エクセル管理に限界を感じて
「Board」の導入を決定
21年に新設されたキリンホールディングスのコーポレートFP&Aは、グループ全体の長期経営計画の管理の高度化に取り組んだ。そのプロセスは、各事業会社がエクセルで作成した長期計画をメール等で回収し、モニタリングやアドバイスを行うというものであった。
しかし、「エクセルのフォーマットでのやり取りは、計算式が予期せぬ形で更新されたり、複数のバージョンが作成されたりして、ファイルそのものを読み解く作業だけでもひと苦労していました」と振り返るのは、同社 財務戦略部の石川 怜氏である。
財務戦略部
石川 怜 氏
本来なら、そうした煩雑なマニュアル作業は極力減らし、各事業会社とのコミュニケーションにより多くの時間を割けるようにするのが理想である。また、エクセルではシミュレーションを行うのも容易ではなく、「簡単にシミュレーションができて、ダッシュボードのように可視化できる仕組みが導入できないものかとも考えました」と石川氏は明かす。
様々な検討を重ねた結果、キリンホールディングスが選んだのは、「Board」(ボード)というクラウドプラットフォームであった。
「Board」は、BI(ビジネス・インテリジェンス)とCPM(企業業績管理)が一体化した統合プラットフォームで、データ入力から予算作成、分析、シミュレーション、レポート作成など、計画作りのためのありとあらゆる機能が統合されているのが大きな特徴だ。
各事業会社が同じプラットフォーム上でデータ入力や予算作成等を行えば、フォーマットの統一が不要になるのでマニュアル作業は格段に減る。しかも、「シナリオの追加が比較的容易なので、エクセルに比べてシミュレーションがしやすく、いろいろな切り口の予測が簡単にできる点も評価しました」と石川氏は語る。
グループ全体の経営計画が迅速かつ精度高くアップデートできるメリットは社内でも高く評価され、財務戦略部のほか、経営企画部、DX戦略推進室の全面的なサポートを受け、22年6月、「Board」の導入プロジェクトが動き出した。
短期間で開発するため
テンプレート方式を採用
キリンホールディングスは「Board」の導入にあたって、数多くの導入支援実績を持つNTTデータにコンサルティングを依頼した。
手始めにコーポレートFP&Aと、主要な事業会社6社が利用するプラットフォームとすることを決定。23年度からの利用を想定して開発期間は半年とし、最小限の予算で構築することをNTTデータに求めた。
実際のところ、これはかなりハードルの高い要求であった。「同じキリングループでも、6つの事業会社は、食品、医薬品、ヘルスサイエンスと事業形態がバラバラなので、異なる要件に対応しながら、短期間、ミニマムコストで導入させるという二律背反的な課題をクリアしなければなりませんでした」と振り返るのは、導入支援に携わったNTTデータ 法人コンサルティング&マーケティング事業本部の清水悠太郎氏である。
法人コンサルティング&マーケティング事業本部
清水 悠太郎 氏
この課題を乗り越えるため、清水氏は6つのうち1つの事業会社を「モデル会社」とし、そのモデル会社のテンプレートを他の5社に横展開させるという解決策を提示した。
「『Board』の主な機能であるPL(損益計算)、BS(バランスシート)、CF(キャッシュフロー)の3つのうち、BSとCFについては事業形態が異なっても、それほど大きな違いはありません。そこで、モデル会社向けに開発したものをテンプレートとし、PLの部分だけを各事業会社の要件に合わせてカスタマイズすれば、短期間、ミニマムコストでの導入という要求を満たせるはずだと考えたのです」(清水氏)
このように、開発した仕組みを柔軟に横展開できるのも「Board」の大きな特徴である。
石川氏は、「計画作りやモニタリングに必要なあらゆる機能が整っていることに加え、グループ全体に展開しやすい拡張性も備えた数少ないプラットフォームの1つだと言えます」と評価する。
内製化によって
将来のための知見を蓄える
短期間、ミニマムコストによる導入という条件をクリアするため、NTTデータとキリンホールディングスは方法を模索し1つのソリューションにたどり着いた。
それは、テンプレートを事業会社ごとにカスタマイズする作業の内製化である。NTTデータがカスタマイズを請け負うのではなく、キリンホールディングスの社員が自ら行うことで、開発コストをさらに抑えられるというものだ。
これは、キリンにとってはさらにメリットがあるものであった。「コストを抑える効果はもちろんですが、開発のための知見が社内にたまるので、今後さらなる横展開もしやすくなります。将来のことまで考えると、内製化を実現すべきだと判断しました」と石川氏は語る。
「Board」の導入プロジェクトは、石川氏をリーダーとし、ホールディングスのDX戦略推進室から4人のスタッフがプロジェクトメンバーとして指名された。この計5人が専任メンバーとしてプロジェクトに専念する体制を整えたことも、短期間で導入にこぎ着けることができた大きな理由の一つである。
NTTデータの清水氏は、「企業のDXプロジェクトでは、本業の傍らプロジェクトを兼務させるケースも多く見受けられますが、プロジェクトに専念していただいたほうが完成度は上がり、手戻りが減るので期間やコストも圧縮できます」と語る。
プロジェクトの重要性を理解し、専任での業務遂行を認めたキリンホールディングスの意思決定が、プロジェクトを前進させる大きな力になったようだ。
NTTデータは、内製化を支援するため、「Board」の開発方法に関する約1カ月半のプログラムをキリンホールディングスに提供。内製化の実現等によって、キリンホールディングスは23年3月、「Board」を基盤とする「財務モデル」の運用をスタートさせた。これによって、コーポレートFP&Aは各事業会社から送られてくるエクセルを整理する手間がなくなり、同じダッシュボード上で計画を共有できるようになったことで、各事業会社とのコミュニケーションも格段に深まった。
大上氏は、「今後、より多くの事業会社の経営計画を可視化し、グループ全体のモニタリングとガバナンスを強化していきたい。FP&Aの取り組みを通じて、会社のさらなる成長に貢献していくのが目標です」と語る。
「Board」を基盤とするキリンの「グループ財務DX」は、飛躍への一歩を着実に踏み出した。
Board Japanについて
日本法人のヘッドクオーターであるBoard Internationalは、1994年に設立されたスイスと米国ボストンに本社を置くソフトウェア企業です。FP&A/xP&Aを強力に支援するクラウド基盤で、企業の意思決定を支援します。製品は、BI、EPM(経営管理)及び予測分析アプリケーションを一つのプラットフォームで提供し、業種や業界を問わず世界で100ヵ国以上、2,000社以上の企業に導入されています。Boardの意思決定プラットフォームを活用することで、正確で包括的な事業データを一元的に把握し、経営戦略からオペレーションの実行まで企業全体のパフォーマンスを管理することが可能です。Coca-Cola、DHL、KPMG、Puma、Siemensといったグローバル企業がBoardを導入しています。
NTTデータについて
NTTデータは、豊かで調和のとれた社会づくりをめざし、世界50ヵ国以上でITサービスを提供しています。デジタル技術を活用したビジネス変革や社会課題の解決に向けて、お客さまとともに未来を見つめ、コンサルティングからシステムづくり、システムの運用に至るまで、さまざまなサービスを提供します。そして、お客さまの事業変革パートナーとして、将来のあるべき姿(Foresight)を描くとともに、その実装・効果創出まで伴走型のコンサルティングにより一気通貫でサポートします。
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