生産年齢人口の急速な減少によって、GDPの縮小、社会保障支出の増加、介護の人手不足などが一気に深刻化する「2030年問題」。
そのインパクトは、とりわけ企業活動に大きな影響をもたらす。労働力の減少によって人手の確保がますます困難になれば、持続的な成長や企業価値の向上は望めず、事業の存続すら危ぶまれるからだ。
日本の大手企業は、この課題にどう向き合っているのか?
「人口減少によって労働力不足に陥りかねないという課題は、世界の中でも日本がいち早く直面しているものです。逆に言えば、そこを乗り越えられる方法を見つけることで、大きな社会課題を解決するソリューションを世界に発信できることになります。その意味で、『2030年問題』はピンチである半面、大きなチャンスと言えるかもしれません」
そう語るのは、NECで執行役 Corporate EVP 兼 CHRO 兼 ピープル&カルチャー部門長を務める堀川大介氏だ。
堀川氏によると、NECは、先進的な取り組みをまず自社で実践する「クライアントゼロ」というスタンスを重視している。「『2030年問題』の解決についても、様々な対策を自ら試し、その成果をお客様や社会に還元していきたい」(堀川氏)と考えているという。
一方、「生産年齢人口が減少すると、世代別の従業員数もいびつになっていきます。いまだ日本企業に根付いている年功重視の発想ではなく、能力のある社員にチャンスを与える人材登用がますます求められるのではないでしょうか」と語るのは、富士通 執行役員SEVP CHROの平松浩樹氏である。
平松氏は、社員が会社や職場の人々とのエンゲージメントを感じ、やりがいのある仕事に取り組めば、個人として成長がもたらされると考えている。おのずと1人当たりの生産性も高まり、会社そのものの成長にもつながるわけだ。
ただし、「日本企業は、社員の退職率は低いものの、会社に対するエンゲージメントも海外に比べて低いという調査結果をよく目にします。転職したい気持ちを抱えながらも、今の会社で働いている社員が多いということでしょうね」と平松氏は語る。
社員が仕事にやりがいを持てないまま働いているようでは、生産性は上がらない。エンゲージメントの強化が、企業にとっていかに重要な取り組みであるかが分かるだろう。
では、海外企業は、社員とのエンゲージメント強化のために、どんな取り組みを行っているのか?
「海外では従業員エクスペリエンスの向上がそのカギになると考えられています。具体的にはグローバルに事業を展開する企業を中心に、従業員向けサービスを提供する組織としてグローバルビジネスサービス(GBS)を始める企業が増えています。シェアードサービスを発展させたもので、コスト削減だけでなく、最高の従業員エクスペリエンスを提供することを目的としています」
と語るのは、ServiceNow Japan 従業員エクスペリエンス営業本部 本部長の壹岐隆則氏である。
GBSは、人事や総務、ITなどの部門ごとに縦割りで提供されていた業務や体制、システムを従業員視点で1つの従業員サービスとしてリデザインするものだ。社員は、あらゆる社内サービスの申請や手続きがワンストップでできるようになり、いちいち「どの部署に、どの方法で申請すればいいのか?」といったことを確認する煩わしさが減る。結果として業務に専念できる時間が増え、生産性も上がるわけだ。
富士通の平松氏も、「日本企業は、終身雇用を前提に長い目で見た育成をしてきたので、社員のキャリアやエンゲージメントへの注力が弱かった。しかし、これからはエンゲージメントを大切にしない企業は成長しません。日本企業は人を大切にするということを、もっと個に向き合う形で取り組む必要があるのではないでしょうか」と語る。
一方、「企業が成長するためには、多様な人材を受け入れ、育てることも重要です」と語るのは、NECの堀川氏である。
同社は昨年、約600名の新卒社員の採用計画を立てていたが、それとほぼ同数のキャリア採用も毎年のように行っているという。外部でキャリアを磨いた人材を継続的に受け入れることで、変化に柔軟に対応できる会社であり続けたいと考えているからだ。
ただし、「多様性を実現すれば、社内に変化が起こるというわけでもありません。プロパーの人材と外部から採用した人材をいかに融合させるかが大切です。その意味で、インクルージョン(包括性)を備えた会社であり続けることも重要なテーマだと言えるでしょう」と堀川氏はアドバイスする。