「時間」を生み出す
横浜市の行政サービスを支える
デジタルプラットフォームとは
「デジタル×デザイン」で
業務そのもののあり方も見直す
22年に「横浜DX戦略」を始動させた横浜市。その背景について、福田氏は「少子高齢化、市民のニーズの変化、技術の進歩への対応という3つの課題がありました」と説明する。
少子高齢化と、それに伴う人口減少は、大都市である横浜においても深刻な問題だ。
福田氏によれば、横浜市の高齢者人口(65歳以上)は40年に現在より25%以上増加。対照的に15歳から64歳までの生産年齢人口は、現在よりも15%近く減少すると予測されているという。
生産年齢人口が減ると、行政サービスの担い手である市職員の確保も困難になる。
「今のサービスのやり方を維持したまま職員の数が減少すると、40年には職員1人当たりの業務量が約1.5倍になる恐れがあります。もちろん、とてもこなせる量ではなく、業務の効率化・自動化を推し進めて職員の負担を軽減することは避けて通れません。業務のデジタル化は、そのための現実的な選択です」(福田氏)
一方、1人1台のスマートフォンが普及したことで、行政サービスに対する市民のニーズも大きく変化している。同一のサービスを大量に提供するのではなく、一人ひとりに合ったサービスの提供が求められるようになってきたのだ。
「377万人すべてにパーソナライズされたサービスを提供するのは、デジタルの力を使わなければ絶対に不可能です。幸いなことに、それを助けるAIやロボットなどの最新テクノロジーはどんどん進化を遂げています。目まぐるしく変化する技術のトレンドにしっかりと目配せし、新しいものを積極的に採り入れることで、行政サービスの改善と職員の業務効率化を加速させていきたい」と福田氏は語る。
「横浜DX戦略」では、ただデジタルを採り入れるだけでなく、それによってサービスや業務そのもののあり方を見直す「デジタル×デザイン」のほか、企業や大学、団体など、様々な主体と連携して行政や地域の課題を解決する「創発・共創」、デジタル技術の活用で、市民や職員の「時間を生み出す」ことなどをコンセプトに掲げている。
さらに、「財政収支の改善と歳出の最適化に向けて、データに基づく政策・施策・事業の行政経営を実現することも、大きなテーマの一つです」と福田氏は説明する。
その取り組みの一環として、市の予算管理などを行う財政局は、新たな予算・財務情報管理システムを構築。システムを支える基盤の一つとしてServiceNowを採用した。
限られた予算を効果的に活用し、政策の優先順位を適切に決定するためには、各事業の見える化が不可欠だが、既存の財務会計システムでは、支出項目に詳細なコードを振れないなど、見える化できないことが課題だった。
福田氏は「既存の自治体用会計システムでは、各事業を細分化し、より詳細に把握できるようなタグ付けなどが難しかったため、新たなシステムの構築に取り組みました」と述べる。
表計算ソフトで行っていた予算集計を
ServiceNowで効率化
横浜市のように巨大な地方自治体では、予算規模が非常に大きく、事業の種類や量も大規模となる。年度ごとの予算要求や執行管理等は財政部門をはじめ事業所管部門において、大きな事務量となっている。
もちろん、職員の負担を抑えるため、横浜市は早くから業務のシステム化を図ってきた。
しかし、「以前のシステムは、各部局から上がってくる表計算ソフトのデータをまとめ上げてから投入する仕組みだったので、システムに入れるまでの手作業が多く、必ずしも効率的とは言えませんでした」と語るのは、横浜市財政局の市川 緑氏である。
財政局 財政部 財政課
新財務会計システム構築等担当課長
市川 緑 氏
予算案の編成に当たっては、市議会で議決された中期的な計画の政策を基に、政策を実現するための施策を年度ごとの事業へと落とし込む。各事業の現場において必要な予算を見積もり、各事業局がこれを取りまとめて財政局へ提出し、編成作業を進めていく。
従来は、この見積もりと取りまとめの作業が、すべて表計算ソフトで行われていたのである。
「表計算ソフトなので入力ミスはありますし、何度も取りまとめているうちに、計算ミスや抜け漏れが発生することもあります。そもそも、取りまとめる作業自体が膨大な時間を費やすので、何とか効率化したいと考えていました」と市川氏は振り返る。
この問題を解決するため、財政局は予算・財務情報管理システムを刷新し、24年度予算編成業務より部分的に稼働させてきた。その基盤として、柔軟なデジタルワークフロー機能を備えたServiceNowのStrategic Portfolio Management (SPM)を採用した。
その結果、各事業のデータがツリー化され、事業の現場が予算の見積もりを入力すると、施策ごとや、政策ごとの予算額をシステム上で集計することが可能に。導入初年度のため現場には手間取る姿も見られたというが、転記作業の削減等が実現し、業務の効率化を進めながら予算案を取りまとめることができた。
予算議案作成についても、以前は表計算ソフトを基に別のプログラムで原稿を作成し、PDF化して印刷会社に提出していたが、今ではPDF原稿を出力できるソフトウェアと連携し、システム内で直接原稿を出力できるようになった。これにより、予算要求から予算議案作成までを1つのシステムにて一気通貫で行えるようになったという。
「手作業の量が減ったことで、これまで必要としていた膨大な確認作業の効率化が図られたことも大きな効果です」と市川氏は評価する。
また、これまでは見えにくかった「どの事業が、どの施策、どの政策に関連しているのか」というつながりが体系的に管理しやすくなったことも、大きな導入効果だという。
単純集計等の作業時間が減ることで、その時間を使って予算案の内容が精緻にレビューでき、各施策に対する予算の使い方もより吟味しやすくなることが期待される。システムの刷新により、効率化にとどまらない「質の改善」にも結びついていく。
予算・財務管理システム