
メルカリの急成長は、社員同士の緊密なコミュニケーションによって支えられている。社内における日常のコミュニケーションには専用のツールを使用。「提案や相談、連絡のためにメールをやり取りすることはほとんどなく、このコミュニケーションツールだけですべてが完結しています」と清川氏は説明する。様々な部門の担当者を巻き込みながら、テンポよく対話を深めていけるからこそ、新しい事業やサービスのアイデアが次々と生まれるのだろう。
同社は、その強みをさらに発揮するため、単なるコミュニケーションツールとして使うだけでなく、意思決定ツールとして活用できないかと考えた。
「コミュニケーションツール上で決定された事項を、そのまま申請・承認できるような仕組みを作れないかと思ったのです。この仕組みが実現すれば、意思決定から業務遂行までのリードタイムが格段に短縮されますからね」と清川氏は説明する。
従来、メルカリでは、各種申請・承認のためのシステムは、コミュニケーションツールとは切り離された状態で、バラバラに開発・運用されていた。そのため、経理に関することは経理のシステム、法務関連は法務のシステムといったように、申請内容によって異なるシステムにアクセスし、必要事項を入力しなければならなかった。
例えば、ある取引先と新規取引を行う場合、経理部門への与信審査の申請、法務部門への契約書のレビュー申請などを経て、問題がなければ稟議を上げ、承認を得るというプロセスが発生する。これらのすべてを別々のシステムで行う必要があり、かなりの手間と時間がかかっていた。
また、申請・承認のためのシステムはコミュニケーションツールとは完全に切り離されているので、メールなどで承認依頼の通知が届いても、数日間放置されてしまうといったことが頻繁に起こっていた。コミュニケーションツールの活用によって「メールを見ない文化」(清川氏)が根付いてしまっているためだ。これによる承認の遅れも、ビジネスのスピードを停滞させかねない要因となっていた。
「そこで、各部門のシステムをシームレスに連携させ、コミュニケーションツール上で申請を行えば、承認までのワークフローが自動的に流れるような仕組みを構築したいと考えました」と清川氏は説明する。
しかし、既存のクラウドサービスでは、メルカリが求めているような仕組みを構築するのは容易ではなかった。
「業務アプリ構築に特化したクラウドサービスなので、個別のアプリは効率よく、簡単に開発できるのですが、アプリ同士やシステム同士を連携させるのに手間がかかるのが難点でした」と説明するのは、同社コーポレート システム エンジニアリングの小松武弘氏である。
API連携のためのコネクターなどが用意されておらず、システムを連携させる際には一つひとつスクラッチでコネクターを開発しなければならない。「やってやれないことはありませんが、社内にあるいくつものシステムをつないで、ワークフローに統合させるとなると相当な時間と手間がかかります」(小松氏)。
さらに問題だったのは、このクラウドサービスがコミュニケーションツールとの連携には不向きであったことである。申請・承認を行うためには、各部門のシステムと一つひとつ連携させなければならないが、そのためのモジュールも標準装備されておらず、手作業でつながなければならないのも課題であった。
それでも、メルカリは手間を惜しむことなく、いくつかのシステムを連携させて、少しずつワークフローを作り上げていった。しかし、「理想としているのは、社内のあらゆるシステムやアプリを統合させて、意思決定から業務遂行までのワークフローが最初から最後までに流れるような仕組みです。それを早期に実現させるには、プラットフォームそのものをイチから見直すべきではないかと考えました」と清川氏は振り返る。
そこで同社は、国内外の様々なプラットフォームを検討。その中で最もふさわしいと評価したServiceNowを20年10月に導入した。
ServiceNowを選定した理由について、清川氏は「コミュニケーションツールとの親和性が非常に高いことに加え、外部システムとの連携が非常に柔軟で、拡張性も高いことを評価しました」と語る。
さらに、グローバルに利用されているServiceNowは、多言語対応などの配慮もされているので、メルカリのグローバル戦略にも適応すると考えた。
「今後、米国以外の地域でもサービス展開を考えているので、グローバルに利用できるプラットフォームであるという点は大きな評価ポイントの一つでした。ちなみに、当社は東京オフィスのエンジニアも約半数が外国籍なので、その意味でも多言語対応は必須の条件でした」と清川氏は語る。