
NTTドコモが提供するネットワークサービスは、絶えることのない進化と多様化を続けている。新しいネットワーク基盤やサービスがリリースされると、そのための装置や、新たな運用ルールが追加され、遠隔保守業務の稼働量も増えていく。
「運用ルールは現時点で数千にも及んでおり、これまでの傾向を踏まえると、今後増え続けていくことは確実です。そのため、かなり以前から、遠隔保守業務の『自動化』は避けて通れない重要な課題でした」と北島氏は明かす。
近年は諸外国との首脳会議をはじめとする重要な政治イベントや、国際的なスポーツイベントなどが開催される機会が増えている。そうした場合、重点監視体制を敷いて障害に備える一方で、限られた時間の中で設定変更や試験を行うため、稼働量はますます増大するという。年々増え続ける水害などの自然災害も、監視稼働の増強を促す要因となっているようだ。
稼働量が増える一方で、遠隔保守業務の質に対する要求も高まっていると語るのは、同社ネットワーク本部 サービス運営部 国際サービス 国際サービス運営担当 主査の岡見高明氏だ。「モバイル通信サービスは、通話やメール、SNSなどのコミュニケーション手段としてだけでなく、人々の暮らしや経済を支える社会インフラとしての役割を強めています。そのため、故障発生後の迅速な復旧が求められており、スピードアップを図るためにも『自動化』は有効な手段になるのではないかと考えました」(岡見氏)。
「自動化」を推し進めれば、遠隔保守業務のために配置していた人員を、他の業務にシフトさせることもできる。「会社全体で見ると、当社の主力事業である通信サービスの収益は頭打ち傾向にあり、スマートライフをはじめとする他の成長事業をいかに強化していくかが今後の課題です。『自動化』によって人員の再配置が可能になれば、当社が目指すビジネス変革にも貢献できるわけです」と同社 ネットワーク本部 サービス運営部 国際サービス 国際サービス技術担当の永黒友貴氏は説明する。
そこでNTTドコモが打ち出したのが、「ゼロタッチオペレーション構想」である。
「ゼロタッチ」とは「人手を介さない」、「オペレーション」とは「運用」の意味であり、文字通り、「自動化」によって「人手を介さないネットワーク運用」を目指す構想だ。
同社は20年10月、手始めに国際ローミングサービス(ドコモユーザーが海外旅行をする際にそのまま通話やデータ通信ができるサービス)の遠隔保守業務に「ゼロタッチオペレーション」を導入するPoC(概念実証)をスタートさせた。
NTTドコモは「ゼロタッチオペレーション」のPoCの実施にあたって、「自動化」する業務の対象を絞り込んだ。
通信サービスやネットワークの故障には、復旧させるための手順が決められている「定型故障」と、特定の手順はなく、スタッフのスキルや経験に依存して個別に解決せざるを得ない「非定型故障」の2つがある。後者については“人の状況判断”が必要となるため、完全に「自動化」するのは困難だ。
一方、「定型故障」は、手順が決まっているので「自動化」に適応しやすい。しかも、「同じ手順の作業なら、人がやるよりも、システムが処理した方がはるかに復旧スピードは速まり人為的な作業ミスもありません。そのため、『定型故障』を『自動化』の対象にしました」と同社 ネットワーク本部 サービス運営部 国際サービス 国際サービス運営担当の須藤清達氏は説明する。
すべての故障のうち、「定型故障」の占める割合が約8割に上ることも「自動化」の対象にした大きな理由である。その分、スタッフの稼働量を大幅に減らすことができるからだ。
また、国際ローミングサービスをPoCの対象にしたのは、国内サービスに比べると事業規模が小さく、検証に適していたからである。「まずは、小さく始めて成功・失敗のノウハウを蓄え、その経験を生かして国内サービスにも移植することにしました」(岡見氏)。
NTTドコモは、「ゼロタッチオペレーション」のための基盤として、SaaSを利用することにした。その理由について、永黒氏は「ハードウェア基盤を新設する必要がないので、導入のリードタイムを大幅に短縮できること。最新の機能が継続的に追加されること。CPUやメモリなどのシステムリソースが柔軟に増減できることなどにメリットを感じました」と語る。
複数のSaaS製品を検討した上で、最終的にNTTドコモが選んだのはServiceNowのソリューションであった。