人材を「資源」ではなく「資本」と捉え、その価値をいかに高めるかを追求する「人的資本経営」。2023年3月期には有価証券報告書における人的資本項目の開示が義務化され、人的資本経営の実践はますます重要な企業課題となっている。人的資本の価値を最大化するには、DXの推進も不可欠だ。具体的な取り組み方について、4人の識者に聞いた。
経営戦略と人材戦略を
密接に結びつけることが重要
一橋大学CFO教育研究センター長
名誉教授
伊藤 邦雄 氏
名誉教授
伊藤 邦雄 氏
1951年千葉県生まれ。75年一橋大学商学部卒業、92年同大教授。現在は同大CFO教育研究センター長で、名誉教授。2014年に座長としてまとめた国の最終報告書「伊藤レポート」は経済界に大きな影響を及ぼした。『企業価値経営』(日本経済新聞出版)など著書多数。
「企業は経営戦略と人材戦略を連動させるべきである」――。これは、経済産業省が2020年度に発表した「人材版伊藤レポート」で最も重要視されている項目だ。22年5月には、2つの戦略をどのように連動させるのかという具体的な施策をまとめた「人材版伊藤レポート2.0」も発表された。
これらのレポートが相次いで発表されたことは、多くの日本企業が、経営戦略と人材戦略とを結びつけられずにいるという現実を意味する。そしてそれが、日本企業の稼ぐ力や、国際競争力を著しく低下させる大きな要因となっているようだ。
「世界を調査対象とする従業員エンゲージメント調査を実施すると、日本は常に最低レベルにランクします。『日本企業は社員に優しい』という勝手な思い込みがあるようですが、決してそんなことはありません。時代の変化とともに、日本型の人事戦略の限界が露呈し始めているのです」と語るのは、伊藤レポートをまとめた一橋大学CFO教育研究センター長の伊藤邦雄名誉教授である。
その背景にあるのが、経営戦略と人事戦略との分離だ。
「多くの日本企業は、いまだに人材を『資源』(人的資源)として捉えていますが、『資源』は使えばなくなるものであり、コストと言い換えることもできます。これに対し、人材を『資本』と捉えれば、その価値を高めることによって、企業そのものの価値や成長力を高めることができる。『人的資本経営』とは、人という資本の価値を高めるための積極投資であり、その実現のために、経営戦略と人事戦略を密接に結びつける必要があるのです」と伊藤名誉教授は指摘する。
