2030年問題に打ち勝つために日本企業が取るべき対策とは

生産性向上のため
生成AIのさらなる活用を

生産年齢人口の減少に対応して1人当たりの生産性を上げるためには、先端テクノロジーをいかに活用していくかということも重要なテーマとなる。

富士通の平松氏は、「コロナ禍を受け、社員やチームが最適な時間や場所を選択して働く『Work Life Shift』というコンセプトを導入しました。”この働き方であれば管理職に挑戦してみたい” という女性社員も増え、さらにポスティング制度の手上げによる管理職登用の仕組みも相まって、女性管理職比率の割合が高まってきています。この働き方が社会課題や個人の生活の充実、キャリアの可能性を広げることにポジティブなんだということをデータとして示していきたい」と語る。

現在、富士通の出社率は2割程度。残り8割が在宅やリモートで働いているが、社員へのアンケート調査では「オフィスで働くのと同等か、それ以上の生産性を維持できている」との答えが8割以上に上ったそうだ。

一方、生産性向上のためのテクノロジーとして、生成AIのさらなる活用を提案するのはServiceNowの壹岐氏だ。

壹岐氏
ServiceNow Japan合同会社
従業員エクスペリエンス営業本部
本部長
壹岐 隆則
大手コンサルティングファームで10年以上にわたり人事コンサルティングに従事した後、大手グローバル企業の人事部で労務、人事サービス、総務、デジタルHRの担当部長を歴任。2019年12月より現職。一貫して人事のDXを内外から支援している。

「先ほど岩本特任教授が指摘されたように、テクノロジーでできることはテクノロジーに任せ、人は『人にしかできない仕事、さらに言うと、個人の強みを活かした働き方』に専念できるようにすれば、生産性は飛躍的に向上します。そのために生成AIを活用するのです」(壹岐氏)

壹岐氏は、「誰しもが強みと弱みを持っており、それをトータルで満たす仕事を選ぶと選択肢は限られてしまう。弱みや時間のかかる作業は生成AIなどのテクノロジーでフォローし、強みに時間をかけて専門性を磨く、またはリスキリングすることで仕事の選択肢も広がり、結果として継続的な生産性の向上と日本の人材不足解消につながる」と指摘する。

NECの堀川氏も「テクノロジーのほうが人よりも優れているという領域ははっきりしてきている。デジタルやAIなどのテクノロジーを活用できるところは、とにかく積極的に活用していこうというのが当社のスタンスです」と語る。

「一方で、人にしかできない仕事もたくさんあります。国レベルで見れば、全国各地で長年受け継がれてきた伝統技術などもその一つと言えるでしょう。そうしたテクノロジーに置き換えにくい技術は、国が産学官のエコシステムなどを作って継承していくべきではないでしょうか。NECでは社員が有志で、スキルを活かしたプロボノ活動を行い、社会に貢献する取り組みも以前から実施しています」(堀川氏)

「変わり続ける」という意識を
社員に根付かせる

生成AIの活用について、ServiceNowの壹岐氏は「いずれも技術の進化が著しいので、新しい技術を積極的に採り入れ、使ってみることが大切。トライ&エラーを重ねることで、どんどん応用範囲が広がり、生産性も向上していくはずです」とアドバイスする。

富士通でも、生成AIを業務に利用するトライアルが積極的に行われているという。

「当社の人事部門では、8万人の社内サーベイの回答結果をまとめる作業に生成AIが活用できるかどうかを試しています。答えが定型化されていないフリーコメントのまとめは、人間が行うと4、5時間かかってしまいますが、生成AIなら30分で処理できるといったように、圧倒的な効率化を実現します」(平松氏)

「ただし、結果をまとめて終わるのではなく、生成AIによって取り戻した時間で現場の人や他の部門を巻き込み、その結果の背景や解決策を深掘りするなど、人はさらに付加価値を生むところにコミュニケーション能力や好奇心を活かしていくことが重要だと思います」と平松氏は指摘する。

最後に、「2030年問題」と向き合っていくために、日本企業はどうあるべきなのか?という本質的な問いを投げ掛けてみた。

「常に変化の激しいグローバル競争の中で戦っている感覚を持ち、自らも変わり続けようとすることが大切です」と提言するのはNECの堀川氏である。

「過去十数年を振り返ってみても、日本企業は新興国企業やGAFAの台頭といった大きな変化に直面し、それに対応すべく事業ポートフォリオの組み替えを進めてきました。ジョブ型の人事制度や、多様性を持った組織が志向されるようになったのも、それがはやりだからではなく、競争に勝つために必要だったからです。『勝つために変わり続ける』という意識を根付かせ、そのために社員一人ひとりが自ら考え、行動するようなカルチャーへの変革が求められているのではないでしょうか。それによってお客様により良い価値を提供できるようになり、社会に貢献できるようになります。日本はコロナのときのように、与えられた環境に柔軟に適用していくときのスピード感は早い。『ピンチをチャンスに変える動き』が得意なのではないかと感じています。これを2030年になって取り組むのではなく、日ごろから発揮することで、日本は強くなれると信じています」(堀川氏)

富士通の平松氏も、「変わり続けること」の大切さを強調する。

「会社が変わり続けるために重要なのは、社員に『変われるんだ』という自信を持たせることです。『自分の働き方やキャリアプランには制約がある』と社員が思い込むと、変わろうとする意識は働かなくなってしまいます。固定的な組織ではなく人が流動する組織になると、人はチャレンジをし、学び、意識改革がしやすくなります。また、マネージャーは組織を維持・拡大するために、エンゲージメントを高める意識を持つようになり、それがキャリア採用にも活きてきます。我々日本企業は、ピンチだということを本気で深刻に考え、小手先ではなく本質的かつ全体的に変えないと対処できないと考えるべきです。ただ、そこを乗り越えられるとこんな未来が実現できるというイメージを持つ。そうでないとスピードも上がらない。生産性の向上がウェルビーイングにつながるということを意識して大胆に変えていくことが重要だと思います」(平松氏)

ServiceNowの壹岐氏は、「社員の生産性を上げるためには、ストレスのない働きやすい環境を整え、エンゲージメントを高めることが大切。カギになるのはスピード。何年も待てないのは自明です。世界は日本がどう変わるのかに注目しています。日本企業が先んじて創り上げれば、『2030年問題』を克服するだけでなく、グローバル競争にも勝ち抜けるのではないでしょうか」と語る。

2030年は、決して遠い未来ではない。すぐにでも動き出すべきだ。