今、社会課題解決に投資すべき理由 日本の技術力で
インパクト最大化を

経済価値重視からサステナブルな資本主義へのトレンドは不可逆的だ。新しい競争力となるインパクト*1創出の重要性が高まっていると、みずほフィナンシャルグループ 末吉光太郎氏は指摘する。「ESG経営は、外部環境が自社に及ぼす影響の観点から取り組むアウトサイドインです。それを重視しつつ、様々な社会課題が顕在化する中、課題解決をビジネスチャンスと捉える戦略が求められています。いかに社会や環境に好循環をもたらすか。インサイドアウトのインパクト創出は、新市場創出や企業価値向上につながります」。

社会課題領域として、地球規模の保健医療「グローバルヘルス」は、日本が主導するフィールドだ。2023年5月、日本が議長国を務めたG7広島サミットで「グローバルヘルスのためのインパクト投資イニシアティブ(Triple I)」を承認、同年9月の国連総会ハイレベル会合の機会に設立された。民間資金を動員し、途上国の保健医療に関わる社会課題を解決していく。インパクト志向の金融機関を目指すみずほフィナンシャルグループも加盟した。

*1 インパクト:活動や投資により生み出される社会、環境にもたらす変化

インパクトが収益に
結びつく道筋を描く

グローバルヘルス技術振興基金
CEO 兼 専務理事
医学博士
國井 修氏

Triple Iから遡る10年前の2013年、日本初/発の国際的官民パートナーシップとしてグローバルヘルス技術振興基金(GHIT Fund)が事業を開始した。日本政府(厚生労働省・外務省)、国内外の製薬企業、ビル&メリンダ・ゲイツ財団などが資金を拠出。貧困国でまん延する感染症の治療薬などの研究開発に投資(助成)を行っている。グローバルヘルスの現状について、GHIT Fund 國井修氏は話す。

「結核、マラリア、顧みられない熱帯病の感染者数は約20億人*2、死者数は約200万人*2。この数値は新型コロナウイルスの年間平均感染者数の約10倍、死者数はほぼ同じです。違いは、同感染症は新薬により収束に向かっていますが、貧困国の感染症は資金や人材不足から研究開発が進まず、取り残されたままです」

*2 2021年時点、世界保健機関(WHO)調べ

GHIT Fundにおける過去10年の累計投資額は300億円以上、120件を超えるプロジェクトに投資。現在進行中は40件以上で、うち10件以上は臨床試験段階にある。「9年間にわたり支援した住血吸虫症の小児用製剤が、2023年12月に欧州医薬品庁から肯定的な見解を受領しました。今後5000万人以上の子供たちに健康と希望がもたらされることでしょう」。

みずほフィナンシャルグループ
みずほ銀行
サステナブルビジネス部 副部長
末吉 光太郎氏

GHIT FundもTriple Iも、グローバルヘルスに携わる企業以外とのパートナーシップが目的達成の鍵を握る。「企業にとって、グローバルヘルスは直接の事業対象でない限り自社への影響が分かりにくい。インパクトが収益に結びつく道筋が見えていないことも、企業が一歩を踏み出せない理由です。感染症撲滅を成果として実感する発想転換が必要です。健康改善のその先に、生活・社会・経済の発展といった価値創造ストーリーを自ら描くことで、企業は取り組みやすくなります」(末吉氏)。脱カーボン社会に向け、CO₂削減のインパクトを避ける企業がなくなったのと同様、グローバルヘルスでも同じ志向性がまたれる。

さらに、感染症が起きている途上国と日本企業との間でビジネスのつながりが増えると、ストーリーが具現化しやすいと末吉氏。それに応じて國井氏は「アフリカにはスタートアップも増えてきました。医療に関してもオンライン診療など日本のITを生かせるシーンはたくさんあります」と話す。「日本のファンドは、健康関連のビジネスを展開するアフリカのスタートアップなどに投資しています。日本企業との協業を加速させ、ビジネスが生み出すインパクトを評価し、企業価値向上につながるよう金融の力で支援していく。このサイクルを実現できれば、グローバルヘルスの課題解決は加速していきます」(末吉氏)。

将来のインパクトも
評価軸の一つに

みずほリサーチ&テクノロジーズ
社会政策コンサルティング部
医療・福祉政策チーム シニアマネージャー
掛川 紀美子氏

インパクト投資促進の観点では、グローバルヘルスにおける共通の“モノサシ”が必要になると、みずほリサーチ&テクノロジーズ 掛川紀美子氏は指摘する。「カーボンニュートラルにおけるCO₂削減目標のように、誰が見ても分かる尺度が必要です。ヘルスケアに関しても、先進企業が独自の計算方法でインパクト開示を進めています。例えば、感染症の治療や予防により生まれる健康な時間から増加付加価値を算出。社会や環境に対する影響をいかに数値化するか。今注目しているのは、QOLへの着目から、生存期間に障害度を加味した統合的な健康指標DALYs(障害調整生存年)です」(掛川氏)。

グローバルヘルスでは、未来に投資する視点が重要になると國井氏は強調する。「例えばビル&メリンダ・ゲイツ財団は、世界の健康格差是正に膨大な投資を行っています。投資先選定の判断はインパクト。どれだけ命を救えるか、感染症を予防できるか、社会をよくできるか。失敗の可能性が高くても、成功した際の社会改善インパクトを見据えて投資する。その観点からGHIT Fundに投資してくれており、我々も研究開発への助成ではなく投資と呼んでいます。リターンは健康改善、社会価値の最大化です」。

グローバルヘルス分野の投資先評価について末吉氏も言及する。「感染症を流行地域だけでなく、グローバルの課題として捉えることは、新型コロナウイルスの感染拡大で学んだことです。今、途上国の感染症対策に寄与することが、日本の予防に役立つ。“将来のインパクト”も投資における意思決定の重要な軸です。また、新規性とイノベーションの2つのポイントを重視。投資先がアウトカムを出せるかを見極めるために、透明性を持つ情報開示をすることが基本です」。

グローバルヘルスの課題解決は、政府、医療従事者、非政府組織(NGO)、企業など様々な立場の人が関わることで初めて解決できると掛川氏は言う。「共通の“モノサシ”のもと、エコシステムを形成し、企業単位はもとよりコラボレーションによるインパクト創出がより大きなアウトカムを生み出します」。

國井氏は、「GHIT Fundの核はパートナーシップです。新薬の研究開発では、日本企業や研究機関が海外の企業や研究機関、国際開発パートナーなどと一緒に取り組むことを投資条件に掲げています。化学反応により研究開発の質やスピードが向上できるからです。付加価値を生み出す多様性のもと、エコシステムを広げていきたいと思います」と力を込める。

コラム「三者三様」

グローバルヘルスは、CO₂削減のようにムーブメントを起こせるか?

末吉 中長期的な観点から、インパクト評価はイノベーション促進につながります。財務的リスクを考慮しながらも、将来の価値に対して投資するというのも意思決定の軸になっていくと思います。分かりやすい例が、脱炭素化に向けたCO₂削減です。最近では、CO₂削減のインパクトを説明しないファンドはほとんどありません。企業はCO₂削減量をKPI目標として設定し、そのゴールの達成に向けて取り組みを進めていくわけです。一方、グローバルヘルスは、ゴールが何か、またKPIをどう設定し、その進捗を評価するという体系については、まだ高度化の余地があるように感じます。大きなうねりにするために取り組みの効果を見える化することで、企業の行動変容の促進が期待できるのではないでしょうか。

國井 CO₂削減も、当初は自分とは違う世界の話だと思っていた人が大半でした。しかし、異常気象による災害などで企業も“自分ごと”として実感できたことが、行動変容につながったのだと考えています。また国際的な動きの中で、無関心でいることはできないという機運も醸成されました。コロナ以前感染症の流行は、遠い国の出来事であり、“自分ごと”として捉えることが難しかった。しかし、新型コロナウイルスにより状況が一変しました。この未知の感染症は世界中に拡大し、多くの人の命を奪い、社会、経済にも大きな影響を及ぼしました。気候変動と同様に、感染症問題も、国や地域を超えて“自分ごと”として捉えるテーマと考えるべきです。

掛川 今回のコロナ禍で、感染症が身近な存在になったと感じています。健康は、誰もが直面しうる課題で世界共通のテーマ。国民皆保険制度のもと、日本の保健医療は最高水準を達成していると言われていますが、その一翼を担ってきた日本企業の技術力をグローバルヘルスに活かす余地は大きいはず。SDGsの目標3は「すべての人に健康と福祉を」です。目標達成に向かって進むうえで共通の“モノサシ”が必要です。今は企業独自で算出しており、取り組みの度合いも企業によって異なります。グローバルヘルスにおいてもCO₂のように、ステークホルダーが評価できる尺度があれば、全体のインパクトは大きくなっていくと思います。

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