスポータルのトップ画面。新型コロナウイルスワクチンの職域接種開始に合わせて予約システムも設けた。

社内での成功体験を基に
顧客企業のDXも支援していく

 HRSDをはじめとするServiceNowのソリューションは、様々なアプリケーションをノーコード・ローコードでアジャイルに開発できるのも大きな特徴である。

西村 氏
NTTデータ先端技術株式会社
執行役員 ソフトウェアソリューション事業本部
APテクノロジー事業部 事業部長
西村 弘二
1991年4月、NTTデータ通信(現・NTTデータ)入社。ビジネス開発事業本部でデータセンタ事業の立ち上げに携わった後、ミャンマー現地法人への出向などを経て、2019年7月より現職。アジャイル開発およびインドオフショア開発を推進。

 「開発の途中段階でも、従業員の要望を反映しながら比較的簡単かつスピーディに修正や改善ができます。実際の開発工程では、出来上がった画面をその都度従業員に見せながら作り上げていきました」と語るのは、開発をリードした同社執行役員 ソフトウェアソリューション事業本部 APテクノロジー事業部長(取材当時)の西村弘二氏である。

 初めて取り扱うソリューションのため、開発の初期段階では設計思想やアプリケーションごとの機能などを理解するのに多少苦労したというが、ServiceNowによるきめ細かなサポートを受けながら習熟度を高めていったという。

 西村氏が管掌するAPテクノロジー事業部は、顧客企業のシステムやアプリケーションの開発、運用などを行っている部門である。そのため本来、社内システムに携わることはないが、「今後ServiceNowのソリューションをお客様にも提供していくために、学びの機会を得る目的でプロジェクトに関与しました。常に最先端の技術を吸収し、お客様に新しい価値を提供するという当社の使命を果たすためです」と西村氏は説明する。

 社内DXを通じてエンジニアたちが新たな技術に関する知見を積めば、それはNTTデータ先端技術にとっても大きな武器となる。「従業員エクスペリエンスの向上」によってストレスなく働けるようになったことで、新しい業務領域において思う存分に力を発揮できるようになるのである。まさに、「人」を起点としたビジネスの好循環が回り出す。

 小林氏はプロジェクトの今後について、「すでに第2段階が動き出しており、各種社内申請のデジタル化、社員一人ひとりのライフイベントに寄り添った情報提供など、従業員サービスのパーソナライズ化を進め、従業員がストレスなく本業に専念できる環境を整えていきたい」と語る。

 NTTデータ先端技術は、「人」の力をさらに高める基盤として、ServiceNowのHRSDに強い期待を寄せているようだ。